「二人とも、ありがとう」
そして俺とユピテルに声にこたえるように。自身の剣に魔力を集中させ、膝を沈み込ませた。
剣を天に向かて上げ、その周囲に彼女がため込んだ魔力を出現させる。
そして沈み込ませた膝に一気に魔力を込め、自らを射出。
嵐の天空へと駆け上がっていく。
先ほど自分の足元に集まってきた小さな輝き。
その結晶のような存在が、大きな輝きとなって集合し、自分の元へ向かってくるような感触。
間違いなくサナの物だとわかる。
しかし、こんな輝きは今まで見たことがないものだった。
だが、やることなど決まっていた。
「サナ。迎え撃とう!」
そこに一人の老人が戦いの場所へと向かってきた。
ラグナだ。
その姿を見たサナは自身に満ちた表情でラグナに話しかける。
彼の試練によって自分が変わったことを伝えるために──。
「ラグナさん。ありがとう、私に道を示してくれて。けど、私が出した答えは違う。一人で背負って戦うんじゃない。みんながいる街の人たちと力を合わせて、この巨大ホロウを倒します」
「そんな弱い力では皆を救うことはできない。皆を救うことができるのは、絶対神のごとく圧倒的な力。そのようなな弱者の力では、この世界の脅威を乗り越えることはできない!
暗闇を輝かせることはできない。
この災厄に打ち勝つことはできない!」
ラグナがサナの出した答えに烈火のごとく怒りだす。
しかしサナはきっぱりと、その言葉を否定した。
「違います。あなたが与えてくださった試練。その中で絶望していた私を助けてくれたのは周囲の仲間達です。そして気が付きました。私には彼らがいます。みんなと一緒に歩んで、戦っていく。苦しみの中で、それが私が見つけ出した答えなんです」
そしてサナは街の人たちから受け取った力を剣に宿した。
グラナは、目の前の光景。自分が成し遂げられなかったこと。それが自分の思考ではできないと考えていた考えによってなされたことに呆然としていた。
そして、彼女の光景を見てようやく自分の過ちに気が付いた。
どうして自分は、彼女の様にできなかったのかと。
あの時、サナのように巨大ホロウと対峙し、絶望的な戦いを繰り広げていた時──。
絶望に浸っていた自分は、神に祈り、強大な力にすがるばかりで隣にいる友を信じることができなかった。
もしあの時、少しでも周囲を信じることができていれば。同じく絶望に浸っていた戦友たちと力を合わせることができていれば──。
何かが変わっていたかもしれない。彼らは、無事だったかもしれない。
災厄を乗り越えることができたかも知れない。
そしてサナは巨大ホロウが繰り出した攻撃を今度はしっかりと受ける。
「これなら、私達は勝てる!」
そしてサナは全力でその力を解き放つ。
「私達の想い、届け!」
そう、ホロウではなく俺とユピテル、レテフにだ。
「サナ、ありがとう、あなたの力受け取ったわ」
まずはレテフが一歩、前に出る。そして自らの武器である弓矢をホロウに向けた。
そしてそこから一気に攻撃を解き放つ。
「あなたたちに、好き勝手はさせない!」
その攻撃は、今までのレテフでは見たことがないくらい強力な一撃だ。
サナの魔力によって強化された攻撃が巨大ホロウに襲い掛かる。
ドォォォォォォォォォォォォォォォォン!!
衝突したレテフの術式が大きく爆発し煙を上げる。巨大ホロウはさすがにダメージを受けたようで叫び声を上げるがまだ倒すには至っていない。
しかし十分スキはできた。
「お前にしてはよくやった。だが、遠距離だけではだめみたいだ」
ユピテルの言葉通り有効打にはなっているものの、倒すまでには至っていない。
やはり、直接切り刻むしかなさそうだ。
そして俺はユピテルとアイコンタクトを取った後、魔力を両足に込め、思いっきり飛び上がる。
十メートル以上あるホロウの肉体の目の前まで飛び上がっていく。
俺の体から感じる、サナからもらった魔力。そこからあふれるオーラは、今までに感じたことがない強さ。これなら、巨大ホロウに勝てるかもしれない、そんな希望が持てる強さだった。
ホロウは大きな咆哮を上げると周囲に竜巻を発生し始めた。
そして竜巻はこの前起こしたものと同じように周囲の建造物を破壊し始める。
この前はこの竜巻をどうすることも出来なかった。けれど今は全く違う。
サナの力がある今なら突風やそれによって巻き上げられたがれきたちが止まって見える。
俺は魔力を使って宙を舞いながら、時には向かってくるがれきを足場にしながら巨大ホロウへのところへと向かう。
「さあ、決着の時だ!」
そして俺は巨大ホロウに向かって一気に切りかかる。
しかしホロウは俺の斬撃に対して右手の拳で対応。
やはり一筋縄ではいかない。手加減したつもりはないのだが、対応されてしまった。
そして今度は巨大ホロウが俺に向かって殴り掛かってくる。
「くっ、やはり強いか──」
戦略も駆け引きもない本能任せなただ力を込めただけのイノシシの様な攻撃。
一撃一撃の重みが違う。巨大な鉄の塊を受け止めたような衝撃だ。すぐに腕の感覚がなくなってしまう。
それでも、引くわけにはいかない。サナだって強くなろうと必死の思いで試練を戦い抜いたのだ。
こんなところで、弱音は吐いていられない。
そう考えているうちに巨大ホロウは目にもとまらぬ速さで俺に向かって何発も殴り掛かってくる。
本当に強い。サナの力が無かったら、すぐにやられていた。
俺はその攻撃を何とか対応。真正面から受けたり、時にはかわしたり、力を受け流したり。
「ハハハ、どうしたのだアグナム。守っているだけでは、勝利することはできないぞ」
どこからかカグヤの挑発する声が聞こえる。もちろん守っているだけではない。
「安心しろカグヤ、ちゃんと策はあるから」
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