静かなところにいる

転生したら盲目難聴でした
あきや
あきや

22.静かなところ

公開日時: 2021年6月8日(火) 19:16
文字数:865

[せっかく来たんだし、手伝ってもいい?]

[気持ちは嬉しいけど、さすがにその恰好はまずいと思うぞ]

断られてしまった。

私にはいまいちどんな格好なのかわかっていないのだけど、

作業着ではないのはわかる。

[代わりと言っちゃなんだが、取れたて野菜でも食っていくか?

この葉っぱなんかはうまいぞ。]

アピロスさんからキャベツの葉を一枚渡される。

その表面をなで、感触を確かめる。

虫食いのない、みずみずしくしっかりした葉のようだ。

食べてみる。

シャキシャキした触感と共に、果汁のように甘い汁が口に広がる。

想像以上に美味しい。


そういえば前世でも今世でも、取れたてのキャベツを食べるのは初めてだ。

私はキャベツのポテンシャルを見くびっていたらしい。


[とてもおいしい!]

[そいつはよかった。

これなんかもうまいぞ。]

そう伝えると、アピロスさんはたくさんの葉を渡してきた。


こういうおばちゃん、田舎の畑に居そう。


[ありがとう。

でももう十分だよ。]

[そうか。

欲しくなったらいつでも来いよ。

それじゃ、アタイは収穫に戻るな。]

[邪魔しても悪いですし、僕たちは庭の散歩でもしましょうか。

庭と言っても、コリー様は倹約家ですので、あまり華やかなところではありませんが。]


私にはそれが見えない。

見た目が派手でも質素でも、どちらでも変わらない。


[いいよ。行こう。]


クリシと共に、柔らかい地面を歩く。

見えなくても、光輝く太陽から、強い日差しを浴びていることがわかる。

そういえばこちらに目覚めてから、こんなに太陽を浴びるのは初めてだ。


[少し休憩しましょうか]

しばらく歩いた後、クリシは立ち止まる。

そして私の手を動かし、何かに触れさせる。

椅子のようだ。

座って休もうということだろう。

私はその椅子に腰を下ろす。

クリシも隣に座っているらしい。


ここは日差しが柔らかい。

どうやら木陰のようだ。

ほんのり温かく、時々心地良い風が肌を撫でる。

見えなくても、鮮やかな木漏れ日と美しい自然が目に浮かぶ。

クリシの暖かい手を、右手に感じる。


とても静かなところだ。

本当はずっと、こういうところを求めていた気がする。

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