翌日──
楽毅たちの新居にさっそく李同、李何、李勝の三人が訪ねて来た。
楽毅は彼らの素性に気づかないフリをして喜んで迎え入れ、いろいろな話をした。
三人は分からないことがあれば質問を繰り返し、楽毅はそれに澱みなく答えていった。
彼らの弁論はもはや大人の見識をも遥かに凌駕しており、楽毅自身が驚かされることもしばしばであった。
そこで彼女は、軍事に造詣の深い李同を楽乗が、政治に造詣の深い李何を翠が、そして聖人君子に造詣の深い李勝を彼女自身がそれぞれ相手をすることにした。
楽毅が李勝を相手に選んだのは得意分野の相性もあるが、李勝が進んで楽毅に孟嘗君について訊ねてくるからであった。李勝は孟嘗君を深く敬愛しており、彼女のような偶像になりたいと常に心がけているのだ。
同じく孟嘗君を敬愛している楽毅は、李勝に自らが知り得る孟嘗君の人物像を具に語り、また李勝もうれしそうに彼女の話に耳を傾けるのだった。
そんな日々が何日か続いたころ、楽乗が楽しそうな笑みと共に言った。
「素直で聡明な子たちですね。彼らが国の中枢を担うようになれば、きっと趙は繁栄することでしょう」
彼女は李同を実の弟のように思いはじめ、武術の指導にも相当熱が入っていた。
「楽乗姉さんは趙がキライなのでは無かったのですか?」
すると、つまらなそうに部屋の隅で膝を抱えている楽間が、口を尖らせながらそんなことを吐露する。その言葉には不満がありありと包含されていた。
「たしかに趙は我が祖国を滅ぼした張本人ですからね。大キライです。ですが、それはあの子たちとは直接関係の無いこと。私にとっては楽間どのと同じ、前途有望な子供なのですよ」
少年のもやもやとした心情を察した楽乗は、母のような慈愛に満ちた瞳を向け、父のような力強い手で彼の頭を撫でながら言った。
楽間はしばらく気恥ずかしそうに目を泳がせていたが、やがてコクリと小さくうなずいた。
そんな光景を、楽毅と翠は微笑ましげに見つめるのだった。
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