SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
退会したユーザー ?
退会したユーザー

Ⅹ 魔王の規律

公開日時: 2021年8月6日(金) 18:46
文字数:3,802

「ほらほらほらぁっ! 気張って防げよ! 魔王様ぁ!!」


 テンセイシャ・ミネヅカアツヤは、自分の身体程の刃渡りのある大剣を出現させ、まるで棒を振り回すかの速度で連続して斬りつけ、ドルグァーマを圧倒した。

 始めは二本の剣を出現させて対峙していたが、最初の一撃を受けとめ、その威力によりドルグァーマは事態を悟り、続く二撃目には二本の剣は砕け散った。

 それから暫くは逃げ回っていたが、アツヤの攻撃が大剣だけにとどまらず、魔法まで使用してドルグァーマを追い込んだ。


「燃えやがれぇ!! ヘルズフレアウォール!!」

 アツヤが腕を振るうと、縦に燃え盛る炎が横並びになってドルグァーマに迫った。その光景は炎の壁が迫るように伺える。

(――!? どういう事だ……)

 ドルグァーマは心中に疑問を抱くも、壁がすぐそこまで迫った時点で王力を全身から発し、壁をその身に受けた。数秒程だが分厚い炎の壁を通り過ぎ、ようやくやり過ごすと、それを待っていたかのようにアツヤが迫って斬りかかった。

 ドルグァーマは咄嗟に一本の剣を出現させ受け止め刃を沿うように受け流した。アツヤが態勢を崩すと、王力を足に込めて跳び退き間合いを取った。


「逃がすかよ!!」

 アツヤは左手に紫色の球体を出現させた。

「ダークグラビティボール!」そう叫んで、砲弾を放つが如く手をドルグァーマに向け、球体を放った。

 その球体に並々ならぬ力が蠢いている事に気づいたドルグァーマは球体を躱したが、それは軌道を変えてドルグァーマ目掛けて襲って来た。

「逃げろや魔王様! 二発目ぇ!!」


 流石にこれ以上増やされると面倒だと思い、ドルグァーマは剣を構えて王力を放出した。

 同時にぶつかる球体を受け止め、更なる王力を込めると、球体は弾けた。

 力を使って疲労し、剣を突き立ててしゃがんだが、剣は地面に突き刺した部分から硝子が砕けるが如く砕けていった。


「おいおい、魔力切れかぁ? 武器の形状維持もままなってねぇじゃねぇか! これで何本の剣を無くしたよ!」

 合計八本の剣をドルグァーマは出現させていた。二本一対の武器を二回、一本使用を四回。これで八本が砕けた。そして一本使用の剣は四本共、相手の攻撃を受けて地面に刺した後砕け散った。

「あんた、魔王失格だぜ」

 ドルグァーマはなにも返さず、じっとアツヤに険しい眼光を向けていた。

 アツヤは両腕を広げ、それぞれの両手に七色の虹色が斑に蠢く球体を出現させた。

「限突レベルMAXの俺の最高技だ! 全力込めのハンパねぇ一撃! しっかり受け止めやがれぇぇ!!!!」

 アツヤは空高く飛び上がり、上体を思いきり逸らせ、両腕に力を込めて球体を投げつけた。

 ドルグァーマは王力を全身から放出し、その光球をしっかりと睨み付けた。すると、迫る途中で球体が三倍まで膨らんだ。

「ハイブレイクインパクトだぁぁ!!」

 二つの球体がドルグァーマに直撃すると、まるで大岩が高所から海に落下したように、七色の水飛沫のような、波柱のような光が昇った。

「――っっしゃぁぁぁ!! 俺様最強! マジパねぇぇ!!」


 興奮冷めぬまま地面に着地すると、ある違和感に気づいた。それは強力な一撃を放ったはずが、地面が一切えぐれていない。

 もしあの衝撃であるなら地面は広範囲に深い大穴が空いている筈。それが無いということは、ドルグァーマにより、何らかの方法で球体二つを弾き飛ばされたと言える。

「やれやれ、何を言ってるのやら分からんが、お主は煉王に似た所があることは判明した」

 土埃が晴れると、若々しいドルグァーマの姿が現れた。

「てめぇ! 進化しやがったなぁ!!」

「進化? 下らん戯言をほざくな。あの技は魔気の量が多い故、王力を過剰に注いで防いだ。本来なら急激な若年化は色々負担が大きいのでな、進化といえる上質なものではない」

「嘘つくんじゃねぇ! さっきまでいっぱいいっぱいの奴が、あの技を軽々と防げるわけがねぇだろ!!」


 ドルグァーマはため息を吐いた。


「お主、なにやら誤解があるようだな」

「誤解?」

「初めからお主のよく分からん名の技など、苦戦の対象としておらんわ」

 ドルグァーマは気づいていた。アツヤの術技の一つ一つの欠点を。

「炎やら黒くうねらせたのやら、芸達者な妙技を繰り出しはするが、その本質はまるで築き上げられておらん。だた多量の魔気が集まって形を成してはいるが、それで何を壊そうというのか」

「んだと! てめぇは俺の攻撃を受けて確かに弱っていた筈!」

「諸事情により演技事には縁があってな、弱く見せてお主の心意や技を見極めようと思った。しかしどうという事は無い。意志はただ横暴の限りを尽くし、魔気の総量には驚かされはしたが、技の数々は粗末で荒い、成りだけ一丁前に取り繕ってはいるが中身はスカスカ。唯一技として成り立っていたのはただの力技のみ。よくそれでワシに挑もうとしたものだ」


 衣服に着いた土埃を払う動作を見せられて、アツヤは怒り心頭なり、咆哮と同時に大剣を出現させて高速で攻めた。しかし、その一撃一撃が難なくドルグァーマに躱され続けた。


「これならついてこれるかぁぁ!!」

 大剣を長剣に換え、先ほどより高速で断続して斬りつけた。だがそれも、ドルグァーマの出現させた剣で一撃一撃を受け止め、時に受け流し、呆気なく躱した。

 それでも気が治まらないアツヤは攻めに攻め、躱しているが後退る敵の姿を見て、事態は好転していると思い、不敵に笑みながらさらに斬りつける速度を上げた。

 突如、アツヤは身体の動きがぎこちなくなり、身体が重くなり始めた。

「……な――どう、い――……ぐっ」

 いよいよ身体を動かすことが困難となり、跪いて両手で上体を支えている姿勢となった。

「お主は単純な男よ。少し弱者を気取れば調子に乗り、単純な挑発を示せば怒り狂って見境なし。ここに連れて来るには容易であったわ」

「て、てめぇ、何しやがった……」


 ドルグァーマが傍に刺さった剣を指差した。それはドルグァーマがアツヤの攻撃を受けて砕け散ったはずの剣であった。

 剣は四本。地面に突き刺さった状態で現れ、アツヤを中心に四角形を描いていた。


「砕けたんじゃ……」

「魔気とはこのように幻覚を見せるのにも使用できる。演技と組み合わせて浄化陣を組み、お主をここに誘き寄せた」

「浄化……?」

「お主はテンセイシャであり、それは思念体であるが故、浄化で消えると聞いたのでな。不慣れで簡易だが少々強力な浄化陣を張らせてもらったぞ」

「てめぇ、初めから俺を消す気で」

「当たり前だ。いきなり民たちを襲い横暴三昧、初対面で馴れ馴れしく上から目線の対応、ワシが魔王ということを知っても弁えることがなく規律を守ることも出来ん。獣王ではないが、礼儀知らずをのさばらせてやる程ワシは暴力者を好いてはおらんのでな」


 アツヤの身体のあちこちの輪郭が小さく崩れ始めた。


「はっ、ルールに縛られた魔王かよ。知らねぇのかあんた、ルールってのは破る為にあるんだぜ」

「ほう。主の世界ではルールと呼ぶのか。ならその言葉を用いて教えてやろう」

 ドルグァーマの怒りが、王力の威圧となって現れ、アツヤに重圧を掛けた。

「ルールと言うのは、理性ある者達が真っ当な生活を送る為に必要な環境を作り上げるための決まりであり縛りだ。それは相手次第では生きにくい環境なのかもしれん。そういった者達の意見も纏め、新たなルールに改善され、その環境に身を置く者達を護る法だ。その法は少数では酷く脆いが、多数の者達が守れば頑丈な壁となる。そのルールを破ってなんとする?」

 また圧力が強まった。

「ルールは破るためにあると言っておったな。確かに大人数で身を置くなら小さいが重要な綻びが生まれ、ルールを改訂するために一部を壊し改めるというなら良しとしよう。しかしお主はなんだ? そんな事も分からずよくも見ないでカッコ付けのためにぬかしたのか? 今まで多くの者達に守られ、何かの反発の為に横暴三昧に興じたというのか? ならその後はどうする? 力で多数の者達の上に立った者が、気分高らかに、いつ尽きるやもしれん勝利の美酒に酔いしれたいだけか? 何が面白いのだ。お主はお主の技の如く中身がスカスカだ。風貌と原始的な奪い合いのみの、知恵の乏しい蛮族でしかない!」


 言われたい放題のアツヤは、重圧に耐えつつ、身体のあちこちが温かい何かによって滲んで溶け出る感覚にとらわれ、悔しさと怒りを露わにした表情でドルグァーマを睨み付けた。


「てめぇぇっ!!」怒声虚しく、身体は動かない。

「ルールの重要性を理解する知力がないならそのまま消え去るといい。この世界は主の住まう世界ではないというだけだ」

「ち、ちっくしょぉぉぉ――!!!!」

 間もなくしてアツヤは輪郭全てが溶けるように消えた。

 戦闘を終えたドルグァーマは、放出した王力を徐に収束させると、一気に顔が老け込み、影と対峙した紳士老人の様相まで老け込んだ。


 ドルグァーマは焦った。

 前回の王力多量使用からようやく回復した矢先、それを上回る消費により、完治の期間を予測するだけでアンドルセル王の期日を優に超えてしまう。


(貴方という方は、規則規則と口煩く言うわりには、他所の用事に感けて二か月前から言っている用事を蔑ろにするとは……。まず規則を語る前に基本的な礼儀を学んでから出直してほしいものだ)

 ゼグレスの冷やかに注ぐ眼差しが容易に想像できる。


 それだけをどうにか阻止せねばならないと、ドルグァーマは抱きつつ帰路についた。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート