「ほんっとうにごめんなさい!」
「いいんじゃよ、ワシもすっきりしたわい」
私は村長に何度もペコペコして謝ったあと、のびているトリスタンを馬に乗せた。
「そなたは馬には乗れるか?」
「いや……できませんね」
「それならワシが馬を引こう」
楽器をさっと片づけて、馬の左側にいる村長の横につく。村長があごの下にある引き手を軽く引くと、馬は歩き出した。
おぉ、すごい。
昔は馬に乗っていたものの、今は歳をとってしまったので乗らないという。
「ワシは農民だから、あの城壁までしかいけないと思うがね」
「あぁ……まぁ、王都の中に運んだらもう大丈夫ですよね! 手当てしてくれる人、いますもんね!」
そっか、農民は王都の中にも入れないのかぁ。「都の民はみんな態度が大きくて、農民をばかにする」って思われてるのも、行ったことがないからかも。
いつか、どうにかして、きれいな王都を見せてあげたいなぁ。
歩いて五分ほどで城壁に到着した。
「通行証を出せ」
今日通ってきたばかりの私はすぐに提示し、村長は引き手を私に持たせた。
「ワシはこの辺で。上に大公爵様がお乗りになっている。落馬されたようなので、門番、よろしく頼むぞ」
「「「だ、大公爵様!」」」
城壁付近の警備をしていた騎士団が、一斉にこちらに集まってきた。
「近くの医者を呼べ!」
「王城の者に知らせろ!」
「早くしろ!」
そうだよね、貴族の中では大公爵ってトップなんでしょ? そりゃあびっくりするよね。
落馬したっていう体になってるけど、まぁいっか。
村長がこしょこしょ話をする仕草をする。
「そういえば……そなたの演奏で大公爵様のお怪我を治せるのではないのか?」
「できるとは思いますけど、今回はきっちり反省してほしいのでやりません」
「そうじゃな」
ふふっと笑いあい、トリスタンは騎士団にまかせて、私は王城に向かった。
王城の門番はほぼ顔パスで通ることができた。まぁ、昨日の今日だしね。
中にいた使用人に「トリスタンから、昨日の報酬の件で陛下と話し合いたいから来てほしいと言われた」と伝える。
「ご案内いたします」
使用人は納得した様子で、私は『王の広間』に導かれた。
ノックをし、重たそうな扉を少し開く。
「グローリア様をお連れいたしました」
「ああ、ご苦労」
昨日ぶりの国王の声が聞こえた。病気が治ったばかりのあのハイテンションぶりからは想像ができない、落ち着いた声をしていた。
「失礼します。急にお呼びになるとは想定しておらず、このような格好で参りましたことをお許しくださいませ」
本当は今日から、噴水広場で演奏する時もグレーのスーツで行こうと思っていた。
だが、今日はもともと農村に行く予定だった。スーツが汚れるのを心配して、綿のワンピースに細いベルトといういつもの格好だったのである。
「構わない。そこに座りなさい」
玉座に座る国王と数メートル離れた場所に、革の一人用の席が置かれていた。
「トリスタンが落馬して、そなたと村長が王都まで運んできてくれたそうだな。礼を言う」
「あっ、いえいえ」
本当は自分で吹っ飛ばしたなど、完全に落馬したと思いこんでいる国王の前では言えない。
「では報酬の話に入ろう。そなたたちプレノート家を、もう一度宮廷音楽家に迎え入れようと考えている」
「ホントですか!?」
「今は商人をしているそうだが、生活も保証しよう」
とんだ出世話である。一度貴族から没落して平民になり、また貴族に戻してくれる、ということなのだ。
普通、宮廷の仕事は貴族しかなれないものなので、私は『前代未聞』を成し遂げてしまったのだ。
「そなたは命の恩人。それほどのお礼をする価値はあるだろう。プレノート家の当主はそなたに任命する」
「は、はいっ!」
うわうわうわ! どうなっちゃってるの!? ただ国王にサックスを演奏しただけなんですけど!
すると突然、国王の私に向けている笑顔が、困惑の顔へと変わっていく。
「……トリスタンを送り出して十分後くらいに、農村の方で竜巻が起きていたが……、そなたは竜巻も起こせるのか?」
げげっ! 国王、勘が良すぎじゃない? そうじゃないと国王なんて務まらない……いやいや、どうしよう!
「やろうと思えば、できなくはないですけど」
「そなたがここに来たということは、トリスタンは私の伝言を伝え終わっているということだな。もしかして、トリスタンはあの口調で、そなたたちに話しかけたのではないのか?」
あの口調って、平民や農民を蔑んだ言い方? そういうことだよね。
「陛下もお分かりですか」
「ああ、あのように農民を下に見る物言い。何度か注意しているのだが、直らない。だが、そなたは能力を農民に振るまっているのだから、そのような思考はないだろう」
国王もよくないって思ってるんだ! ……それなら何で農民に圧政を?
「トリスタンに罰をお見舞してやったのだな。感謝する」
何か感謝されちゃったんですけど!? やってよかったってこと?
「ホントですけど、やってよかったんですか? 頭にきてついやっちゃって」
「いいのだよ。今はトリスタンの言うことに従っているまでだ。そうしてくれれば助かる」
意外な国王の裏を知ってしまった私。どう返したらいいか分からない。
「そなたのような人がこの国を変えるのだな」
遠い目で私を見てくる。
……えっ? 何言っちゃってるの?
「さすがに国を変えるまでは……」
ただ楽器を吹いて病気を治しただけで、貴族への復帰が決まり、国を変えるということまでの大事にまで発展。
えっと、国王って貴族に媚び売ってんだか、平民に媚びってんだか分からない……。
頭の中で整理しきれず、私は握手を求められてもそれに合わせることしかできなかった。
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