繊細て継ぎ目のない連続攻撃。通称「連撃」まるで芸術のようだ。剣術の速さでは、決して俺は負けていないと思う。しかし、カグヤの攻撃は一撃一撃のつなぎ目が滑らかでスキがない。
反撃をする余地が全くないんだ。
なんていうか、こういう行動をとらされているという感じがする。
視線や合間、そんな一瞬の駆け引きで誘導しているのだ。
少しずつ、選択肢が立たれ、彼女にとって都合の良い行動をとらされている感覚。
それから道を外すということは、彼女の攻撃をまともに食らうということだ。
けど、それしか道がないなら、やるしかないか。
俺は圧倒的な速さで繰り出されるカグヤの斬撃に、あえて身をさらす。
間一髪で致命傷を回避するが、右腕に切り刻まれた痛みが走る。
が、それにかまわずカグヤの胸を目掛けて剣を切り上げる。
しかし、その攻撃もカグヤは後ろにステップを取り、かすり傷だけで済ませてしまった。
すごいな、俺はすぐに後ろに飛んで間合いを取る。
傷は、双方浅い。魔力を集中させたからだが、そうしなければ勝負はついてしまっただろう。
「す、素晴らしいです。ここまで食い下がってくる相手はこの大会で初めてだ」
「誉め言葉、ありがとう」
この人、なんていうか気品があって礼儀正しい人だな。
友人としてなら、ぜひお付き合いしたい。
けれど、負けるわけにはいかない。
「でも、勝つのは俺だ!」
そう言って俺は一気に向かっていく。
カグヤも、それに応じるように戦いを再開する。
カグヤの、流れるような連続攻撃。
「私の連撃にスキなし。次で決める!」
俺は剣を立ててそれを防いだが、カグヤは手首を返し、そのまま上から打ち下ろしてくる。
いつもこうやって、相手が防ぎきれなくなるまでひたすらに切り込み続けているのだろう。
実力の方も申し分ない。素晴らしいの一言だ。
恐らく、単純な剣術では、彼女の方が実力は上だと思う。
それでも、俺は負けるわけにはいかない。
俺は、再びカグヤの出した攻撃を受ける。今度はわき腹──。
魔力を集中して出血を防ぐが、かなりの痛みだ。
そして、そのスキに俺は一気にカグヤに接近し攻撃に出る。
まずは腕の部分にヒット、しかしそれ以降はさすがに対応されてしまう。
カグヤは慌てながらもそれを受け流し、俺の方を見据えた。
やっとできた反撃のチャンス。絶対に逃さない。
カグヤは、力勝負では分が悪いと判断したのか賭けに出て来た。
俺に向かって踏み込んできた。そして再び連続攻撃を仕掛けてきたのだ。
その速さ、流れるようなかっこよさ。やっぱりすごいと思う。
だけど、カグヤにだって弱点はある。
彼女との戦いが決まった後サナに聞いたんだ。
「前回の決勝戦、なんでカグヤが負けたのかって?」
サナは戸惑いながらも、何とか答えてくれた。
「確か、ユピテルちゃんといい勝負はしてたんだよ。途中までは」
「それで、どうしてカグヤの戦術が崩れたか、教えてほしいんだ」
サナは腕を組んで当時の記憶をたどる。そして思い出したようで──。
「思いだした、確かユピテルちゃんが剣術勝負を捨てて回し蹴りを噛ましたんだよ。そしたらカグヤ、驚いて対応できなくて、そのままユピテルちゃんが押し切ったんだ」
──そう剣術は確かにすごい。けれどそれにこだわるあまりそれ以外の意識が薄い。遠距離攻撃も全くといっていいほどしない。
他の試合でもそう、剣術へのこだわりが強いのか、それ以外で全く戦おうとしない。
正統派の騎士といった感じだ。
俺は切っ先をカグヤの胸へと突き刺すが、カグヤはそれをギリギリでかわすと、剣を巻き込むようにして上からはじき返した。
その手をするりと伸ばし、カグヤの服のすそを掴む。
「勝つために、こういう手もあるんだ!」
「貴様、汚い手を!」
そして両手に力を込めてカグヤを投げ飛ばす。
カグヤはあっけにとられたような表情をしている。自分が何をされたか、理解していない様子だ。
そして空中で無防備になったカグヤ。これで勝敗は決まった。
「くっ、貴様っ!」
するとカグヤは剣を俺に向ける。白く光ったと思えば、俺との間に障壁を出してくる。
彼女の戦いは見たことがある。確か、強い障壁を出すことができないんだ。
これなら、俺の斬撃でも十分破壊できる。
そして俺は一気にカグヤに急接近。
「こんなこけおどし、俺には効かないよ」
カグヤの出した障壁をあっさりと破壊させる。そのまま空中で身動きが取れないカグヤに剣を振りかざし──。
ズバァァァァァァァァァァァァァァァ!!!
全力で力を込めた一撃を食らわせた。
カグヤの肉体はそのまま後方へと吹き飛び、会場の障壁にたたきつけられる。そしてそのままぐったりと地面に体が落下した。
勝敗を告げる声が、会場一体に鳴り響く・
「カグヤ選手、戦闘不能。勝者、アグナム選手!」
ウォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!
その言葉に周囲は大盛り上がりになる。
その瞬間、安堵のあまり両足の力が抜けそうになる。
けど、そんな気持ちを抑えてカグヤのところへと向かう。
何とか勝負に勝つことはできた。けれど、実力者というだけあって、やっぱりぎりぎりの戦いだった。
「カグヤ、いい勝負だったよ。お疲れさま」
カグヤはどこか納得いかないというような表情を浮かべながら俺の手をぎゅっと握り立ち上がる
「何だよ、同情してるのかよ──」
「そうじゃないよ。カグヤさん。すごい強かったと思う」
俺は優しく話しかける。しかしカグヤはプイっと
「同情の言葉なんて、いらない──」
悔しそうな表情の彼女の瞳には、うっすらとした涙が浮かんでいる。
あれだけユピテルと再選を望み、勝つと豪語していた。しかし、今回はそこにたどり着くことすらできなかった。
よほど悔しかったのだろう。
けれど、俺がするべきことはこんな同情なんかじゃない。
彼女の思いを受け継ぎ、勝ち抜くこと。
決勝戦。ユピテルとの決戦。
おそらく一筋縄ではいかないだろう。厳しいものになるのは間違いない。
それでも、絶対に勝つ。
そんな思いを胸に、俺はこの場所を後にしていった。
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