静かなところにいる

転生したら盲目難聴でした
あきや
あきや

14.どう使う?

公開日時: 2021年6月4日(金) 20:07
文字数:2,169

[強力な使い方って言っても、これにどんな使い方がある?]

[僕のメンタルに対しては結構強力ですよ]

[ごめん]


結構根に持つタイプなのかもしれない。

だけど、そうか。


[もしかして恥ずかしい前世をばらすという精神攻撃になるかも?]

[やっぱり僕の前世のこと恥ずかしいと思ってるんじゃないですか!]

[いや、そうじゃなくて、犬は本当にかわいいと思うよ?]

[それはどうもありがとうございます。

たしかに、仮に今から僕が暴力でエク様をねじ伏せたとしても、

変な敗北感が残る気がします。]


その発想が既に恐いよ。


[もしかして、脅されてる?]

[いえ、冷静にその奇跡の威力を評価しているだけです。]


その冷静さが恐いよ。

怒らせたら一番恐いタイプだ。

もう触れないでおこう。


[威力のことは置いておいて、まず問題はどうやって相手の頭に触れるかだね。

もういっそ、触れなくても見えているふりをして、適当なこと言っちゃおうか。

「お前の前世は殺人鬼だー!」とか。]

[悪い輩なら、その前世を逆に喜ぶのではないでしょうか?]

[たしかに。

それじゃあ逆の逆で、

「お前の前世は世界から飢餓を失くそうと尽力した平和主義者だー!」

の方がいいかな?]

[それだったら、悪者振っている姿がなんだかマヌケに見えますね。

それで相手が怒って殴ってきたらどうします?]

[それな]


私はただ、ここで大人しく世界平和を祈ってようか。


[助っ人を読んできます。

少々お待ちください。]

クリシは誰かを呼びに行ったようだ。


暇だし、ちょっとお祈りしてみよう。

異世界転生なんだし、何か起こるかもしれない。


慈悲深きヒドリオ様。

貴方のことはよく知らないけれど、どうか世界を平和に導いてください。

私を試練に会わせずに、苦しみから救い出してください。

この奇跡を使ってチート能力者と戦えみたいな試練は、本当に勘弁してください。


この力も、ゲネオドロス家の栄光も、ただ貴方の祝福です。

全てを貴方にお返しします。

どうか無力な私を守ってください。

無力な私を、守ってください。


祈りって初めてなんですけど、こんな感じでよろしいでしょうか?

聞こえてますか?


[お待たせしました。

助っ人です。]

クリシが帰ってきた。

そして、知らない手が私に触れる。

[久しぶりに話ができて嬉しいよ。アンタからしたら初めましてになるんだよな。

アタイはアピロス。『跳躍』の奇跡を持っている。

文字はあまり知らない。だから礼儀は期待しないでくれ。

頭を使うのは苦手なんだ。

よろしく。]


どうやら奇跡の担い手の先輩らしい。

クリシは先人の知恵を借りようと考えたわけだ。


とりあえず挨拶を返そう。

[覚えていなくてごめんなさい。

よろしく、アピロスさん。]

クリシが私の手を取る。

[粗暴な言葉遣いをされるでしょうが、ご容赦ください。

僕が通訳しようかとも思ったのですが、

アピロスが「会話は相手と直接するもんだろ」と言うので。

もし言葉が通じないときは、その都度僕がサポートします。]


クリシはなんだかんだで、こうしてちゃんと考えてくれている。

本当にありがたい。

クリシに感謝しつつ、アピロスさんに色々と聞いてみることにする。


[それで、【跳躍】ってどんな奇跡なの?]


[自分や身に着けているものを軽くできるんだ。

それで、ものすげー高くジャンプしたりとか、

ものすげーでかい剣をブン回したりとかだな。]


これまた強そうな能力が現れてしまった。

でも味方だから心強い。


[最初からそんなに強かったの?]

[そんなことはないぞ。

最初は走るときに体が軽い気がしたくらいだ。

でも元々走るのは速かったし、違和感はなかったよ。

体力ついてきてるなー、くらいの感じだ。

丸太を振り回せるようになったころに、アンタの父ちゃんがやってきて、

そこで初めて【奇跡】のことを聞いたよ。

で、アタイの村を獣達から守ってもらう代わりに、

アタイもここに来ることになったってわけだ。

今じゃ飯や勉強まで面倒見てくれてるんだから、ありがてー話だよ。」


丸太を振り回すって、

文字通りの意味ならボディビルダーみたいな筋力でも難しいのでは。

アピロスさんの手は、ちょっと皮膚が硬くなっている程度の、普通の女性の手だ。

実は体はゴリゴリのマッチョだったりするんだろうか?


[ちょっと体を触ってみてもいい?]

[え、いや、ダメだろ……?]

アピロスさんの手が震えている。


どういうこと?


しばらく間が開く。

クリシとアピロスさんが何かを話しているのだろうか。


[すまん。変な勘違いをしちまった。

いいぜ。触ってみろよ。]


変な勘違いをさせてしまったらしい。

[触わる]という言葉は、地域によっては何かの隠語なのかもしれない。

まぁ、あまり追求しないでおこう。


私は手を伸ばし、アピロスさんの腕を触る。

確かに筋肉質ではあるけれど、ゴリゴリマッチョではない。

どちらかというと、無駄を削ぎ落したアスリートのような肉付きだ。

とても丸太を振り回せるような体には思えない。

[いい体だね。ありがとう。]

[もういいのか?]

[うん]

[そう]

[それで、その奇跡を使って丸太を振り回すまでにどれくらい時間がかかったの?]

[3年くらいだな]


結構かかるみたい。

でも、確かにそれくらい時間をかければ『前世が見える』という奇跡にも、

何か有意義な使い方が見つかりそうな気がする。


[それで、アンタは前世が見えるんだろ?

アタイの前世はどんななんだ?]

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