何もない静かなところで、ただ心臓の鼓動を感じている。
そして、今回は自分に手足があるような感覚がある。
いよいよ実は、まだ私は生きているような気がしてきた。
けれど、手足を失った人は【幻肢痛】というものを感じると聞く。
すでに失われた手足が、まるで今もあるかのように感じ、痛むそうだ。
幸い自分は手足があるようには感じても、痛みは無い。
むしろ心地良い。
まるで、ふわふわのベットで寝ているよう。
もしかして天国なのかな?
想像していたものと違うけれど、
何もない空間でただ心地良さだけを感じればいいというのも、
神の祝福なのかもしれない。
!!
突然右手に人の手が触れる!
間違いなく空想や幻肢痛ではない。
あまりにリアルな感触。
その相手は左手で私の手を取り、右手で私の手の平をなぞる。
私は慌てて手を動かそうとするが、動かない。
私は何もできず、ただ手の平をなぞられる。
もしかすると私は植物人間の状態で病院にいるのかもしれない。
いや、もしかすると目と耳をつぶされて、
何かの実験や儀式に使われているのかもしれない…
全く状況がわからない!
恐い!!
その相手は十秒ほど私の手の平をなぞり、布団の中に戻した。
そしてまた何も無い時間が始まる。
落ち着いて状況を整理しよう。
私は死んだと思ったけど、実は生きていて、
目も耳も不自由で体も動かせない状況でベッドで寝ている。
やはり一番ありえるのは、病院に運ばれて一命をとりとめたが、
植物人間状態になってしまったということかな。
さっきの相手も、私の手の平をなぞるだけだったし。
しばらくして、今度は布団の感触が無くなる。
そして服を脱がされる!
いや、落ち着こう。
もし病院なのであれば不潔にするのはダメだし、
定期的に看護師が体を拭くこともあるだろう。
変なことをされるわけではない、はず。
だって変なことをするつもりであれば、最初から服を着せる必要なんてないし。
いや世の中には想像を超える変態もいるみたいだし、あるいは…?
その相手は私の体を優しい手つきで拭いていく。
やはりここは病院で、この人は看護師だ。
なんだかとても大切にされているような気分になる。
どうやらここは無でも天国でもなく病院で、私は植物人間状態だったみたいだけど、
そんなに悪い感じはしない。
一通り体を拭かれた後、また服を着せてもらう。
そして今度は口を開かれ、生暖かいものが流し込まれる。
これはスープだろう。
私の体は動かないけれど、スープを飲むくらいはできるのかな?
生暖かいものが口から入って、そのままお腹のほうに流れ込んでいく。
へぇ、これくらいはでき……
ゴホッゴホッ
むせてしまった。
お腹に温かい液体と硬いものが落ちたことを感じる。
どうやら看護師さんが驚いてスープを落としたらしい。
熱い。
むせたことにそこまで驚く?
なんだか初々しい看護師だ。
それより、今の動きで急激に眠くなってしまった。
かなり体力が落ちているようだ。
少し、寝よう……
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