[酒場につきました。
稼ぐ必要のある女性は大体ここで働いています。]
想像は付くけど、一応聞いてみる。
[どんな仕事をするの?]
[それは……
歌ったりダンスしたり、調理や配膳なんかもありますね。
後はまぁ、男性からお金をもらって一晩共にしたりです。
というか、主な収入はそれらしいです。]
やはり、女性にはそういう仕事くらいしかない世界観のようだ。
しかしこうしてクリシが私に話せるということは、姦淫即死刑というわけではないらしい。
[その仕事をしている人と話してみたいんだけど]
[それはやめておきましょう。
エク様が関わるべき世界ではありません。]
[関わるって言っても、ちょっと話すだけなんだから、大丈夫だよ。]
[そこまで言うのであれば、声をかけますね。]
しばらくして待った後、再びクリシが私の手をなぞる。
[ここで働いている女性が来ました。
彼女は文字を知らないそうなので、私が通訳します。
どうもこの時間は他に人がいないそうでして。]
[ありがとう。名前は何という人?]
しばらく沈黙が続く。
きっとクリシが話をしているところだ。
[どうやら名乗る気はないようです。
立場を理解していませんね。
理解させましょうか?]
どうやって?
[名乗りたくないなら別にいいよ。
ここでの生活がどんな感じか聞ける?]
沈黙。
[言われたことをそのまま伝えます。
「私と話したいなら買いな。100ドルだよ。」
明らかに不当な金額です。]
[用意できる?]
[いいのですか?]
[お願い]
しばらくして、クリシは震えながら私に伝える。
[「受け取るか。そんな金。
こっちは自力で稼いできたってプライドがあるんだよ。」
どうやらエク様を舐めているようです。
とりあえず石打の刑にしましょうか?]
[やめて!]
これで石打になんかしてしまったらシャレにならない。
[気持ちはわかるよ。
私は運が良いから、特に不自由を感じずに生きられてるわけだし。
だからこそ、何か困っていることがあれば力になりたいだけなんだけど。]
[わかりました。
そのように話してみます。]
沈黙。
[「助けなんかなくても一人で生きていける。
アンタと違ってね!」
とのことです。
とりあえず殴り倒しますね。
心配は要りません。
こんな場末の女ごとき、軽くひねり潰せる程度には鍛えています。]
その判断が心配だよ!
[確かに私はクリシに頼りきりだし、そんな奴に同情されてると思ったら腹が立つかもしれない。
私の配慮が足りなかったよ。
それは謝ろう。
でも、生きていければいいわけじゃないはずでしょ?
少しだけ、そういう話がしたいだけだって。]
クリシの返事がない。
長い沈黙の後、静かにクリシの手が私から離れる。
いけない!
何を言われたか知らないけど、殴ることにしたらしい。
私はクリシの腕にしがみつき、何とか止めようとする。
クリシは私を振りほどこうと暴れる。
予想以上の力だ。
狂犬か!
[わかった。もうやめよう。もういいから帰って寝よう。]
しばらく暴れた後、クリシは落ち着きを取り戻す。
そして怒りに震える手で、私に返事をする。
[失礼しました。
まさかエク様の優しさを一片も理解できない猿を人と間違えてしまうとは。]
犬猿の仲って言うからね。
いや、そんなことを思っている場合じゃない
何があったか知らないけど、そこまで言わなくても。
そういう人もいるって。
知らない男の人の手が私に触れる。
[大変失礼いたしました。お詫びの言葉もございません。
この女は最近おかしくなってしまいまして、丁度辞めさせようとしていたところです。
どうかこの件は水に流していただけないでしょうか?]
見事な平謝り。
しかし、助けようとして仕事を奪ってしまったとしたら、あまりに不本意だ。
[辞めさせないであげて。
彼女は私のお願いしたとおりに率直な意見を話してくれただけだから。]
[全て貴女様の仰る通りに致します。
本当に大変ご迷惑をおかけしました。]
クリシに連れられて、店を出る。
とりあえず、一件落着ということで良さそうかな。
思わぬ苦労をしてしまった。
この好感度チートも、誰にでも通用するわけではないらしい。
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