三日三晩を掛けて始末書の山を片付けたアリーサは、自身の境遇に苛立ちを隠せなかった。ポリスステーションの爆破とアークメイルを壊したという理由から警羅を降格され警鬼へと逆戻り、その挙句に近くの宙域に漂う破損船の回収を任される始末だ。
アリーサは因縁深き工業用アークメイル〈タイラント〉に乗り、破損船の装甲を解体し、母艦へと運ぶ。この作業を何往復も繰り返すのが彼女の仕事だった。こうして得られたジャンク品でまた近いうちにブラックマーケットが開かれるのだろう。
市民と警官は良くも悪くも協力し合う関係にあり、破損船の解体作業も手慣れた市民をアークメイルの操縦に長けた警察隊が援助する体裁が取られていた。その関係でこれまで甘い汁を吸い続けたアリーサだが、雑務全般は下っ端に押し付けてきた。そのツケを警鬼へと降格された今、払わされているのだろう。
「ったく……私はこんなことしてる暇はないんだけど……あのラビット運送の日系人と華系人に借りを返さなきゃなんないってのに」
アリーサは完全にラビット運送のことを根に持っている。自分のことは完全に棚の上に上げている。
「にしても、なんなのよ。この妙な船の残骸は……」
アリーサはスクリーンに映し出された、その無惨に破壊された宇宙船を眺める。船内に残されたログデータからたどるに破壊されたのは三日前、ちょうどアリーサが爆破された日付けと一致する。厳密な時間で言えば、その半日後だった。
『おら、モタモタすんなよ、アリーサ元警羅』
「そこ、うっゼェぞ!! バカにしてんのか!!」
同僚の一人が船を見上げるアリーサを嫌味混じりに急かした。元はアリーサの部下だったが、今は同僚の男だ。彼は自身の操作する工業用アークメイルをアリーサの近くまで寄せて、解体作業を手伝ってくれた。
「ふん。手伝ってくれるなら、素直に手伝いなさいよ」
『へいへい、ったく……元警羅は可愛くねぇや』
「やっぱ、お前、バカにしてんだろ!!」
通信機に向かって吠えるアリーサ。対して同僚は、同じ階級であるアリーサがいくら吠えようと怖くないらしい。彼はそれよりも、この船について興味がありげだった。
「この船、ログデータの情報によると〈ベヘモス〉っていうパンデモニカ社製の防御艦で、いまは雇用してる傭兵部隊の船だったらしい」
「ふーん……確かに、この装甲の分厚さは防御艦ね。解体するのがダルいだけだわ」
「だな、解体するだけなら貨物艦が一番楽だ。けど、この防御艦の残骸ちょっと、妙だとも思わねーか?」
同僚は〈ベヘモス〉の残骸を興味深く睨んだ。本来、防御艦の残骸というのは、装甲とシールドの分厚い前方はほぼ無傷で、後方に大きな損傷が見られるというのが、お決まりだ。だが、この〈ベヘモス〉の残骸は違う。エターナルリアクターは焼き切れ、前方に無数の穴が空いている。穴はビーム兵器によって焼き開けられたものだ。その穴が艦の重要機関まで達し、〈ベヘモス〉は壊されたのだろう。
「ただ……一つ一つの穴の小ささと数が異様なんだよ」
「たしか数百以上の穴があるって話よね。私、集合体恐怖症だから、遠目でみたらヤバいかも」
「正面からの記録写真あるぜ。見るか?」
「死ね」
単純に考えれば、百機近いアークメイルの大群が〈ベヘモス〉を包囲し、ビームライフルの一斉射撃で穴を開けたと考えるのが無難だろう。だが、それはいくらなんでも現実味がなさすぎる。アークメイルは宇宙船よりも小回りが効くのだから、正面から撃つより、後ろに回り込んで、船を沈める方が効率的だ。
『アリーサ警鬼は〈ヘブンズフォールシップ〉の噂は知ってるか?』
「あー……ほんの数年前に噂になったわね。そんな船があるって。けど、それがどうしたのよ?」
『いや……その船に積まれた主砲兵器なら、こんな風に攻撃できるなって思って』
「ってことは何? まさか、これをやったのは噂話の船で、それがこの辺りの宙域を通ったてこと? あははは、ない、ない。んなことこそ、あるわけないじゃない。貴方って案外オカルトとか好きな方なの?」
思わず爆笑してしまった。そんな噂の船がまだあるのなら、実際に見てみたいくらいだ。アリーサは我ながら、同僚のバカバカしい話に付き合わされたと一蹴し、作業へ戻っていく。
「私はこんなことしてる場合じゃないの。あのクソ兎共の拠点に爆弾ぶっ込んで、私と同じ目に合わせてやるんだから」
ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。ラビット運送、クルー一同、喜ばしい限りです。
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Thank you for you! Sea you again!
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