【サナ視点】
「──ここはどこ?」
一瞬だけ意識が遠くなるような感覚に襲われた後、私はゆっくりと目を開ける。
「これは、サテライト──?」
私は、ベッドにいたはずなのに気が付いたらサテライトにいる。
グォォォォォォォォォォォォォォォォ──。
この場一帯に響き渡る方向。
そして正面には十メートル近くある巨体。黒い光に包まれた、グロテスクで禍々しい外見。
さっき街を襲っていたホロウそのものだ。
「これが、試練なの?」
なんとなくだけど、そんな気がした。こいつを倒せば、いいってことなのかな?
けれど、その確証はない。
そんな現実かどうかわからない空間。その中で、巨大ホロウは暴れはじめ、街の建物を壊していく。
周囲から聞こえる悲鳴。逃げ惑う市民たち。
自分のほかに魔法少女はいない。
「ダメ、街を壊さないで!」
破壊されていく街。慌てて私は武器を召喚し、戦い始める。
頭より先に戦わなきゃという感情が私の脳裏を走る。
ここにいる魔法少女は私一人、アグナムもユピテルもいない。
それでも私はホロウに立ち向かっていく。
突っ込んでいく私に、殴り掛かってくるホロウ。
その一撃を交わし、ホロウの首元へ。その瞬間、私は感じる。簡単に出来過ぎていると。
罠ではないかと──。
けれど、逃げていても他に戦術なんてない。たとえ罠かもしれなくても、ここは一臂踏み込むしかない。
そしてホロウは私の首元へ、強力な魔力を纏った剣を振り下ろす。そして相手の首を一気に切り裂く──。
はずだった。
私の攻撃は確かに巨大ホロウの首元に直撃したはずだった。
しかし、私の剣はホロウの肉体に触れた途端、そこから全く進まないのだ。
まるで、その皮膚が鋼でできていたかのように──。
「うそ……、どうして──」
どれだけ両手に力を入れても私の剣はホロウの肉体に入っていくことはない。
そして──。
「しまった」
私が無理やり攻撃を通すと気を取られているうちに、ホロウの右手が私の肉体をガシッと掴む。
私は何とかもがいてホロウの手から脱出しようとするが、身体をもじもじとするだけでどうすることも出来ない。
圧倒的な力の差を感じる。
どれだけもがいても動くことはできない。
終焉の時はやってきた。わたしを握っている力が強くなっていくのを感じる。
まな板の上のコイの様に、どうすることも出来ない中で、ホロウは高笑いをした。そして──。
グシャッ──。
全身の感覚がなくなる。
私の意識はそこで閉じた。
【再びアグナム視点】
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「サナ、どうした」
サナが意識を失って数分。サナが突然バッと起き上がった。
引き攣った表情。ぐったりと全身から噴き出ている汗。
恐怖に染まっているのがわかる。
その表情に俺は心配になる。
「サナ、どうしたの。大丈夫?」
「う、うん……」
虚ろな表情、息を荒げて言葉を返す。目の焦点はあっていない。
明らかに何かあったというのがわかる。
サナの叫び声を聞いたのだろう。ユピテルとレテフもこの場にやってくる。
「どうしたサナ。何があった?」
「大丈夫。サナちゃん」
そしてサナの呼吸が落ち着いてくると、自身に起こったことを話し始める。
「なるほど、ホロウに挑むも全く相手にならず、惨殺される夢か──」
「……うん」
「そ、そんな──。どういうことなの?」
レテフは、震えていた。
するとユピテルが、どこか残念そうな表情になる。そして俺たちに向かって話し始めた。
「恐らく、本能がそう叫んでいるんだ」
「本能?」
「ああ、戦えば、間違いなく死ぬであるという事実にな」
圧倒的な力の差。闘えば、確実に自身の死が待っている。
サナの体は、その現実をすぐに理解し、サナが戦おうとするとそれを拒絶しだしたのだ。
「サナ、やっぱりその試練はやめた方がいい」
「ユピテル、何か知っているのか?」
「ああ、聞いた事がある。エルフたちに伝わる言い伝えだ」
そしてユピテルは深刻な表情でその話を始めた。
「あくまでイメージの中だけだけど、圧倒的な絶望の状況に追い込み、自身の生存本能を刺激して魔力を強制的に引き出す方法だ」
ユピテルの話に俺達は思わず言葉を失ってしまう。
「これを、エルフたちは進化したと説明しているらしい。あのラグナってやつの言っていた試練とは、このことだったのだろう」
彼らからすると、つよくなったというのは、海でしか生活できなかった生き物が肺を持って陸で生活ができるようになったこと、四足歩行から二足歩行で歩くことができるようになったことなどと一緒だと理解している。
しかし本来は何千年もの長い時間をかけて何世代も続けてこそ行うもの。
とても一人の人間が苦痛を受けて行うものではない。
「この方法で、ほとんどの人は精神に異常をきたすとも言われている。中には廃人同様になったり、命を落とす人もいると聞いている」
その言葉にこの場は騒然となる。
しかしサナはそんな言葉ではあきらめたりしない。しばしの時間がたつと、きりっとした強きな表情になり始める。
「ありがとう、ユピテルちゃん。私を気遣ってくれて。けれど、私やめない。今の私じゃあ、どのみち街は救えない。だからどんなに危険な道でもやるしかない。だから私、この試練を続ける!」
「ダメだ!」
「ユピテルちゃん。大丈夫だって、私まだ戦える!」
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