短いですが、きりのいいところまで
懸念材料満載だった実家を呼んでのパーティは無事に終了し、家に転移したアルトゥルは、エリーザベトと一緒に二人きりのバースデーパーティを開催することにした。
アルトゥルの小遣いで買える程度の食材とプレゼントを用意している。
パーティでご馳走をたくさん食べていたエリーザベトは、きっと料理は食べないんだろう。そう思っていた。
「凄いじゃない! これ、全部アルトが作ったの?」
「うん、でも考えてみれば、エリー義姉さん、パーティでご馳走食べて来たんだもんね。必要なかった……」
「食べるに決まってるじゃない! 可愛い義弟が作った料理を残すなんてとんでもないわ!」
そう言って、普段の夕食分くらいありそうな料理をエリーザベトは美味しそうに食べている。もうパーティ会場でも三人分くらいの料理を食べているというのに。
「美味しいわ、アルト! アルトは料理の天才ね! 将来は王都でレストランを開くといいわ!」
「えへへ、そうかなぁ」
料理を褒められるのは嬉しかった。
前世でも、ディータの作った料理の仲間からの評判はよかった。しかし、一人で旅をするようになってからは料理は自分で食べるだけのものになり、いつしか他人に褒めてもらうということを忘れていた。
これだけ評判がいいのなら、今度、ファブールのところにでも差し入れに行こうかと思う。
「そう言えば、義姉さんの首飾り、とても綺麗だね。そんなの持ってたっけ?」
自分で言っていてわざとらしくないか心配だったが、エリーザベトは嬉しそうに話した。
「ディータ様にいただいたの。素敵でしょ? 魔力を蓄えておくことができるんですって」
「そうなんだ。うん、とっても似合ってるよ」
「ありがとう、アルト!」
エリーザベトは、口の端に食べかすを付けたまま笑顔で笑った。
「そうだ、アルトにもお土産があるの! 会場の料理。特別にディータ様が詰めてくださったのよ」
「本当に、楽しみだなぁ。食べていいかな?」
「ええ、いいわよ。と思ったけど、アルトは夕食もう済ませたのよね。また明日にしなさい」
「……うん、わかったよ」
正直、助かった。
「あ、これ、義姉さんにプレゼント」
「まだあるの?」
「気に入ってもらえるかわからないけど」
アルトゥルはそう言って一枚の紙を渡した。
食材を買って残った小遣いでギリギリの範囲で買えた一番大きな紙だ。
「これって……」
「エリー義姉さんを書いたんだ」
炭で描かれた白黒のイラストは、エリーザベトにうり二つ――というよりかはエリーザベトより少しだけ可愛い少女の絵に仕上がっていた。
「凄いわ! 凄いわよ、アルト! 本当に凄いわ! まるで水面に映った自分を見ているみたい」
「左右対称じゃないから鏡とは違うと思うよ?」
「そのくらい凄いってことよ! アルトは将来、王都で画廊を開けばいいと思うわ!」
「画廊兼レストラン? 僕、忙しすぎるよ」
「私がサポートするわよ! でも、私、モデルになった記憶はないんだけど、アルト、もしかして私のことを想像で書いたの?」
「うん、まぁ……」
本当は土人形に幻影をかぶせてモデルになってもらったんだけれども、光魔法の幻影も想像みたいなところがあるから嘘ではない。
「そう、それだけアルトは私のことを見てくれているってことね。ありがとう、アルト。最高のプレゼントだわ!」
「そんなに抱きしめたらしわくちゃになっちゃうよ」
「あら、それはいけないわね。そういえばお義父様からプレゼントをいただいていなかったわ。額を買ってもらって、部屋に飾りましょ!」
エリーザベトはとてもうれしそうにそう言った。
アルトゥルは、婚姻を破断にしてしまったお詫びが少しはできたかな? と喜ぶ彼女を見てそう思った。
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