「アグナムは絶対に絶対に絶対に絶対に渡さないわよ!」
レテフ、落ち着け。そもそもお前の物じゃないから俺は。
なんとも言えない雰囲気。俺はマイナの肩を持ち、身体を離す。
「ほ、ほめてくれてありがとうね。けど、いきなりパフパフというのはやりすぎなんじゃないかな?」
そうだ、いくら子供とはいえ胸の顔を埋められたら誰だって驚く。
もうちょっと距離感というものを教えた方がいいかな。
「ご、ごめん、気を付けるよ」
シュンとしたマイナの表情。どうやら反省しているらしい。
「分かったらいいよ。これからもよろしくね」
「ありがとう。これからもよろしく」
するとレテフはマイナに指を差し叫ぶ。明らかに向きになってあたふたしているのがわかる。
「これからは気を付けてね。私のアグナムにエッチなことしちゃだめよ。もっとアグナムの気持ちを考えてスキンシップをとるのよ!」
「はーい」
おまいう……。
どこかほんわかした雰囲気。この街は、治安は悪いけどこうしてたくましく生きているんだろうな。
サナは、他の子どもたちと明るく会話している。とても楽しそうだ。
なんか、サナがこの街のことを好きなのがわかった気がする。
俺も、この街のために協力していきたいという気持ちになる。
そして、そんなことを話しているとき、事件は起こった。
「あーあー、何やっているんだよてめぇら!」
「この街から出ていけ、このクソ野郎」
目つきが悪く、いかにもという人物が三人ほど。こっちに向かって叫んでくる。
そしてその子に向かってそのうちの一人がその子に向かって石を投げ始めたのだ。
「な、なんてことするんだよ!」
俺はすぐに言い返す。しかし男たちは引かない。
「うるっせえよ。こいつらが入ってきたせいで、俺たちの仕事がとられちまっているんだよ」
「こいつらのせいだ!
そんな罵声を浴びせる人たちに、真っ先にサナが立ちはだかる。
「なんでそんなことするの? ちゃんが、この人たちが何をしたっていうの?」
慌てて俺とレテフも、サナの隣に立ち始めた。
そしてにらみを利かせると、相手が俺たちの正体に気付き始める。
「あっ、よく見たらこいつアグナムじゃねぇか。あの最強の魔法少女の」
「そういえば、あとサナとレテフだろ。実力者じゃん」
その言葉にレテフはさらに相手を追い込もうとする。
「そうよ。痛い目にあいたくないなら、今すぐマイナへのいじめをやめなさい!」
その言葉に男たちは互いに顔を合わせる。そして──。
「今回だけは、見逃してやるよ」
「わかったよ。去ればいいんだろ去れば!」
そして若い人たちはいやいやな態度でこの場を後にしていった。
「何とか立ち去ったか……」
「けど、どうしてこんなことになっているんだろう」
サナが残念そうな表情になる。彼女によると、サナが子供のころも確かに治安が悪かったり、悪い人がいることはあったが、フレンドリーな雰囲気があり、ここまでひどくはなかったという。
「この街で何が起こっているのか、わしが話してやろう」
俺たちの背後から誰かが話しかけてきた。すぐにその方向を振り向く。
マイナと同じエルフだが、ひげを蓄え、相当年を取っているのがわかる。
「マイナのこと、見てくれてありがとうのう」
「ど、どういたしまして。おじさんはだれですか?」
「わしはマイナの祖父のグラナじゃよ」
グラナさんは遠目で道の先を見つめ始めながら、さらに言葉をつづける。
「わしたちこの街にいるエルフは、ずっと危険と隣り合わせ、争いが絶えない場所で暮らしてきて、ようやく見つけたのがこの街なのじゃ。じゃから、出ていくことなんてできないのじゃ」
そして俺たちはグラナさんから彼らの過去のことを聞いた。
エルフたちが住んでいた地域は、政情が不安定で、たびたび争いが絶えない地域らしい。
そこから、難民となりこの街へと命からがら逃れてきたのだ。
それは、今エルフというだけで石を投げられるこの場所でさえ、楽園と感じられるくらいの混迷を続けている場所。
戦乱で、生きていくのもやっとという状況の中、ようやく見つけた安住の地。
そんな簡単に、出ていけるような状況ではなかったのだ。
彼らに、サナはフッと優しい微笑を浮かべて言葉をかける。
「大丈夫です。この街も、あなたたちも、私が守って見せます安心してください。」
彼だけじゃない。街にいるみんなを守ってみせる。
そう心から決意すると、マイナが他の子どもたちと無邪気に追いかけっこをして遊んでいる姿が見えた。
子供たちは遊んでいる。エルフも、普通の人間も区別なく、無邪気に楽しそうに──。
それを見て、俺は思った。
絶対、彼らを守り抜くと。子供たちには、もう故郷を追われるようなことはさせないと・
サナも同じことを考えたのだろう。それが、今言った言葉に表現されていた。
しかし、グラナさんの表情は浮かばれず、どんよりとしたまま。
そんな表情で天を見上げながら、そっとつぶやく。
「それは、かなわないようなのじゃ。もうすぐ、この街に災厄が訪れる。あなたも、私も、それに巻き込まれて凄惨な運命がこの街を襲う。そんな予感がするんじゃ」
「凄惨な運命。どういうことですか?」
何のことだろうか。確かに彼らはエルフということで差別を受けている。しかし、全員が彼らにひどいことをしているわけではない。
大半は彼らのことを受け入れていて、一部の不満を抱えている人がストレスのはけ口として彼らに石を投げているだけ。それ以上でもそれ以下でもない気がするのだが──。
その時だった。
ドォォォォォォォォォォォォォォォン!
突然、大きな爆発音がこの場一帯を包み込む。爆発音は空からするようだ。
あわてて上空に俺たちは視線を移す。
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