静かなところにいる

転生したら盲目難聴でした
あきや
あきや

23.村

公開日時: 2021年6月9日(水) 10:25
文字数:1,533

[村へ行く準備ができました。

案内いたします。]

[よろしくね]

いよいよ外に出る許可をもらった。

もうクリシの補助さえあれば、かなりいろいろなことができるようになった。

私は危なげなくクリシの後をついていく。


[こちらの馬車にお乗りください]

私はクリシに促された通り、馬車に乗り、座る。

すると、知らない大きな手が私に触れる。

[スタシモティタです。

私も同行します。]

スタシモティタというと、あの時を止めるという奇跡の担い手だ。

頼もしい。

[私のわがままに付き合わせてしまって、ごめんね。]

[それが役目です]

その少しぶっきらぼうだと感じるような一言で、会話が止まる。

これ以上の言葉は不要ということか。


スタさんと呼ぶことにしよう。

時を止める強キャラでぶっきらぼうなスタさん。

しっくりくる。


しばらくすると、背もたれに押し付けられる力を感じる。

馬車が動き出したようだ。


この移動はどれくらいかかるんだろう?

クリシの手を取る。

[村にはどれくらいで着くの?]

[5分程です。すぐですよ。]

すぐ近くだった。

[それくらいだったら歩きでもよかったんじゃないの?]

[いえ、食料を調達する必要があるので。

それに何よりエク様が徒歩で村に来るなんて、いくら何でも威厳に欠けます。]


また中世身分カルチャーショックが発生。

私には不思議だけど、そういうものらしい。


[着きました。

ここは貧しい子供たちを引き取り、言葉を教えるところです。]

馬車から降り、クリシに連れられて歩く。

女性の手が私に触れる。

[ようこそいらっしゃいました。

私はここで教師をしています、カロと申します。

いつか貴女に感謝を伝えたいと思っていました。

この仕事がなければ、私は今頃どうなっていたか……

貴女には感謝してもしきれません。]


また身に覚えのない感謝をされてしまう。

決して裏のない、心からの感謝のはずだけど、どうしても違和感を感じてしまう。


[貴女こそ、協力してくれて助かってますよ。]

[そんなお言葉を頂けるなんて、光栄の限りです。

どうか子供たちにも触れてやってください。

話し言葉はそれなりに覚えたのですが、まだ文字は知りません。

ですが、貴女に触れられるだけでも喜ぶはずです。]


なんだかやたらと期待が重くて、ちょっと怖い。

けれど、どうやら触ってあげるだけで越えられるハードルらしい。

この好感度チートには感謝です。


小さな手が触れる。

私はその手と握手をする。

そして頭を撫でる。

同時にイメージが流れ込んでくる。


頭に触れても意識が飛ばないようになってきた。

私は私のまま、色々な世界を見る。

現代、中世、近未来、原始、宇宙。

科学、魔法、超能力、奇跡。

時に人として、時に獣として、時に植物として、色々な能力や権力を手にしている。

しかしなんだか、大きな力を使わなければいけない記憶ほど、悩みが深く苦しい気がする。

逆にクリシの前世のような記憶を見つけては、和む。


クリシが触れる。

[これで一通り触れたようです。

体は大丈夫でしょうか?]

[大丈夫だよ]

[そうですか。あまり無理をしないでくださいね。

他に行きたいところはあるでしょうか?]


ここに来たいと思ったのは、アピロスさんの前世を見たからだ。


[仕事をしている女性を知りたいな。]

[女性の仕事ですか……

家事以外ですと、酒場なんかになってしまいますが……]

[じゃあ酒場に行こう]

[わかりました。案内します。]

クリシに連れられて、馬車に乗り込む。


突然クリシが私を抱きしめる!

何事!?

直後、強烈な突風が吹き付ける!

私とクリシは馬車から投げ出され、地面に落ちる。

クリシを下敷きにするように倒れてしまった。

[大丈夫?何が起きたの?]

クリシはよろめきながら立ち上がる。

[魔獣。逃げよう。]

クリシは簡潔に返事をして、私の手を引き走り出す。

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