「あきらめが悪いよね、アグナムって」
「それはこっちのセリフだ」
「もう怒った。こうなったら嫌でも男ですって言わせてあげる」
そう叫び俺に向かって急接近。そしてとんでもない行動に出る。
「直接触ればあきらめるでしょ。アグナムの息子をね!」
なんとローチェは俺の股間に手を入れ、大事な部分を執拗にまさぐってきたのだ。
いくらなんでもそれはないだろ。
ローチェは俺の息子をつかんで、それを証拠にしようと懸命に探す。
しかし俺の息子はすでにお亡くなりになっている。いくら探しても見つかることはない
こいつの手は絹のような肌をしたお尻や俺の女の子の象徴のあたりを往復するだけ。
そしてローチェの顔が青ざめていく。ようやく自分の非を認めたようだ。
「な、ない。そんなことはない、僕の勘が間違っているなんてありえない」
「あり得るよ。現に間違ってるじゃないか。じゃあ、お返しをお見舞いしようか」
さあ、さっきまで俺にやってくれた数えきれないほどのセクハラ行為。その代償を、たっぷりと支払わせてやる!
「これが、セクハラのお返しじゃー」
俺はローチェに思いっきり回し蹴りを見舞う。彼は1メートルほど吹き飛び、泡を吹いて倒れる。
「全く、もう……」
いくら元男だからって、何でもしていいわけないだろ。
恥ずかしくて、おかしくなりそうだ。
「うぅ……」
ローチェは蹴られた場所を抑えながら、ゆっくりと立ち上がる。
「んで、話したい事ってそれだけ? ないなら帰るよ」
突き放すように言い放つと、ローチェが慌てて話しかけてくる。
「ただ、僕はアグナムのことを、男だと思っていた」
そ、その言葉はある意味間違っていない。本当にびっくりしたよ。男だって言われた時は。
「だから、語りたかったんだ。女の子だと偽って過ごす辛さを」
「ど、どういうことだよ」
俺は一歩引いてしまう。するとえっへんと言わんばかりの態度でしゃべり始める。
「やっぱりさぁ、着替えの時とか心臓が止まるかってくらいドキッとしちゃうんだよね。僕だって、魔法少女とはいえ心は男なんだし」
それは俺もわかる。始めてサナの裸を見たときは、心臓が飛び出るかと思った。
「あと、これも話しちゃおう。僕の生まれと、あっと驚く秘密!」
ローチェの秘密。男だった以上に衝撃の真実があるのか?
「まずさぁ、身体が男の僕が、魔法少女になれるっておかしいと思わない?」
確かにそうだ。(身体的に)男の魔法少女なんて聞いた事がない。なにか秘密でもあるのか──。
「何か、理由でもあるの?」
「まずね、僕、東方の遠い殷(いん)って国から来たんだ」
東方の国か、初めて聞いた。そういえば、この街以外行ったことないし、知らないな──。
「そこは戦乱が絶えない土地柄でね、紛争に巻き込まれた時にお姫様抱っこをされて助けてもらったんだ。一人の魔法少女に」
俺もレテフに対して出会っていきなりピンチを救ってお姫様抱っこをした。そして勝手に惚れられて強制的に大人のキス。
全く他人事ではない。
「ぴぴ~んって来ちゃったんだよね! その魔法少女に。魔法少女になりたいって、それが憧れになって、必死に練習をしたり、衣装を着たりしたんだけれど、当然なれるわけがなかった」
そりゃそうだ。リヒレを見ていればわかる。残酷だけど。
「そんなときに、ひとりの人物に話しかけられたんだ。それで、鉄束団にならないかって誘われちゃったんだ。代わりの魔法少女にしてあげるって言われて。もちろんOKしたよ。もう奇跡が起きたんじゃないかってくらい嬉しくって嬉しくってさ!」
「鉄束団? 俺は戦ったことがあるから、どんな集団は知ってる」
その単語が出た途端、俺は驚いて表情を変えた。
こいつ、敵だったのかよ。ムエリットとかと同じだったのかよ。
「驚いちゃった?」
「ああ、だから不思議で仕方ないよ。そんな理由で悪いやつに味方するなんて!」
「世界を滅ぼすとか全く興味はないかな。ただ魔法少女になって、かわいい衣装が着れて魔法が使えれば何でもいいやって感じ」
世界がどうなろうと、自分の道を貫く。まあ、男なのに魔法少女になりたいっていうくらいだから納得だ。
「僕の国にはね、こんなことわざがあるんだ。黒い猫であれ、白い猫であれ、ネズミを捕まえるのが良い猫であるってね」
戦乱の激しい地域らしい考えだ。
「同じさ。僕は魔法少女になりたかった、それをかなえてくれる猫が鉄束団ってだけだった。敵同士になっちゃったみたいだけど、これからも、よろしくね!」
ローチェがウィンクしながら、手を差し出す。俺も右手を出して強く握手。
まあ、戦乱の地で生まれると、力を求める傾向があるのかもしれない。俺には理解できないけど。
「とりあえず、俺はそろそろ帰るよ。他に言うことはある?」
「もう、特にないよ。じゃあね、何か気が合うし、また会おうね。あと、次の試合では僕が勝たせてもらうよ」
勝手に行ってろ。俺だって、負けるつもりは微塵もない!
俺は最後の挨拶をして、この家を去る。
最後まで敵だという感じがみじんも感じられなかったな。
まあ、ある意味気が合いそうな相手だ。次の勝負を抜きにしても、またどこかであって、話とかしてみたいな。
敵同士じゃなくて、ひとりの友達として。
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