雲一つない晴天の空。
まるでそれは彼女の心を表わしているようだ。
「今日は僕が作ってみたんだけれど、味はどう?」
今日の朝食は珍しく俺が作った。簡単なサンドイッチとサラダ。そして紅茶。
そこまで難しい料理は作れないから、こんなものになっちゃったけれど、サナはとても喜んでくれた。
「アグナムちゃん、ありがとう。料理、とってもおいしいよ!」
サナの満面の笑み。それを浮かべているだけで、こっちも嬉しくて、また料理を作ってあげたい気分になる。
いつもサナに料理を作ってもらって申し訳ないと思っていた。「たまには俺が作るよ」と言ったこともあったけど、サナは「大丈夫だよ。私料理作るの好きだもん」といって厨房に立たせてくれなかった。
けれど、サナが喜んでいるのを見て、そうなる気持ちが、なんとなくわかる気がした。自分のおかげで友達が喜んでいるのを見るのが、本当に嬉しい気持ちになる。
そして今日、なんで俺がそんなことをしたのか。それは簡単だ、サナに無駄な体力を使ってほしくなかったから。
理由は簡単。
今日は準決勝第2試合の日だからだ。
サンドイッチをかじりながら俺はサナに話しかける。
「今日はいよいよユピテルとの戦いだね」
「うん。ユピテルちゃん。強いけど、絶対に勝つよ。それで、決勝戦は全力で戦おう?」
「そ、そうだね……」
俺はちょっと引き気味に答える。サナの強い口調から、その意気込みがハッタリではなく、本当に勝つ気だというのがわかる。
そのために俺と作戦のシミュレーションや特訓だってしてきた。
それでも、サナとユピテルの間には埋められない差があるのはわかる。
「俺、サナが勝つのを信じるよ。頑張って。応援してるから」
それでも、俺はサナを信じたい。サナがユピテルに対して強い想いがあるのを知っているから。
サナは、フッと微笑を受かべて答える。いつものような元気いっぱいの笑みではなく、女神のような優しい微笑。
「──ありがとう、アグナムちゃん。私、頑張るよ」
そしてサナはサンドイッチの最後の一口に手を付け、紅茶をすすった。
俺も朝食を食べ終え、あと片付け。
そして二人で会場へと向かった。
会場に到着。レテフとリヒレと合流。サナは更衣室へ、俺たちは観客がいる場所へ。
準決勝、それもユピテルの試合だけあって会場はほぼ満員。席は満席なので俺たちは後ろにある手すりのところでサナの登場を待つ。
ほどなくして2人が出て来る。
2人ともいつもの衣装。
ユピテル、オレンジと緑を基調としたフリフリの飾りのローブ姿。下のズボンは短パンの様に短く、太ももと足のラインがよく見えている。
サナ、ピンクを基調とした、かわいげのある衣装。彼女によく似あっているかわいい系の衣装だ。
そしてその姿に観客たちが大声援を送る。
「ユピテル―、頑張ってくれ! 絶対優勝しろよ!」
「サナちゃーん。頑張ってー!」
大盛り上がりの中、2人は会場の所定の位置に立つ。そしてユピテルがサナに向かって剣を向け──。
「本当に、俺に勝つ気でいるんだろうな?」
と問いただした。
ユピテルはじっとサナを見つめながら言うと、サナは自信たっぷりの表情で言葉を返す。
「あたりまえだよ。勝つ気でいるから私はここにいるんだよ」
「そうか。それなら、容赦はしない。全力でかかってこい」
ユピテルは、いつもの毅然とした態度。そして両者膝を曲げ、戦う姿勢をとる。
審判が右手を天に向かって上げ──。
「準決勝、サナ選手VSユピテル選手。試合開始!」
その瞬間、目にもとまらぬ速さでユピテルがサナに向かって突っ込んできた。
サナはその攻撃に後退しながら対応していく。
「やっぱり、防戦一方ね、サナ」
「確かにそうだねレテフ。接近戦ではユピテルに勝てる魔法少女なんてまずいない。ましてや遠距離戦が得意なサナならなおさらだ」
「だから、サナちゃんはできるだけユピテルちゃん距離を取って戦う必要があるのよね」
「そうだね、リヒレ。けれど、それだけじゃだめだ」
両者の実力がわかっている俺だから言える。
サナがもし勝つとしたら相手が実力を出してくる前に倒しきる「短期決戦」しかない。
そのために必要なのは、相手に自分のプレイをさせないこと。「あれ? この戦いは何か違うぞ」と思わせることだ。
俺が依然、ユピテルが本調子になる前に一撃でユピテルを倒した時のように。
となれば普通に距離を取ろうとしただけじゃ、詰められて終わりだ。策がなければならない。
それもハリボテのような子供だましではなく、ユピテルに通用するような作戦だ。
勝利するために大事なのは2つ。自分の勝ち筋を見つけること、相手の勝ち筋をつぶすこと。
あれだけ自信満々に表情をしているんだ。何かあるはずだ、ユピテルを倒す方法が。
そして試合が動き始める。
距離を取り続けるサナにユピテルが突っ込んできたときのことだった。
「おい、勝つ気があるのか。逃げているだけじゃないか!」
ユピテルの挑発にサナは全く動じない。
「勝つ気は、ある!」
そしてサナは体を回転させ、自身の剣を思いっきり振る。剣からは1メートルほどの魔力の砲弾が出現し、ユピテルに襲い掛かる。
強大な魔力をともっているのがわかるが、ユピテルならこの程度防がれてしまうだろう。
事実ユピテルがその砲撃に合わせて剣を一振りすると、その攻撃は斬撃を相殺されてしまう。
しかし、この攻撃は無駄だったわけではない。
ユピテルが攻撃を相殺したため、一瞬だけスキが生まれたのだ。そしてそれこそがサナの狙い。
サナは自身の剣を天に向かって上げると、彼女の体と剣が一瞬だけ強く光りだした。
よし、これで準備は整った。
「今、何をした?」
「確かめて見なよ、ユピテルちゃん」
今まで押されていたとは思えない自信満々な表情。明らかに何かを誘っているのがわかる。
この時、ユピテルが何を考えているか俺にはなんとなくわかった。
「変な小細工なら、通用しないぞ!」
もし先日の様な、鉄束団みたいな組織との戦いだったら、もう少し慎重になっていただろう。
しかし、これは真剣勝負であると同時に2人の想いをぶつける戦いでもある。だから、サナの全力を真っ向からねじ伏せてみようと考えるはず。
ユピテルみたいな、自分の強さに自信を持っているタイプならね。
それに、ただ立っていても相手の戦術がわかるわけではない。だったら、ここは罠だとわかっていても相手に懐に飛び込んで見るのも方法の一つだ。
そしてユピテルがサナに突っ込んでいこうとしたその瞬間。
ドォォォォォォォォン!
ユピテルの足元が突然爆発し始めたのだ。ユピテルは瞬時に対応し魔力を防御に回したものの、完全に勢いを消すことはできず、その肉体が宙を舞う。
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