その夜。俺たちが激戦を繰り広げていた日の夜。
星々がきれいな夜空を見ながら、ひとりの少女が家屋の外で座り込んでいた。
(また私だけ、役に立てなかった。どうして、私だけ魔法が使えないの?)
リヒレだった。
「私だって、魔法少女になりたい、」
涙目になりながら、そうボソッとつぶやいた。
いつもホロウたちが攻めてきたときにはなにもすることができず、アグナムやレテフに頼ってばかりの日々。守られてばっかり、自分だって戦いたい。
そして今回は自分だけ置いてきぼりになり、前回はアグナムの足を引っ張ってしまうというありさま。
もうこんな不様な目に合うのは嫌だ、誰かに守られる自分ではなくて、守る自分になりたい。
彼女の強い願い。自分も、レテフやアグナムのような強い魔法少女になりたい。
そんな強い願いをかなえてくれる人は──、いた。
「貴様、魔法少女になりたいか?」
座り込み、落ち込んでいるリヒレに誰かが話しかける。彼女がふと顔を見上げた。
黒ずくめのフードで、顔を隠している人物。見るからに怪しい。
常時であれば、リヒレは彼を不審者であると認定してこの場から走り去っていっただろう。しかし、今の彼女は精神を落ち込ませ、弱っていた。
「ど、どういうことですか?」
「この私なら、お前のそんな夢を、かなえられる!」
落ち込んでいた時のこの言葉。たとえ理性が危ないと警告していても、本能が従ってしまう。
心の底からの本音で、言葉を返す。
「私──、魔法少女になりたいです。なって、みんなを助けたいです。叶えて、くれるんですか?」
「わかった。そなたの強い思い、受け取った。お前を、魔法少女にしてやろう」
そしてフードの男はリヒレの額の目の前にスッと左手を置く。
するとその左手が真黒に光始める。そして──。
「えっ? なにこれ──」
リヒレは感じ始める。自らの体内に不思議なパワーを持った何かが入り始めていることを──。
「それが貴様に与えた魔力だ」
「えっ、これで私、魔法が使えるようになったんですか?」
「そうだ」
そして男は例のタロットを手渡す。「このタロットに魔法を引き出す力がある。使いたくなったら、いつでもそのタロットを使えばいい」──と一言添えて。
試しにリヒレはタロットを握り、両手を胸の前に置き、精神を集中させる。そしてさっき から与えられた力を思い出しそれを手のひらに集中させようとする。
「これが、私の魔法……」
手が黒く光り、手のひらから水のようなものが現れているのがわかる。
「これでお前も、魔法少女だ」
「私、魔法少女に──なれたんだ……」
念願の魔法が使えるようになったリヒレ、その事実に嬉し涙を流してしまう。
「あ、ありがとうございました。私の夢が、かなってとても嬉しいです!」
「礼には及ばぬよ。よかったな」
そういってその男は、この場を去っていく。
リヒレも意気揚々とした態度で、軽快なステップを踏みながら家に戻る。
(魔法少女、魔法少女、うれし~~)
ついに魔法少女になれた彼女はうれしさで心がいっぱいになる。
そう、それが地獄への道へとも知らずに。
翌日。
俺たち4人はギルドに向かう。昨日ミュクシーとローチェから教わった内容を伝えるために。
「アグナムちゃん。昨日、どういう事があったの?」
「それなんだけどね──」
歩きながら俺たちは昨日一緒にいることができなかったリヒレに、その内容を説明する。
タロットには罠があり、使うと体に大きく負担がかかり、最終的には意識を失ってしまうと。
そうリヒレに警告説明した時のことだった。
「リヒレ、どうしたの?」
リヒレが表情を失い、固まってしまう。
表情がどこかおかしい。何かあったのかな?
「だ、だ、大丈夫よアグナム。特にやましいことなんてないわ」
どこか動揺しているようにも見える。あわあわといつもより仕草がぎこちない。
なんでだろう。
けどまあ大丈夫か──。
そして俺たちはギルドにと到着。中に入るなり、いつもと雰囲気が違っていることに気付く。
「なんかそわそわしているわね」
「そうだねレテフ」
明らかにこの場がざわついている。
数人の魔法少女がおどおどとしているのがわかる。ちょっと話しかけてみるか。
「ちょっといいかな? 何か様子が変だけどなにかあったの?」
俺の質問に、三つ編みをした魔法少女は動揺した態度で答える。
「私の友達の魔法少女が、突然ばたりと倒れてしまったんです。それを相談したら、他の周りの魔法少女にも同じことが起きているらしくて、動揺しているんです」
「そ、そんなことになっているの?」
「はい、息はあって生きているのはわかっているんです。ただ、意識がみんな回復しなくて、医者に診てもらっても打つ手がなくお手上げ状態なんです」
リヒレの言う通りだ。ニャロロみたいに力が欲しくてタロットを使った人も多いのか。
「つ、次は私が倒れるんですかね? 私、後ろ向きな性格なんで、どうしてもそう考えてしまって、ちょっと怖いんです」
彼女の体が震えている。その言葉が演技でも嘘でもないというのがよく理解できる。
理由を知らないとそうなってしまうだろう。
「とりあえず、このことについて情報をもらった。説明するよ」
そう言って俺は周りに人を集め、ローチェ、ミュクシーからもらった情報を離した。
その言葉に周囲は騒然とし始め、ざわめき出した。
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