静かなところにいる

転生したら盲目難聴でした
あきや
あきや

37.居候

公開日時: 2021年6月18日(金) 10:46
文字数:1,581

「ねえ父さん、紹介したい人がいるの。

 彼女はテアティスさん。

 私は一生かけて、彼女を養わないといけなくなっちゃったんだけど……

 助けて?」


反応がない。

父さんが唖然としている様子とかが見たかったのに!

これでは冗談を言うかいがない!


[【癒やし主】じゃないか。

全く話が見えないんだが……

とりあえず、お前の中にある愛の形について聞こうか。]


良かった。

ちゃんと混乱してくれている。


[今の言葉は笑って流してくださって大丈夫です。

エク様は冗談を言いたい気分のようですので。

詳しくは、私の方から説明させていただいてもよろしいでしょうか?]

「お願い。

 別に話の内容を私に伝えなくていいよ。」


私では、父さんの反応を確認しながら説明するには時間がかかる。

こういうことはクリシに任せてしまった方がいい。

クリシなら順序立てて、理路整然と説明してくれるだろう。

私ならドワーフのくだりで、突然泣き出してしまうかもしれない。


父さんは認めてくれるだろうか?

もしかすると、この件にこだわり過ぎだと見られるかもしれない。

しかし私の感覚としては、他人事ではないのだ。

私も前世では、漫画とか結構感情移入して読む方のつもりだったけど、

実際に他人の人生を体験するというのは、想像以上に辛いものがある。

見知らぬ誰かのことを、文字通り自分のこと以上に捉えてしまう。

今まで見えた記憶は、手の届かない異世界の出来事だった。

だから割り切ることも出来た。

しかし今回は、はるか昔とは言えこの世界の出来事だ。

しかもその出来事によって生じた因縁が、今も続いている。

もしかすると今となっては、当のドワーフ以上にこの因縁を悲しく受け止めている存在かもしれない。

なにせエフォリアさんの子孫が、ドワーフという『亜人族』として扱われているほどだ。

あまり記録を残さない世界とは言え、軽く数百年前の出来事だろう。

当時のことなんて、知っている人がいるとしても、ほとんど神話の扱いになってそうだ。

そんなものを真剣に受け止める人なんて、きっと誰もいない。


いや、違う。

驚くことに、そんな神話のような出来事に本気で感情移入できる人が、

もう一人居たんだった。



[話は纏まりました。

コリー様としては大歓迎のようでして、

なんならもっと贅沢な要求をしてくれても構わないと思われているようです。

歴史がお好きなコリー様としては、【癒やし主】と話ができるだけでも十分過ぎるのだと。

そういうわけで、今日の夕食からテアティスも一緒になります。

コリー様は祝宴を開こうと申し出たのですが、テアティスが辞退しました。

とりあえず、イリンイのいつもの食事を味わってみたいそうです。]


良かった。

ありがとう、父さん。


テアティスさんが私の手に触れる。

[そういうわけだから、これからよろしくね、エクサティシーさん。]

[エクでいいですよ]

[そう。

じゃあ私もテアでいいよ。]

スムーズに愛称で呼び合うことになった。

[それじゃあ、私はちょっとアピロスさんの所に寄ってくるね。

彼女も辛いだろうし。]

[アピロスさんと知り合いなんですか?

というか、アピロスさんは何か怪我をしてるんですか?]


[前に彼女を診たことがあってね。

大したことじゃないんだけど、貴女と同じ【本質】に関わる怪我を、ちょっとだけ。

戦うって大変なことだから。

まぁ、彼女なら大丈夫だよ。]


アピロスさんには何か、名誉の負傷があるらしい。

なんだろう?

まぁ大丈夫ということなら、気にしないでいいかな。


そして父さんが私の手を取る。

[しかし、こんな大物を捕まえてくるとは!

さすがは私の娘だな!]


ポケ○ンみたいな言い方だ。

しかし彼女に言うことを聞かせるには、まだジムバッジが足りない。


[テアはドワーフと顔つなぎをしてくれるだけで、後は居候するつもりだよ。]

[【癒やし主】はどこにも味方しないと聞くしな。

でも様子を見る限り、お前ならうまくやれるんじゃないか?]

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