「えーっと、なになに。『メイド募集、時給3千円から、その他条件応相談』……?」
わたしが送ったURLに書かれた文面を、咲が読み上げる。
水原咲はわたしの親友――と言うとちょっと気恥ずかしいけど、ただの友人と呼ぶのはあまりに薄情すぎる気がするし、やっぱり親友ということにしておく――で、去年に続いて2年生になっても同じクラスだ。
「確かに、怪しいかどうか絶妙なラインの金額だねー」
「うん。いちおう市の広報サイトの求人情報だったし、ヤバいのは載せないと思うんだけど」
昨夜、ダメ元で高額バイトの求人を探していて、お役所らしく何層にも重なったメニュー項目を掘り進んで見つけたのがこの募集だった。
普通にバイト探しをしているだけだったら、絶対にこんなページに気づかなかっただろう。
見つけたとしてもメイド募集とかいう時点でまずスルーだ。
でも今は、何よりも時給3千円という金額に惹かれた。
「てか、こういう募集って今は性別限定したらダメなんじゃなかったっけ」
黒髪ロングのいかにもお嬢様然とした様子でわたしの前の席に座ったまま、咲は砕けた口調でそう言う。
「うん。だけど、メイドだからって女性の募集と決めつけるのもダメなんじゃない? 逆にね」
「逆にかぁ。そういうもんかなー」
なぜお金が必要なのかについては、卒業時期になったら免許を取りたいという堅実な理由にしておいた。
咲にはとても本当のことは言えない。この子の場合、「なんだ、水臭いなぁ。はいこれ」とか言って、ぽんと貯金通帳とハンコを渡してきたりしかねないからだ。
受け取れないよ。逆にね。
午後の予鈴が鳴って、咲は自分の席に戻ろうと立ち上がり、わたしはスマホを鞄にしまおうとする。
そのとき、そのスマホがブーッと短く振動した。
「どしたの、有紗?」
咲が引き返してきて私に尋ねる。ここで画面を覗き込んだりしない、彼女の距離感が今のわたしにはありがたい。
「……放課後、面接に来てくれって」
六堂という名の広告主から、問い合わせメールの返事が返ってきたのだった。
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