「お嬢ちゃん、知らなかったのかい!」
マドック先生は一瞬、目を丸くしましたが……。
すぐに、元通りの表情に戻りました。
「……いや、説明してないなら、わかるわけなよなあ、うん。魔法学院に求人した際も、そこまでは言ってなかった気がするし……」
少し下を向いて自問自答してから、マドック先生は、顔を上げて私と目を合わせます。
「そう、お嬢ちゃんの言う通り。俺はあちらの世界から来た転生者だ」
転生者。
ここ私たちの世界とは違う、あちらの世界から来た人々です。
あちらの世界で一度は死んだにもかかわらず、神様から「このまま死なせるのは惜しい」と認められて、私たちの世界の人間として生まれ変わるらしいです。
そもそも神様から「惜しい」と思われるほどなので、私たちの世界には存在しないような、特別な知識や能力を保持しています。その上、それらを活かすための特殊技能まで、転生の際に神様から与えられるそうです。
そうした転生者の知恵や技術を取り込むことで、私たちの世界は近年、急激な発展を遂げてきました。
「わあっ、すごいですね!」
思わず叫んでしまう私。
少しマドック先生を見る目が変わりました。
でも。
「何が凄いもんか。転生者だって、普通の人間だ」
マドック先生は、吐き捨てるように言いました。謙遜ではなく、本心からの言葉のようです。
どうやらマドック先生、転生者だからと区別や差別されるのが、お気に召さない様子。
「ああ、そうですね。でも……。転生者ということは、マドック先生も、何か特殊技能があるのでしょう?」
マドック先生の口元に笑みが浮かび、同時に、眉間にシワが。
先ほども見たような表情ですが、これが彼の『苦笑』なのだと、ようやく私は理解しました。
「お嬢ちゃんの言う通りだな。それに関しては、俺も感謝してるが……。まあ、背が高いとか、足が速いとか、そうした誰にでもある『特徴』の一つに過ぎん」
いやいや。
転生者の特殊技能というものは、そんなレベルではなく、人間離れした超能力のはずですが。
でもマドック先生がそう思いたいのであれば、あえて反論はしません。
黙って耳を傾けていると、
「俺の特殊技能は、ザ・リコンビナント。魔法で recombinant virus、つまり組換えウイルスを作る能力だ」
マドック先生が説明してくれます。
しかも『ウイルス』という単語が含まれているので、かなり重要な話です。特に、お店で売っているポーションのことを『ウイルス』だと思っていた私にとっては。
「……まあ確かに、この能力のおかげだからなあ。冒険者のステータスに関わる遺伝子をウイルスに組み込んだり、そうしたウイルスをポーションとして店で販売したり出来るのは」
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