「そしてその憎しみを抱えたまま今、戦っていると」
「だろうな」
とすると、次の対決はかなり難しいものになりそうだな。皇帝の名を冠した大会。奴にとっては雪辱を晴らす機会だし。
「ただ戦うだけならいい。問題はドイデが何か仕掛けてきた場合だ」
ユピテルの言葉に俺は思い出す。
確かに、以前街を襲った時も、ドイデは策を打ったりしていた。また何か仕掛けてくるのだろうか。
「俺は会場にいて怪しい動きがないか見張っている。お前もムエリットとの戦いに専念しつつ警戒は続けてほしい」
確かに、俺はムエリットとの戦いで手いっぱいになると思う。ドイデのことはユピテルが主に面倒見ると思う。
「わかった」
そして俺は申し訳なさそうな表情になる。
「その──、ありがとうな」
「何がだ?」
ユピテルのぶっきらぼうな返事。俺は顔をほんのりと赤くして照れながら言葉を返す。
「本来は敵なはずなのに、ここまでしてくれて」
「敵の敵は味方、そういうことだ。期待はするな」
ユピテルは平然とした口調で言葉を返した。
まあ、そうだよな。共通の敵なら、感情に流されなければそうなる。それにこういう敵は被害が拡大しないうちに片づけておいた方がいい。
「わかったよ……」
俺がそう言って言葉を返すと──。
キィィィィィィ──。
誰かが部屋に入ってくる。慌てて俺は魔法少女の衣装に変身。
「まさかこんなに早くお前と戦えるなんてなアグナム」
「そうだね、これも運命ってやつかな?」
そして俺とムエリットは強く握手をする。
「んで、『勇者』のユピテルは、何でここにいるんだ?」
「次は負けない、だから勝って来いと喝を入れただけだ」
さすがに内容は言えない。うまく理由をごまかした。ムエリットはそれを信じ切ったようでどや顔でユピテルを指さし。
「悪いがそれはかなわねぇな。こいつはこの俺が倒しちまうんだからよ。決勝戦で待ってるぜ!」
「──好きにしろ」
ユピテルは無表情になり後ろを向いて更衣室を去っていく。よし、これで俺との話はばれない。
「じゃあ、互いに全力で戦おうぜ!」
「ああ!」
互いにガッツポーズをして意気投合をする。敵だけど、こういうところはシンパシーを感じるんだよな。
なんかあからさまに悪いやつじゃないからか、敵じゃなかったら友達になってもおかしくない。
そして俺たちも更衣室を出て、会場に向かっていく。
どんな戦いになるんだ? ドイデはどう出る? そんなことを考えながら。
会場へたどり着く俺とムエリット。観客席が視界に入るなり俺に声援が送られてくる。
「アグナムちゃ~ん。今日も頑張って、応援してるよ!」
「やっぱりかわいいよな。今度デート行こうよ」
デートの誘いは無視するとして、有名になっちゃったな……。
さすがに男とデート出来るほど心は女の子になっていない。
そして俺が所定の位置につこうとしたとき──。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!
観客席から大きな爆発音。俺や観客たちの視線がそちらを向く。
そこにいた人物は──。
「ドイデ、ここは貴様が来る場所ではない」
茶色く筋肉質な肉体。ドイデであった。
「やはり来ていたのか。けど今日はお前の好きにはさせない!」
俺がドイデに向かって叫ぶ。すると観客席からサナとレテフも飛び出してくる。
「私のアグナムに、そんなことはさせないわ」
「そうだよ。アグナムちゃんは大事な試合なの。絶対壊させはしないよ!」
そしてユピテルも飛び出してくる。
「貴様。俺がいる目の前で、やりたい放題が通ると思うな!」
「そうだよ。私達だっているんだよ!」
「いくら強いといたって複数対2人じゃ勝てるわけないでしょ」
ユピテルやサナの言葉に押されてか、観客席にいた魔法少女たちも数人ほど出て来た。
さすがにこれだけの人数を相手にするのは難しいはずだ。魔獣を呼ぶのか? そう考えてたのだが。
「フッ。本当にそれを恐れているのならこんな表立ったことはしない。寝込みを襲ったりしている。こうなることを予測したうえで俺はここにいるのだ」
そしてドイデは左手を上げ、ピッと指をはじく。
(なんだこれは──)
俺たちの足元一帯に紫色で星の形の紋章が現れる。何を意味しているか俺にはわからない。
本能的の俺は左足に魔力をこめ、その場から脱出する。それを見たサナとレテフがこの場から離れようとした瞬間──。
「おせぇよ!」
ドイデが手をかざすと、その手がまぶしいくらいに強く光り始める。次の瞬間。
紋章が強く光り始める。その場から逃げきれなかったサナとリヒレの姿が見えなくなるくらいに。
「サナ!! リヒレ!!」
そして2~3秒もするとその光が消え、2人の姿が見えるようになる。しかし──。
「攻撃を、受けてない?」
特にダメージを負った様子はない。2人ともきょろきょろとあたりを見回している。何が起きたか理解していないようだ。
「私たちに、何をしたの?」
レテフがドイデを睨みつけながら叫ぶ。ドイデは腕を組んだまま彼女をにらむ。
「フッ。こういうことだ──」
そしてドイデは右腕を上げ、ピッと指をはじく。すると──。
「あっ──」
その瞬間。2人の目から完全に生気が消える。うつろで焦点が定まっていない。
いわゆるレイプ目というやつだ。まるで2人の意志がそこにないかのようだ。
「2人に何をする気だ。今すぐ元通りに戻せ」
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