俺らってただの運び屋ですよね? なら、なんで毎度喧騒に巻き込まれるんですか!!

雪年しぐれ
雪年しぐれ

06 ヒノマルの在り方

公開日時: 2021年9月22日(水) 20:00
更新日時: 2021年9月25日(土) 22:33
文字数:2,771

「想像よりも寒そうですね……辺り一面雪と氷しかねぇや」


「ふむ。けど、これだけの氷があれば、かき氷がいっぱい作れそうだ思わない?」


「やるなら勝手にやれ……ただし、氷の中に何が混ざってるかもわかんねぇぞ」


 ラビット運送の面々を乗せたスノーホワイト号が、大気圏を超えて、降りてきた。辺りに、他の運送屋の船が停泊している様子もない。一番乗りだった。


 艦橋から見える光景に、残念なコメントを残すセレナにヘイが横から指摘を入れる。


 ヒノマルの操作で〈スノーホワイト号〉はアンカーを発射する。アンカーは地上に深々と突き刺さり、ワイヤーを介して繋がった船体を吹雪に飛ばされないように固定した。


「ヘイさん、エンジンを寒冷モードに、」


「言われなくても分かってる。つか……なんだこの星? まるで手付かずじゃねぇか」


「そうね。開拓されたばかりの資源惑星でも、もう少しマシよ」


 ラビット運送は仕事がら様々な惑星に訪れる。この前の龍響のように開拓が進み賑わう星もあれば、開拓業者の簡易拠点がポツポツと立ち並ぶ星もある。ただ、アイスバックにはその様子がない。それどころか、人が訪れたような形跡がひとつも見られないのだ。


「本当にここから依頼があったの……? 依頼人がビックフットや雪男ってのはナシよ」


『間違いありません。依頼の旨を記した信号は、この辺りから発信されています』


「バニーちゃんがそう言うなら、少なくとも誰かはいるのよね……よし! 私が降りて探しに」


「俺が降ります!」


 ヒノマルがセレナを遮った。


「じゃ、じゃあ私も! ヒノマルくん一人じゃ心配よ!」


「いえ、セレ姐は待機で。ナビはバニーちゃんがしてくれますので」


『了解しました。私もマイマスターの待機を推奨します。この依頼が罠である可能性も三十六パーセントあります』


 バニーちゃんもセレナを連れてゆくのは反対のようだ。今回の依頼は少しきな臭い。報酬に釣られた結果、想定にない面倒ごとに巻き込まれるリスクもある。それをAIの彼女は算出した。


「五十を下回れば大丈夫! 私って運だけは良いから」


「セレ姐が良いのは、悪運だけなんですよ」


 セレナを連れていっては、どんなトラブルが起こるか分からない。彼女は基本的に艦橋で大人しくしていて欲しかった。


 ヒノマルは艦内に用意された軍用の防寒着に袖を通し、バニーちゃんの入ったレーダー端末を手にする。


「それじゃあ、少し下に降りて来ますね」


 セレナの役割が艦長、ヘイがメカニック、バニーちゃんが電子制御や依頼の受注ならば、ヒノマルの役割は先鋒だった。危険な場所には一番に切り込み、荒事となれば刀を振るい仲間を護衛する。そんな役柄の人間が運送屋に必要かと問われれば、ヒノマル自身が答えに困ってしまうが、彼はこの役割が適任だとも思っていた。


「待って、私たちの方でも少し裏を取ってみるわ」


「凍死だけはするんじゃねぇぞ。俺一人じゃ、セレナの面倒は見切れねぇ」


「二人とも心配しすぎです。俺は大丈夫ですから」


 セレナは自身が危なかっしい癖に少し過保護なところがある。ヘイも口は悪いが、彼なりにヒノマルを心配してるのだろう。しかし、ヒノマルはそれを心地よいとも感じていた。ここが自分の居場所なのだと実感できる。そのことが彼を一番に満たしてくれた。


⬜︎⬜︎⬜︎


 この吹雪の中を生身で降りるのは厳しいものがある。だからヒノマルは〈天兎〉を使って着陸した。エンジンが凍ってしまいわないよう、機体の設定を寒冷モードに切り替え、保険代わりの小型のビームマグナムも装備させている。


「さて……うぅっ、寒っ! シェルチーカの冬よりひでぇや」


 何を思ったか、ヒノマルは〈天兎〉の天蓋(キャノピー)を押し上げ、コックピットから身を乗り出した。運のいいことに、吹雪は人が活動できる程度には弱まっている。だが、寒いことに変わりはない。寒さにヒノマルは身をすくめた。


 彼の持っていたセンサー端末に入ってたバニーちゃんも、何故ヒノマルが〈天兎〉を降りたのか理解できなかった。依頼人の反応を探すなら、高性能なセンサーを積んでいる〈天兎〉を使った方が理に叶っている。安全性だって、〈天兎〉に乗っていたほうが高いのは言うまでもないだろう。


『ヒノマル様。どうしてアークメイルを降りるのですか?』


「あぁ、別に。依頼人を怖がらせたくないだけですよ。最低限の自衛のために刀は持ちますけど、アークメイルを持ち出すのはさすがに依頼人に対して失礼ですし、こんなのに乗ってては話も出来ませんからね」


 ヒノマルはなんてこともないように答えた。


 荷物の大きさにもよるが、まずは依頼人に詳しい仕事の旨を伺わなければならない。荷物が大きければ、アークメイルを使えばいいくらいにしか考えていなかった。


『理解できません。私が独断でヒノマル様のスタンスを元に今後の生存確率を算出したデータは二十パーセントを下回りました。危険ですよ』


「俺は死にませんよ。セレ姐を放っておけないですし、バニーちゃんもそうですよね?」


『よくわかりません。ラーニング不足なようです』


 バニーちゃんが目を瞑って、悩み込んでしまった。ヒノマルは少し感覚的な話をしすぎたと反省する。


「ほら、それに万が一にもこれが罠なら、目立つアークメイルより生身の方が見つかりにくいです。ヤバくなったら、見つかる前に逃げちゃいましょう」


『それなら理解できます』


「俺らは運送屋ですから、トラブルは御免なんですよ」


 零度を下回る気候が確実に体力と体温が奪われてゆく。ヒノマルは寒冷地帯を探索するノウハウを持ち合わせているわけでもないズブな素人だ。刀の鞘を杖代わりに少しずつ中を進むが、その足取りは決して早いとは言えなかった。


 それでも、ヒノマルは劣悪な環境に慣れている。ヒノマルからしたら自分の故郷よりも、寒くて死ぬリスクが程度のこの星の方がよほどマシな環境なのかもしれない。


「ハァ……ハァ、ビーコンの信号は拾えますか?」


『ビーコンの反応は十一時の方向。反応が強くなっているのはビーコンに近付いてる証拠ですね』


「なら、少し急ぎますかね」


 そう思った時だ。ヒノマルの目は、その一本の光を見逃さなかった。


 光の一本線。熱線放出タイプのレーザ銃独特の閃光だ。


「なっ……」


『レーザ銃による狙撃を確認。撃たれたポイントはビーコンのあるポイントとほぼ同じです。罠である可能性が上昇しました』


 バニーちゃんにも、レーザー銃の光を探知した。


 ヒノマルは、やはり今回も面倒なことに巻き込まれてしまったと気づく。こんな氷と雪しかない星で、レーザ銃を持っている輩がいるという事実がまずおかしい。


 しかも、バニーちゃんの算出した情報が正しければ、撃たれたのはビーコンの発信源付近。つまり、依頼人が撃たれた可能性があるのだ。


「チッ!」


 ヒノマルは強く舌打ちをすると、ビーコンのある方向へ走り出した。

ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。ラビット運送、クルー一同、喜ばしい限りです。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! 読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると感謝が尽きません。また過去作なんかも覗いてもらえると……っと、今回はここで幕引きです。


Thank you for you! Sea you again!

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート