「あれ、治ってないニャ」
彼女の表情を見ても、演技でないということはわかる。そして俺の中に1つの予測がひらめき、ぞっとする。
「ごめんなさい、その、魔力が切れちゃったんだニャ」
俺の悪い予感は当たってしまった。ニャロロが魔法少女を猫語から解放する最後の方、額から汗をかき、若干苦しい表情を見た。まさかとは感じていたが──。
そしてニャロロはそれに気づき、観念したのか申し訳なさそうな表情に。
「多分明日くらいになったら魔力が回復すると思うニャ。それまで我慢してほしいのニャ」
まじかよ、ここにきてそんなオチかよ。
「アグナムちゃん。なんか、かわいいよ」
「うん、これはこれで──イイ」
「レテフまで……ニャ」
レテフは目をキラキラさせながら親指を上げる。嬉しそうで一杯だ。こっちは死ぬほど恥ずかしいのに──。
「明日、魔力が戻ったら絶対に戻すニャ。それまで我慢してほしいニャ」
しかし騒いだところでどうすることもできない。うなだれながら俺は首を縦に振るしかなかった。
「わかったよ……ニャ、明日まで……我慢するニャ」
その後、サナが自分の家の地図を描いてニャロロに渡す。ニャロロは申し訳なさそうに頭を下げた後、帰っていった。
そして、ニャロロの姿が見えなくなった後、サナが話しかける。
「でも、不思議なことがあるの」
「何?」
できるだけしゃべりたくない俺の代わりにリヒレが言葉を返す。
「精神操作系や、姿を消すステルス系。それも魔法使いの脳に干渉する魔術って、制御や消費が相当激しいはずなの。一般の魔法少女じゃ無理だよ。すぐに魔力が尽きちゃう」
「それは私も気になった。力を隠しているなら、アグナムとの戦いで出してたでしょうし」
「どちらにしろ、調べてみる必要があるね……、ニャ」
そうなのか……。
一つの事件が解決した一方新たな謎が生まれる。これは何かの伏線なのか。それとも考えすぎなのか、謎は解決しない。
「まあ、俺たちがやることは変わらない…。困っている人たちのために、闘い続けるだけだ」
すでに夕日は傾いている。もう夜になる時間だ。
まだまだこの事件には謎が多い。
そんな思いを胸に、俺たちは岐路についていった。
次の日、朝食をとった後、俺とサナが家の掃除を終わった後、約束の場所へ向かう。
俺はいつもより速足でその場所へ。ああ、早くこの言葉使いなおしてくれ。
目的の家の前に3人の少女がいた。
「アグナム。おはよう」
「おはよう、ニャ──。ニャロロ、早く術式を解いてほしいニャ」
「わかったニャ、すぐに解くニャ」
レテフ、そしてニャロロ。彼女が視界に入れた途端、すぐに駆け寄って術式を解いてもらうよう顔を真っ赤にして迫る。
本当に恥ずかしいんだ。この口調もう嫌だ、早く戻して。
そしてニャロロが両手を俺にかざす。両手が真っ白に光り、魔力がともっていくのがわかる。
俺の体が柔らかな温かさに包まれる。これで術式を解いてもらっているのだろう。
時間にして数十秒ほど、すぐに術式を解いてもらった。
「あっ、術式が解けてる。やった、嬉しい。やった! やった! やった!」
「本当は猫みたいに話す私のアグナムも見たかったわ」
「よくない! 嫌だ!」
心の底から喜ぶ俺。しゃべっても、言葉の最後で襲ってくる、あの強迫観念がない。変な言葉に
もうあんな言葉使いなんてもう嫌だ。
何とか術式を解いてもらい、俺は普通にしゃべれるようになった。あれは本当に恥ずかしくてもうあんなしゃべり方はしたくないと心に誓った。
「おはよう、サナちゃん、アグナムちゃん。今コーヒーを入れるわね」
そうだった、リヒレもいたんだった。解いてもらうのに必死でつい忘れてた。
というかこの目の前にあるコーヒーショップがリヒレの家だ。
「とりあえず、立ち話もなんだし、中に入ってリヒレのコーヒーを飲みましょう」
「そうだね、レテフちゃん。入ろう入ろう」
サナが俺とニャロロの腕を引っ張り中に入る。
「いらっしゃいませ。ここが私の家です」
中に入るとメイド姿のリヒレが、お盆を持って立っていてぺこりと頭を下げた。
確か、家族でコーヒーショップを経営しているんだっけ。
店内を見ると、アンティークな小物やいい香りがする花が置いてあるセンスを感じる店。
とてもおしゃれで、女の子が好みそうな場所だ。
「両親は豆の商談があって今いないし、お客さんもあまりいない時間帯なの。ゆっくりしていっていいわ」
そういって6人掛けの席に俺たちを案内する。
「おしゃれでかわいい店だね。すご~い」
「そ、そうだニャ」
サナとニャロロが周囲を興味しんしんそうにきょろきょろと眺める。
10分ほどでリヒレが全員分のコーヒーを持って来た。それから美味しそうなクッキーにお菓子。
「お待たせ、じゃあお話を始めましょう」
全員にコーヒーがいきわたると、俺たちの視線がニャロロに向かっていき、話の本題に入っていく。
まず話しかけたのはレテフだった。
「あなた、洗脳系の術式なんてどうして使えるの?」
すると、ニャロロは急におどおどとし出す。その姿を見てサラにレテフが追い込むように質問。
「以前私のアグナムとの戦いを見たけれど、あなたそこまで強い魔法少女じゃないと思うわ。それなのになんで、上級者にしか使うことができない洗脳系術式を使えるの?」
そう、ニャロロが俺たちにつかってきた術式。自分の姿を消すステルス系の術式。もう一つ、俺たちの語尾を猫語にする洗脳系の術式。どちらも魔法少女の適性が強くないとすぐに魔力が尽きてしまう、上級者向けの術式だ。
しかし俺は彼女と対戦したことがあるからわかるが、彼女はせいぜい中堅程度の腕前でそこまでの魔法少女ではない。
何か裏が合うのではないか。その疑問があった。
ニャロロはコーヒーを飲み干し、カップを机に置く。そして俺たちと目をそらしながら口を開き始めた。
「しょうがないニャ。教えるニャ」
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