「サナ選手。戦闘不能。この戦い、ユピテル選手の勝利!」
ウオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!
大人気だった勇者の勝利に、会場の観客たちはいっせいに湧き上がる。
「やっぱりユピテルだぜぇ。さすがだよなぁ」
「ユピテル。今回も優勝、待ってるぜ!」
そんな完成を聞きながらサナ、うっすらと目に涙を浮かべる。
(私、やっぱり勝てないんだ。ユピテルちゃんに──)
自身の心がそんな無力感に包まれ始めていると、目の前に一本の手が差し出される。
「サナ、以前より強くなったな。素晴らしかったぞ──」
微笑を浮かべながらユピテルが話しかける。サナは涙をぬぐうとその手をぎゅっと握る。
そしてその手で体が持ち上げられた。
ユピテルは自分の肩を貸し、ゆっくりと控室のほうへと向かっていった。
俺も、控室の方へ行かなきゃ。
「じゃあ、行ってくるよ、レテフ、リヒレ」
「頑張って。私、応援してるから!」
「頑張ってね。私のアグナム。勝ったらご褒美のキスをあげるからね!」
「それは、いらない」
レテフの欲望駄々洩れの言葉に冷静に突っ込んで、俺はこの場を後にする。
この後の準決勝の試合のため、この場へと移動したのだ。
控室。そこにはシャワーを浴び終え、着替えているユピテルと、ソファーにうなだれているサナの姿があった。
気まずい雰囲気。とりあえず、話そう。
「サナ、すごかったよ、さっきの試合。よく頑張ったね」
俺はサナに少しでも元気を取り戻してほしくてフォローする。しかし──。
「ありがとうね。励ましてくれて」
元気のない声。ひきつった笑顔。逆に気を使っているのがわかる。
確かに相手がユピテルであったことを考えれば善戦といえる結果だろう。彼女を、惑わし一時的にでも互角に渡り合えたのだから。
それでも、彼女に一撃を加えることも出来なかったのはショックだったようだ。
そして、二人の間には決して埋められないくらいの差があったことを、戦っていた彼女自身が一番理解している。
「アグナム。そんな安っぽい言葉で、サナの心に届くと思っていたか?」
ユピテルの言葉は真実だ。ひきつった笑いのサナを見ればすぐにわかる。けれど、これ以外に、返せる言葉なんてない。
「私はいいよ。アグナムちゃんこそ、次、試合でしょ。準備とか、したほうがいいんじゃない?」
「そ、そうだね。ありがとう」
そしてサナはシャワー室のほうへと移動していった。次の試合、サナの分まで絶対に勝たなきゃ──。
俺の対戦相手の魔法少女も、すでに準備を始めていた。
体をほぐし、準備体操をしているその女性に、俺は話しかける。
「俺はアグナム、君が対戦相手のカグヤだね。よろしく」
「こちらこそよろしく」
黒くて長髪のポニーテール。
身長は170㎝とかなりの長身。スレンダーな体系とあいまってまるでモデルみたいだ。
凛々しい顔つき。かっこよくて、美しいという言葉がよく似合っている。それに、礼儀正しいい身のこなし。
上品で気品を感じる。
彼女が次の対戦相手カグヤ。前回の大会で準優勝を飾り、ユピテルとも激戦を繰り広げた実力派の魔法少女だ。
そして準備体操を終えると、俺を見つめながら言葉を返してくる。
「アグナム君。今までの試合、見せてもらったよ、なかなかの実力だったじゃないか」
「ありがとう、ございます」
格好良くてさばさばした雰囲気。綺麗でどこか憧れるな……。
「けど、勝つのは私だよ。そしてユピテル」
「何だ?」
「今回は、絶対に優勝させてもらう!」
強気な表情でユピテルを指さすが、ユピテルは動じない。
「だったら、勝ち上がって見せろ。そして、その思いをへし折ってやる!」
2人の間にはバチバチとした火花が散っている。俺も、負けないように頑張らないと──。
「アグナムさん、カグヤさん。そろそろ試合の時間です。準備のほう、大丈夫ですか?」
「あっ、俺は大丈夫です」
「私も、問題はない。アグナム。悪いけど、勝たせてもらうよ」
そして俺たちの準決勝が始まる。
実力者だけあって、厳しい試合になりそうだけれど、この試合、絶対に勝つ。
試合会場。一戦目と同じように、満員の観客達。
そして中央には審判の姿。
「この試合、どっちが勝つかな……」
「正直、わかんねーなこれ。まあアグナムは俺の嫁だから、勝って欲しいって気持ちはあるけどな」
「何だよ。じゃあ俺はカグヤちゃん大好きだから、カグヤ予想な!」
もう突っ込む気にもなれない……。けれど、どっちが勝つか予想できないってのはわかる。
その声に俺とカグヤは腰を落とし、戦闘の準備に入る。
「試合開始!」
その言葉と同時に俺もカグヤもすぐに距離を詰める。
最初に仕掛けたのはカグヤ。一気に間合いを詰めると、目にも見えない姿で息に斬り下してくる。
俺は構えていた剣を切り上げ、それを跳ね除けた。
確かに速度は速い、けれど、力では負けていない。互角の戦いになって力比べになれば、確実に勝てる。
しかし跳ね除けたはずのカグヤの剣は空中で円を描くと、その場で切り下しにつなげた。
目視できないくらいの高いスピードだ
俺は何とか一歩引いて攻撃を防いだが、次の瞬間には彼女の切っ先が右手を狙っている。
その攻撃を何とかはじき返したものの、そのスキを生かして大きく左足を踏みこんで攻撃を仕掛けてくる。
息を継ぐ暇もなく連続攻撃を仕掛けてきたのだ。
これが、カグヤの真骨頂
繊細て継ぎ目のない連続攻撃。通称「連撃」まるで芸術のようだ。
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