いちアニマルとして

きりたつみき
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【エジソン】 モルモット オス 4歳 -3-

公開日時: 2021年3月15日(月) 21:18
更新日時: 2021年3月21日(日) 21:40
文字数:1,510

藁に顔をうずめる時間は至高であり、思考である。 

 

それからというもの、少年は我々のもと(少しばかり傲慢な表現であるが)をよく訪れた。週末の少年であるときの彼は、無口で周囲を見渡し、どこか寂し気な表情を浮かべている。そして嬉しくもあるが残念なことに、水曜日の少年でもあり続けた彼は、生き生きとした表情を浮かべて、私を相手に底の知れない知識の湖を展開する。 

 

少年の話を聞いているときに私の中に思い描かれるモノは、実に単調化してきている。 

【そのような理論が世の中には存在しているのか】 

【私も何か発明がしたい】 

そして 

【この少年について】 

である。 

 

一つ目に関して言えば、単なる私の感想である。もとより物事を知ることに飽きを知らない私であるから、実に、とても興味深く、そして何より嬉々として彼の言葉に耳を傾ける。ただそれだけのことである。 

 

二つ目、これに関しては感想ではなく野望である。リチウムイオン電池、太陽電池、燃料電池、彼は特に電池が好きなようであるが、どれもこれも私の想像をはるかに超えて、人々の生活を豊かにしているらしい。この話を聞いて、私も電池を作りたい、などと思うほど短絡的な思考は持ち合わせていない。まだ誰も知らない、想像することもしていないような、そんな発明をしたい、まさしく私の中を野望が駆け巡っている。 

 

そして三つ目。これに関しては、感情である。少年はいったい何者なのか。自身の名前を言うことすらしない、もちろん水曜日の少年であり続ける理由についても。少年が悩む理由がないのであれば、それに越したことはないのだが、何か心に引っかかる。 

 

以前、ルーチーンの成果報告会にて、皆に投げかけてみた。 

 

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「皆に聞いてみたいことがある。あの少年についてだ。私の経験上、ああした少年少女には何かしら抱えているモノがあるのだが、彼は一切そういった素振りを見せない。私にはわかりかねているため、皆の意見が聞きたい。」 

 

「エジソンは本当に人間の子どもが好きだなあ」 

 

「ぴーたろうよ。私が好きなのは人間の大人だ。子どもは知識のかけらもない。と、いうのはつい最近までの思い込みであったな。質問についての回答は?」 

 

「なんにもないなら、なんにもないよう」 

 

真っ先に言葉を発することには秀でている。 

 

「本人に聞いてみればいいじゃない。私ならそうするわ。」 

 

「本人に聞いてみる?どうやって。」 

 

「それはあなたが考えればいいわ。」 

 

含みを持たせた答え方に、にんじんが遠のくイメージが浮かび上がる。 

 

「なんてね、思い悩んでるあなたに意地悪するほど、いやな女じゃないわ。先週末聞いた話だけどね、人間は思っていることが顔に出るらしいわ。それでね、その顔に書いてあることを読めば、相手が言葉を発さずとも心を読み取れるらしいわよ。」 

 

「そんな技があったとは、なるほど!試してみよう!」 

 

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他者の優しさを無碍にはしない。仮にそれが人間の間で使われる言葉遊びだということを知っていても、それを表に出さない。これもまた、わびさびなのだ。この時の私の感情は【顔に書いてあった】のだろうか、と今になって疑問が浮かぶ。 

 

「皆の者、感謝する。次回少年に会うとき、今の方法を試してみよう。今日はこれにて解散!」 

 

試してみよう!か。自分の言葉に嘘をつくのは好きではない。すなわち施行するほかないわけである。 

 

「心配なのね。」 

 

余計な一言まで思い出してしまう。 

 

明日は水曜日。私に彼の顔が読めるであろうか。 


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