「八月二日か。どれくらい変わるんだろうな」
帰宅後、父さんは早速テレビを点けながら言う。
「さあ。今のところ、特に不便は感じてないんだけどねえ。今後、技術革新に置いていかれないようにっていうところでしょうし」
母さんはそう答えて、お風呂の準備をしに行った。僕も、結構疲れてしまったので、お風呂が沸くまで自室で休むことにして、二階へ上がった。
電気も点けず、ベッドに倒れ込み、スマートフォンの画面を開く。龍美が、説明会おつかれ、と発言していたので、僕もおつかれ、と返信した。虎牙は、まだ見ていないらしい。
僕たちが恩恵を受けるのは、このスマホ通信が主たるものだろう。街全体で、無料でWi-Fiが利用出来るようになれば、便利なことは間違いない。技術は日進月歩だし、いずれは通信機器が街中に溢れるようになって、満生塔があって良かったと感じるときがくるのかな。インターネットオブシングスという言葉も聞くようになってきたし、決して非現実的な話ではないと思う。
「……鬼、か」
時代は移り変わる。かつては鬼を恐れていた三鬼村も、今では科学技術の集まる満生台となっている。
鬼がただの伝承に過ぎないのなら、もうこの場所に、鬼の居場所はないように思えるけれど。
よくある民話ではない。瓶井さんが口にした、その真意だけは、分からなかった。あの言葉の裏には、一体何があるのだろうか。
「……ん」
いつのまにか、ポツポツという小さな音が聞こえていた。ゆっくりとベッドから身を起こし、窓の外を見てみると、雨が降っているのが見て取れる。帰ってきた後で降り出したようだ。ラッキーだった。
少しの間、ボーっと外を眺めていたが、そうしている間にも雨脚は強くなり、最初はポツポツだった音が、ザーザーという音に変わっていった。ゴロゴロという遠雷まで聞こえ始める。
「明日も雨かな……」
そうなると、学校へ行くのが憂鬱になるな。雨は、苦手だ。
そんなことを考えているとき。
「……!?」
突然、意識が遠くなり、視界が明滅して。
自分の体を支えきれず、足がふらつくのを感じた。
「……何、なん……だ」
直後、脳天に割れるような痛みが走り。
「ぐッ……!?」
その痛みに目を固く閉じると。
瞼の裏に浮かんだ、異形。
それは、消そうとしても薄まらず。
映り続ける。
赤い眼。
憤怒を形容したような。
鬼の――。
死 ね
「あ……、あぁ……」
幻聴だ。
聞こえるはずがない。
なのに、僕の耳に。
それは、確かに聞こえたような、気がした。
そこから世界は、非日常へと転がり落ちていった。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!