俺らってただの運び屋ですよね? なら、なんで毎度喧騒に巻き込まれるんですか!!

雪年しぐれ
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04 金は天下の周りもの なら宇宙って金入らなくね?

公開日時: 2021年9月22日(水) 22:55
更新日時: 2021年9月25日(土) 22:02
文字数:4,149

「オーライ、オーライ。もう少し左に頼む」


「了解です、えっと……ここを、こうして……このレバーを下げて……」


 広い宇宙を進む真っ白な船が一隻。無事に龍響会の追跡を振り切り、三人と一人のAIを乗せた輸送用偽装艦スノーホワイト号だ。


 その船内の整備ハンガーには、一機のアークメイルが固定されている。片腕が欠損した黒と白のアークメイルだ。メカニックを務めるヘイとヒノマルはそのアークメイルの整備作業に徹していた。


 船内の重力はバニーちゃんによって区画ごとに管理されている。整備ハンガーの重力は他の区画と異なり無重力に設定されていた。それを利用して宙に浮かんだヘイは、誘導灯を片手にヒノマルに合図を送る。


 ヒノマルは、四角い箱から二本のアームが伸びたような風貌の小型クレーンマシーンを、ヘイの出す指示通りに操る。クレーンマシーンの免許を持たないヒノマルでも、操縦桿を握るだけで直感的に制御できるのは神経コネクトシステムのお陰だ。


 ヒノマルは二本のアームを器用に駆使して、アークメイルの予備の腕を本体に接続する。


「ふぅ……ヘイさん、接続完了しました」


「見れば分かる。次は動作テストするんだ、モタモタすんなよ」


「はい!」


 ヒノマルはクレーンマシーンを降りると、アークメイルのコックピットに移った。


 ラビット運送はただの運び屋だ。だが、宇宙には数多くの危険が潜んでいる。仕事の途中にマフィアや積荷を狙う宇宙海賊とやむを得ず戦闘になることだって珍しいことじゃない。スノーホワイト号にはシールド発生器やビーム砲、ミサイル発射管にレールガン等があくまでも護身目的で積まれている。このアークメイルもその護身目的でスノーホワイト号に積まれた切り札の一つだ。


 機体の名は〈天兎〉(あまと)。本当は別な機体名があるのだが、セレナの意向で機体には偽装が施され、その際に名前も変更された。ラビット運送のアークメイルなのだから兎の文字は必須らしい。肩にはきちんとウサギのロゴもある。


 〈天兎〉は細身かつ、龍響で対峙した闘扇よりも引き締まった印象を受ける機体だ。神経コネクトシステムの恩恵を最大限に生かす為に、より人型に近いシルエットをしていた。肩には増設された二本のスタビライザーが装備され、腰にはアークメイル用の実体刀を接続するためのジョイントがある。これらはヒノマルの得意な戦闘スタイルを再現する為であり、〈天兎〉は事実上、ヒノマルの専用機としてチューンが繰り返されてきた。


「アームの動作確認、よろしくお願いしますね」


 ヒノマルは〈天兎〉に取り付けた新しい腕がしっかり動いてくれるかを確かめる。刀を主武装に使う性質上、手首の稼働はより念入りにチェックをした。少しでも動作にぎこちなさがあれば、外から見ているヘイがヒノマルを止めてくれる。その都度、二人で機体の設定を見直しながら設定を修正してきた。


「まぁ、艦内の設備じゃこの辺りが限界ですかね」


 一通りの動作テストを終えたヒノマルが〈天兎〉のコックピットから顔を出す。


「そうだな。後の細かいメンテナンスはどっかのコロニーに立ち寄った時に専門の業者に頼むとするか」


 ヘイの専門はあくまでも宇宙船のメカニック。アークメイルと宇宙船はどちらも、エターナルリアクターという高性能エンジンを動力源としている。その繋がりからヘイはアークメイルの整備も担当しているが、その技術はプロのアークメイル整備士に一歩劣る。


「ていうか、俺って宇宙船のメカニックなんだよな……?」


 ヘイが珍しく自信なさげにぼやき始めた。


「いや……なんか最近は艦橋で照準レバーを握ってる時間の方が長い気がするんだよ」

 

 それはヘイの切実な悩みでもあった。それだけ、ラビット運送は喧騒や荒事に巻き込まれているのである。ヘイはそういった事態を潜り抜けたあとに壊れてしまった設備を修理するのだから、実際には照準レバーを握るより、メカニックの仕事をしている時間の方が長い。ただ、体感的には照準レバーを握っている時間の方が長く感じるらしい。


「あぁ……それは……はは」


 ヒノマルも笑って誤魔化すしかなかった。

「というか普通の運送業者なら、船の中にアークメイルだって隠し持ってないですし、こんなに護身用の武装も積んでません。案外、面倒ごとに巻き込まれるのも、こういう物を保有してるせいだと思いますよ」


「はぁ……セレナを信用して付いてきたのが間違えだった……」


「そうは言いますけど、ヘイさんだってセレ姐に拾って貰ったことは感謝してるんでしょ」


「そう言われると、否定はできないけど……昔はもっと凛としてて、カリスマがある人だったんだよ。ジョークだってちゃんと笑える事を言ったし」


「そうなんですか?」


 ヘイはこの船二番めの古株だ。セレナが今のようになる前のことも、ヒノマルがラビット運送のメンバーになった初期の頃も知っている。


「つか、お前だって昔と今じゃかなり変わったろ。ウチに来たばかりの頃は血の気ばっかで、今みたいに敬語も使ってなかったし」


「はは……あの頃は世間知らずでしたので。今でもたまにスラングが」


 ヒノマルは恥ずかしげに頭を掻いた。


「シェルチーカのスラングだっけか? どれも中々に酷い意味をしてるよな」


 そんな話をしていると、ドアが開いた。噂をすればなんとやらという奴だ。


「チュン、チュン!」


 入って早々のセレナは無重力の中で両手を広げ、パタパタと上下させた。その動きは鳥のようでもある。おまけで珍妙な声もセットでだ。


「えっと……セレ姐。頭でも打ちましたか?」


「そんなことないよ。ただ、閑古鳥が鳴いているだけ。なんちゃって。ふふふ」


 セレナはドヤ顔であった。しかし、笑えない冗談である。ヒノマルもヘイも、セレナに呆れるしかない。


「ただでさえ、この前の龍響会との一件で仕事が一つパーになったんだぞ。使った分の弾薬は補給しないとならないし、エンジンを稼働させるのもタダじゃねぇ。おまけに艦長はコレだし……閑古鳥じゃなくて俺が泣きてぇよ!」


項垂れるヘイ。本当に不憫に見えてきた。セレナも負けじと反論する。


「そこまで酷いことにもなってないでしょ。ほら私って貯金はちゃんとしてるし。そうだ! バニーちゃんに私達の預金額を聞いてみましょう!」


 セレナはバニーちゃんを起動させた。セレナの持つタブレット端末にバニーちゃんが現れる。


〈お呼びでしょうか、マイマスター?〉


「えぇ。この二人に私たちの預金額を教えてあげてちょうだい。いつも命懸けで働いてるんだから、今はちょっーと苦しいかもだけど、数ヶ月休んでリゾート惑星ツアーができる程度の額はあるはずよ」


〈情報を取得中……ナウ・ローディング……しばらくお待ち下さい〉


「はーい。ヒノマルもヘイも心配性が過ぎるんだよ。宇宙を生きるのなら、私みたいに大きな心を、」


〈情報が取得できません。尚、近頃のニュースと参照した結果、マイマスターが普段から利用している銀行の本社があるコロニーがつい先日爆破された旨の情報が二十六件見つかりました〉


 バニーちゃんが見つけてくれた情報に、三人の顔が青ざめていく。どうやら、セレナの貯金は宇宙海賊のお小遣いになってしまったらしい。セレナは自分たちが運の悪いことは自覚していた。ただ、これは流石に酷過ぎる。


「あ、あの……セレ姐。仕事で稼いだ金って、少しくらいは船の金庫に残ってますよね……」


「ふふ。うふふ……そんなものある訳ないじゃないの。金庫室は万年空っぽよ!」


「おい、まじか! マジなのか! マジかぁ……はは、あはは」


 もう笑うしかなかった。三人の乾いた笑い声が整備ハンガー一帯に響き渡る。


 宇宙を股に掛ける運送屋の報酬額はリスクに比例して膨らんでいく。一つの仕事を成功させれば、しばらくは数ヶ月は遊び倒せる額が報酬として口座に降り込まれる。だが、そこから様々な経費が差し引かれる。まず、単純にエンジンを動かすためのエネルギー代や船のメンテナンス代。戦闘に巻き込まれれば、破損した箇所の修理費等もだ。その他、賠償金や諸々を踏まえれば、手元にはスズメの涙程度の金額しか残らない。


 さらにラビット運送は護身用にアークメイルである〈天兎〉を一機保有している。前回こそ出番がなかったが、その前の一件では出番もあった。


 〈天兎〉は他の一般的なアークメイルの水準を上回る基礎スペックを誇り、幾度とラビット運送の危機を救ってきた。ラビット運送の面々にとって、〈天兎〉は切り札なのだ。


 ただ、この切り札。一度壊れれば修理には時間と費用が掛かる。欠損した腕の修理だけでも、ラビット運送からすれば大きな損害だろう。


 命は金に替えられないというが、命を守るための出費が多すぎる。


『皆さま、少しよろしいでしょか?』


 高性能AIであるバニーちゃんだけはこの状況でも絶望しない。人間三人にも見習ってほしい。


『実は一件、近くにいる運送屋を探しているという依頼を確保しました。匿名で依頼人については不明ですが、この航路を進んだ先で立ち寄れるアイスバックという寒冷な惑星からの依頼で、早急に預かってほしい荷物があるそうです』


「匿名っていうのが怪しいですね……バニーちゃん、肝心の報酬については分かりますか?」


『相当な額です。宇宙船とアークメイルを一個小隊購入してもお釣りがくるでしょう』


 相当な額。ここの所、貧乏生活を繰り返していた三人が、その言葉を聞いえ仕事を受けない理由はない。このご時世の人間は基本的に金に汚いが、この三人は輪を掛けて金に目がなかった。少し怪しいくらい、なんの問題はない。


「なら、決まりね! ヒノマル、次の仕事は寒いから防寒用の設備を用意。ヘイは一応、この船とアークメイルのリアクターを寒冷地用に調整して!」


「わかりました」


「ふん……大仕事を成功させる前の裏方ってか」


『それでは、依頼人に仕事を請け負う旨を返信。本艦の目的を惑星アイスバックに設定。例の依頼はこの辺り一帯の運送業者に一括送信されたらしいです。同業者同士の仕事奪い合いにならないよう、私たちも急ぎましょう』


 バニーちゃんに急かされる三人。急いで艦橋へと上がった。


 ラビット運送が目指すは、依頼人の待つ惑星アイスバック。〈スノーホワイト号〉はこれからの数奇な出会いと運命に向けて、大きくその舵を取った。

ここまでの読了、そして本作を手に取ってくれた事に感謝を。ラビット運送、クルー一同、喜ばしい限りです。


本作は私の好きな物のごった煮です。

へっぽこヒロインと苦労人主人公!

アウトローな運び屋行!

宇宙船に巨大ロボ!

仄暗い過去や、それと向き合う強さ!


とにかく好きな要素をごっちゃ混ぜにした、なんちゃってSF作品ですね! 何か一つでも私と同じ好きな要素があれば、これからも読み進めて貰いたいと思います。


気に入って頂けたなら、フォロー&コメントを是非! 読了ツイートで拡散、宣伝なんかもして貰えると感謝が尽きません。また過去作なんかも覗いてもらえると……っと、今回はここで幕引きです。


Thank you for you! Sea you again!



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