これは小さな匣庭のおはなし。
このおはなしの【犯人】は誰か。
このおはなしの【真実】は何か。
ささやかな二週間の日々の中で、
彼らのおはなしの結末を推理してみてくださいませ。
赤い月を、見上げていた。
それは不思議と、とても美しく思えた。
真っ赤に染まった満月。
藍色の空に、その満月は大きく輝いていた。
進まなくちゃ。
萎えかけた足を、それでも懸命に動かして。
僕は夏の夜闇の中を、歩き続ける。
足に感覚はなく。
いつの間にか靴もなく。
そして、辿り着く場所もなく。
それでも……歩き続けていく。
ふと、頬を冷たいものが流れていった。
それを冷たい指で拭った。
指の上に残った一粒の雫は、
あの赤い月と同じように、赤く滲んでいた。
何度も何度も、繰り返し耳にしてきた伝承。
狂い始めた世界でもがくうち、教えられた昔話。
赤い満月が昇る夜には、
全てが狂い、鬼が嗤う。
そして今――世界は確かに、狂いの中にあって。
赤く染まった、満月。
赤く染まった、世界。
赤く染まった、視界。
赤く染まった――両手。
ねえ……。
狂ってしまったのは、世界が先なのかな。
それとも、僕が先なのかな。
今になってもまだ、その答えは分からない。
でも……皆。
これだけは、言えるんだ。
例えこの小さな世界が滅茶苦茶に欠け落ちてしまった後でも、
これだけは、決して変わらないと。
この、ちっぽけな箱庭で、
僕たちが過ごしたささやかな時間は、
どうしようもなく愛おしく、
そして、満ち足りたものだったんだよ、と――
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