静かなところにいる

転生したら盲目難聴でした
あきや
あきや

20.母

公開日時: 2021年6月7日(月) 20:27
文字数:1,304

部屋に戻り、ベッドに横になる。

この感触に、すっかり安心感を感じるようになった。

母さんが私の手を取る。

[帰りながらクリシに話を聞いたわ。

色々なものが見えてしまって、大変だったわね。]

もう既に色々伝わっているらしい。


たぶん犬の件は除いて。


[うん。だけど久しぶりに光や音を感じて、懐かしかったよ。]

[そうね。きっと光を失ったあなたに与えられた、ヒドリオ様の慈悲なのね。]


ヒドリオ様の慈悲か。


欲を言えば、もうちょっと素直な形で慈悲を示して頂ければ助かるのですが。


せめてコミュニケーションが取れるタイプの神であって欲しいです。


クリシが私に触れる。

[それでは、私はこれで失礼します。

お大事になさってください。]

そう伝えて、クリシが私から離れる。

部屋で母さんと二人きりになったらしい。

[それで、その奇跡だけど、見えているあなた自身はどう感じるの?

例えば予言的な光景が見えているとか、その人の深層心理が表れているとか、

そう感じたりはするのかしら?]


予言に深層心理か。

確かにそうとも考えられるのかもしれない。

しかしやっぱり、前世説が一番しっくりくる。

なぜならまず、私自身に異世界での前世の記憶がある。

そして私が明確に前世を覚えているのも、

この奇跡の力によるものだとすれば辻褄が合う。

何より、予言だとか深層心理だとすると、クリシが色々と危ない!


[やっぱり前世なんじゃないかと思うな。]

[そう。それなら、間違いないでしょうね。

あまり父さんに変なことを言って、心配をかけないようにしなさい。

それじゃ、私もこの部屋にいるから、何かあったらいつでも呼んでね]


しばらく見守ってくれるらしい。

そんなに重症ではないのだけど、大人しく休んでいよう。


それにしても、父さんの前世はなんとも複雑な記憶だった。

あの女の人は結局、裏切者だったのだろうか?

だとしたら、なぜ裏切る相手のプレゼントを大切に持っていたんだろう?

わからない。

母さんならどう考えるのかな?


私は「母さん」と声を出す。

もちろん自分では聞こえないし、

この世界において意味のある発音ではない。

しかし、それにこたえて母さんが私の手を取る。

[どうしたの?]

[父さんの前世が気になるんだけど、

どうして敵の女の人は、裏切る相手のプレゼントを大切に持っていたのかな?]

母さんの動きが止まる。

すごく悩んでくれているらしい。


数十秒ほどたった後、母さんが答える。

[難しくて母さんにはわからないわ。

貴女はどう思うの?]


逆に聞かれてしまった。

わからないから聞いているのに。

けれど、わかる範囲で想像してみよう。


[女の人は父さんのことを、本当に大切に思っていたんじゃないかな。

本当は裏切りたくなんてなかったんだけど、立場が違うからそうするしかなくて。

きっと本当は優しい人で、裏切るときもすごく悩んで、

最後は父さんを殺せなかったんじゃないかな。]

母さんは答えない。

また何か悩んでいるらしい。


しばらくたった後、母さんが答える。

[そういうことかもしれないわね。

私には全然わからなかったわ。

父さんに似て、優しい子に育ったのね。]

そして母さんは、私を抱きしめる。

それはクリシや父さんのと比べると、少し遠慮がちなように感じた。

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