俺らってただの運び屋ですよね? なら、なんで毎度喧騒に巻き込まれるんですか!!

雪年しぐれ
雪年しぐれ

堂々たる正面突破

公開日時: 2021年10月8日(金) 20:00
文字数:3,737

 三隻の〈トライデント〉と〈べべモス〉の両方から砲撃が開始された。熱線とミサイルが〈スノーホワイト号〉に迫ってくる。今度は確実に沈めるための砲撃だ。


 対して、セレナが鋭く指示を飛ばす。


「ヘイ、バニーちゃん!」


「わざわざ言われなくても、わかってらぁ」


『命令内容は予測済みです』


 ヘイはミサイルを、バニーちゃんが艦を制御する。ミサイルの中に詰まっていたのはスモークチャフだ。真っ白な煙が〈スノーホワイト号〉を覆い隠す。


『は、そんな目隠し、意味ねぇよ!!』


「あら、そうかしら?」


 〈トライデント〉と〈べべモス〉両艦のコンソールに着弾状況と、与えた損傷率が算出され叩き出させる。そこに出された数字にエクスキュージョナーは絶句した。


『なっ……』


 確実に防御艦一隻は落とせるだけの火力を捩じ込んだ。


 それなのに、算出される数字が少なすぎるのだ。当たったのは、ほんの数発だけ。


「そういえば、この配置って防御艦を潰すための常套手段よね……けど、おかしいわ。私たちは、いつ、どこで、この船を防御艦なんて言ったのかしら?」


 セレナがニヒルに笑う。白煙が晴れると共に〈スノーホワイト号〉が現れた。だが、様子がおかしい。本来は艦の末尾に当たる両耳のようなスタビライザーが前方を向いていた。


 チャフによって張られた煙の中で〈スノーホワイト号〉が百八十度、急旋回したのだ。

「私たちの艦は前方に装甲とシールドを搭載し、後方にはありったけの火器を積んだ防御兼火力艦なんだけど」


 〈スノーホワイト号〉はエターナルリアクターを四つ積載し、防御艦と火力艦の両方の役割を果たす、他のどの艦にも類似しない唯一無二の船だ。


 さっきの霧の中、〈トライデント〉の方へと前方のシールドを向けることでビーム砲撃を相殺。迫る〈べべモス〉のミサイルは前を向いた砲門から放たれてるビーム射撃で全て撃ち落としたのだろう。


 左右それぞれのウサ耳の先が展開し、計二門の内包された主砲が剥き出しになる。それがスクリーム達へと突き付けられた。


「波動拡散砲・ヘブンズ・ゲート……眼前の障害を蹂躙せよ」


「照準、ロック! 何時でも撃てるぜ」 


『リアクター出力最大。マイマスターの意のままに』


「宜しい。撃ェーーーーーー!!!」


 エターナルリアクターから膨大なエネルギーがそれぞれの砲門へと充填され、そこから撃ち出される熱線は並のビーム砲の三倍近くある。


『馬鹿げてるだろ……ッッ!! テメェら、シールド出力最大! 持ち堪えんぞ!!』 


「さぁ、耐えられるかしら?」


熱線の先端が分散を始めた。幾つもの細い線へと拡散し、〈べべモス〉のシールドを多面的に焼く。点ではなく面を破壊する超兵器こそ、天門の名を持つ波動拡散砲・ヘブンズ・ゲートなのだ。


 シールドを形成するためのエネルギーが一瞬で空にされた。それでも熱線は防ぎ切れず、〈べべモス〉の装甲に無数の穴をこじ開ける。


『あ……あり得ねぇ』


〈べべモス〉のエターナルリアクターが焼き切れてしまった。なんとか予備電源に切り替え、浮かんでこそいるが、宇宙船としての機能の殆どが失われる。


「そこを大人しく退いてくれないかしら? そうすれば命だけは助けてあげる」 


『な……舐めんじゃねぇ!! テメェらだって、それだけの威力の主砲を撃ったんだ、エターナルリアクターに掛かる負荷も馬鹿にならねぇ、シールドを貼れるだけのエネルギーだって残ってねぇ筈だ!!』


「そうかしら?」 


 セレナは完全にスクリームを掌の上で弄んでいた。


 そこにある笑みを見て、死神はようやく自分が追いかけていた獲物が兎なんて可愛らしいものじゃないことに気付かされる。


『ッッ……!! 〈トライデント〉火力最大!! あのクソ兎といけすかねぇ女を焼き殺せ!!!』


 またも三又の槍先から熱線が〈スノーホワイト号〉に迫る。


「セレナ、どうする! シールドはもうねぇぞ」 


「警告アラートを赤へ。総員、対ショック姿勢。久々にあれをやるわ!」


 神経リンクシステムとグローブを介して、セレナの脳は〈スノーホワイト号〉へと繋がった。バニーちゃんのフィルターが不要な情報を弾くも、セレナの脳内には宇宙船を動かす為の膨大なデータが流れ込んできた。


「がぁっ……こん畜生!!」


痙攣する身体と焼き切れそうな脳を彼女はその度量で抑え込み、船体を飼い慣らしてみせる。 


「ははっ……全速前進だァァ!!」


 ビームが着弾。エネルギー残量の少ない〈スノーホワイト号〉がシールドを貼れるのは一瞬。それでもセレナには充分すぎるくらいだ。


「鋼鉄の魂を持て、恐怖を律して戦況を読め。そして、正面に敵が立つというのなら、正面突破でこじ開けるッッ!!」


船体を斜めに、損傷を最小限に。さらに爆発の勢いを受けて船を加速させる。 


「な……なんなの……」


 リオは目の前で起きていることが信じられなかった。まるでB級映画並みのはちゃめちゃ劇のご都合主義だ。それでも横のヒノマルは笑っていた。


「このデタラメで無茶苦茶なのが、俺らのセレ姐なんです! ほら、リオもどっかにしっかり掴まってください」


 トライデントの砲撃すら推力に変えた〈スノーホワイト号〉は眼前の鉄塊に向けて衝突する。


「突貫!!」 


分厚い装甲を持つ〈べべモス〉へと体当たりさせたのだ。火花が飛び散り、船体がひしゃげていく。船内が大きく揺れ、バランスを大きく崩しながらも、立ち塞がっていた〈べべモス〉を押し除け、〈スノーホワイト号〉は前進する。


「よし!」 


 被っていたキャップ帽を投げ捨て、ガッツポーズを掲げるセレナ。彼女の強引な突貫戦法がここまでの劣勢を打ち崩す。


「すごい……セレナ!! すごかった!!」

リオがセレナに抱きつく。彼女の瞳には涙が滲んでいる。それでも彼女は込み上げてくる感情を噛み締めていた。


「荷物をきちんと届けるのが、ラビット運送だからね。リオちゃんには傷一つ付けさせないわよ」


 流れる鼻血を拭ったセレナは、得意気だ。


「それじゃあ、ヒノマルくん。あとは任せたわよ」


「えぇ、ケリは俺が付けてやりますよ」


 日本刀を座席へと立て掛け、代わりにヘルメットを被るヒノマル。その目の先は背後の〈べべモス〉を睨み付けていた。


⬜︎⬜︎⬜︎


「っっ……あのアマが……やってくれんじゃねぇか」


「だ、大丈夫ですか、隊長……」


 〈べべモス〉の艦内は騒然としていた。〈スノーホワイト号〉の体当たりを受けて、沈む寸前だった。衝撃のせいでスクリームは頭をぶつけ、血を流している。他にも多くの部下達が負傷していた。


「はは……あー、くそ。完敗だ、畜生……」


 スクリームは傷口にタオルを押し当て、ぼやいた。


「隊長も早く脱出しましょう。〈トライデント〉に拾って貰えば」


「……いや、逃げんのはテメェらだけでいい。俺は残る」


 スクリームは間違っても、自身より部下を優先するようなタイプではない。「俺を残して、先に行け」なんてセリフは口が引き裂かれようと、決して言うことがない。そんなスクリームが紡ぐ言葉に部下は嫌な予感を感じずにはいられなかった。


 エクスキュージョナーの目は、何かに取り憑かれたようにぎらぎらと輝き始めたのだ。

「ば、馬鹿言ってないで逃げましょう……ね?」


「馬鹿言ってんのはテメェだよ。ひひ……はは!! 何がラビット運送だ、吹かしやがって。あの船はそんな可愛らしい連中が乗ってる船じゃねぇよ!!」


 白い塗装で偽装こそされているが、あの船の本来の色は血の色を塗り潰すために黒く塗られていた。その証拠こそ、唯一無二の防御兼火力艦という特性と波動拡散砲・ヘブンズ・ゲートだ。あれだけの出力を誇り、ビームを拡散させるなんて芸当が出来る船をスクリームは〈ヘブンズフォールシップ〉しか知らなかった。


「俺はあの船に一度、殺され掛けてんだ。増して、あの艦長のめちゃくちゃな作戦……俺はあのアマを知ってやがる」


 〈ヘブンズフォールシップ〉艦長のコードネームもセレナという栗毛色の髪と白い肌の露系人の女だった。最年少ながら、最新鋭の戦艦を託されるだけの才能を持ち、立ちはだかる障害を全て押し退けてきた冷血の宇宙船乗り。キャップ帽のツバの下にある目はまさしく、その時のものだった。


 今でこそ運送屋のジャケットなんて羽織っているが、彼女の本質は軍服に袖を通していた頃と何も変わっていない。


 スクリームはセレナと〈スノーホワイト号〉の正体を確信した。


「はは!! わざわざ天獄の方から、当時の艦長が俺らを殺すために降りて来てくれたんだ!! 人殺しの女王様が俺を! この死神を殺しに来てくれんだよ!!」


 止めようとする部下を押し除け、倒壊した整備ハンガーへと向かうスクリーム。そこには、もう一つの切り札である〈ベリアル〉が武器の換装を終え、静かに鎮座していた。


 PD012〈ベリアル〉。パンデモニカ社に蓄積されたノウハウを元に建造された最新鋭のアークメイルだ。その出力は〈ガーゴイル〉を遥かに上回り、両肩に背負った高出力レーザー砲は、戦艦のものと同等の威力を誇る。


 その両腕を使い慣れた工業用アークメイルのチェンソーとドリルに付け替えられ、黒く塗られた機体は動き出す時を静かに待ち侘びていた。


 スクリームは、巨人の腹の中へと乗り込む。


「殺し甲斐があるぜ、セレナよぉ……テメェになら殺されるのも、殺すのも両方悪くねぇだろうな」


ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。ラビット運送、クルー一同、喜ばしい限りです。


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Thank you for you! Sea you again!




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