カグヤは右手を大きく上げる。
その瞬間彼女とホロウが真っ黒に光だし、姿が消えてしまった。
「と、とりあえずはホロウは去ったか」
「だが、あの言い方だとまたあいつはこの街を襲ってくるだろう」
ユピテルの言う通りだ。確実にまたカグヤはやってくる。
それも今度は魔力切れを起こさないように策を施して。
そうなったら今の俺たちの彼女を止める手段はない。
「俺たちは、どうすればいいんだ……」
そう悩み始めた時、誰かが話しかけてくる。
「すまぬが、わしの話を聞いてくれるかのう」
「あ、おじいさん……」
現れたのは先ほど街の不要たちに絡まれていたエルフの老人ラグナであった。
「おじいさん、どういうことなの?」
サナがその話に食いつくと、ラグナはとんでもないことを口にする。
サナがその話に食いつくと、ラグナはとんでもないことを口にする。
その言葉にこの場が騒然となる。
「モルトケは、わしの孫じゃ。おそらくは彼が陰でこのことを糸を引いているのじゃろう」
「やはりか」
「ユピテルは、わかっていたのか?」
「ああ、鉄束団と同じ力を感じた。だから何かあいつらともかかわっているだろうとは感じていた」
驚いた。あいつのおじいさんだったとは。そしてラグナさんがモルトケのことについて話し出す。
「わしたちは、もともと別の世界にあるエルフの村に住んでいた」
「別世界?」
その言葉にサナが首をかしげる。以前遺跡で聞いた事があるな、その手の話を。それが関係しているということか?」
「村は貧しく、周囲の村との小競り合いこそあったがそこそこ平和に暮らしていた。そこにさっき見たような巨大な魔物が出始めた」
「戦ったのか?」
「ああアグナム。もちろんわしたちもただでやられるわけにはいかなかった。彼らと戦うための組織『レジスタンス』を率いて全力で戦った」
そして暗い表情になるラグナさん。どうなったかをすぐに理解した。
「──勝てなかったんだろう」
「ご名答だユピテル。わしたちは魔物を倒すことができなかった。故郷が破壊され、仲間達を失っていく中でモルトケやわしたちは絶望に明け暮れていた」
そんなことがあったのか。しかし気になることがある。
「じゃあなぜ貴様はここにいる。一人逃げてきたというのか?」
ユピテルの言葉通りだ。問題なのはその後だ。するとラグナはさらに言葉を進める。
「モルトケじゃ。モルトケは自らを犠牲にして何とかホロウを撃破した」
──その言葉に俺達は言葉を詰まらせる。以前の鉄束団の中にも命を散らせてよみがえったやつがいたと聞いた。モルトケもそのタイプだったのか。
「そして聞いたのじゃ。モルトケが鉄束団として生き返り悪事を働いていると。そしてわしたちモルトケを信頼している者たちは魔力を使いこの世界に来た。そして難民と偽ってこうしてここに住んでいるのだ」
なるほどな、自分たちの仲間や、孫が悪事を働いているというのは聞いていてつらいだろうな。俺でも、同じことをしそうだ。
するとユピテルはラグナに一歩踏み出して質問をした。
「それで、アイツを止める手段はあるのか? まさか空手で止めに来たというわけではないだろう」
「ああ、わしに一つの考えがあるのじゃが、話を聞いてくれないかのう。サナ。わしにはあるんじゃよ。あの化け物を倒す方法が──」
その言葉にサナははっと驚く。
「ど、どうして私なんですか?」
「サナから感じたのじゃ。この街な何としてでも守り抜くという決意が。そしてわしが持って来た策というのは試練じゃ。それを越えた先にこそ強大な力が与えられるという事。そのために必要なのは、強い気持ちじゃ。どんな辛いことをしてでも、試練を乗り越えるという──。サナには、それを感じたのじゃ」
「私が、街を守れる……」
その言葉にサナがかすかに希望を感じている。しかし明るくはなっていない。
しかし同時にそれを乗り越えるには、それ相応の辛い覚悟をしなければいけないということだからだ。
それを理解しているであろうサナは言葉を失って考え込んでしまう。
そしてしばし時間がたつとサナがゆっくりと口を開き始める。
「私、この街を守りたい。お願いします、私に力をください」
街を守れる。その言葉にサナは驚いて食いつく。ここはサナの生まれた街。
愛する街だ。
それが守れるとならばサナに乗らない手はない。
たとえそれがどれだけいばらの道だとしてもだ。
「しかしサナ。それを手に入れるには、試練を乗り越える必要がある。もちろん大変なる苦痛が伴う。それにその苦痛に耐えたとしても、必ずしもその力を得ることができるとは限らない。乗り越えなければならない。それでもおぬしは試練を受けるというのか?」
「大丈夫。私、乗り越えるから!」
サナは即答で答える。理解していた、今の自分の力ではこの街を守ることはできない。だったら、強くなるしかない。
それがどれだけいばらの道でも──。
覚悟は、出来ていた。
「わかった。サナ、君ならきっと試練を乗り越えて、選ばれし力を手に入れることができる。信じてるよ。私は、試練を乗り越えで──、勝ちたい!」
拳を強く握ってサナが決意した。いつも隣にいるからわかる。これは、ハッタリなんかじゃなく、心からの決意だ。
「じゃあ、行くよ──」
「信じているぞ、サナ──」
サナは深呼吸をして目をつぶる。
その瞬間、彼女は気が遠くなるような感覚に襲われる。
そのまま彼女は意識を失う。
サナの街を守るための戦いが始まった。
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