その日。
魔法学院を卒業したばかりの私は、慣れない街の中を歩いていました。
今のご時世、王都できちんと魔法を学んだからといって、思い通りの仕事には、なかなかありつけません。だから冒険者なんて、あやふやな身分の者が増えるのでしょうが……。
少なくとも私は、モンスターと戦ったり、傭兵の真似事をしたりするために、魔法を習得したわけではありません。私の目指す道は医療系。その先にあるのは、回復魔法を活かした医療士になることでした。
でも。
「医療士ねえ……。あいにく、どこの医療機関でも、今は職員募集はないね。少なくとも、うちには求人の話は来てないよ」
学院の就職斡旋窓口では、そう言われてしまい、がっくりとうなだれたところ。
「ああ、そうだ。これなんか、どうだい? 医療機関とは、ちょっと違うけど……」
係員の言葉に、私はパッと顔をあげました。
「……特殊なポーションを売ってるお店。そこで、医療系の知識のあるお手伝いを募集してる。一応、あんたの希望に少しくらい、かすってるんじゃないかねえ? 場所は、地方都市レナトゥスだから、ちょっと遠いけど……」
ポーションと言われて、私が真っ先に思い浮かべたのは、回復薬でした。しかも『医療系の知識のある者を募集』という話。そういう仕事ならば、医療士を目指す上でも、大いにプラスになりそうです。
どう考えても、モンスター相手の冒険者になるより、よほどマシでしょう。
「ぜひ! その求人案件、私にください!」
エサに飛びつく飼い犬のような勢いで、私は窓口の中へ身を乗り出しました。
その結果。
こうして、手書きのメモを見ながら、地方都市レナトゥスの北地区を歩いている私です。
通りを歩く人々は、王都で見かけた人たちとは、なんとなく雰囲気が違います。『庶民』ということなのでしょう。でも『ならず者』とか『ゴロツキ』といった感じではないので、少しホッとしました。
「白い壁と赤い屋根が目印の、小さなお店……」
線と記号ばかりの、手書きの地図。そこに書き込んだ、唯一の言葉。それを口にしながら、足を進めると……。
見えてきました。
赤いトタン屋根が乗っかった、白い石造りの建物。
あれが、今日から私が働くお店です!
「さあ!」
自分に気合を入れるように、一言、力強い声を発すると。
お店に向かう私は、自然と、足早になりました。
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