SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅱ 黒い化物

公開日時: 2021年8月7日(土) 10:43
文字数:2,366

 ストライはアンドルセル王達に会う時も、作戦を聞いている時も、そしてその作戦を決行準備をしているガンダルの元へ訪れてからも、一向に顔を隠す仮面を外そうとしなかった。


「何をしているのですか先生。そのような仮面を被って。何かのおまじないですか?」

「ええいやかましい! 此方とて事情あっての事だ」

 この国でメフィーネ信者増加計画を決行した際、当然顔を見られている為、身元隠しの為の仮面である。

「それより準備は出来たのか」

 素性隠しの苦労から解放され、少し気持ちが落ち着いた。

「勿論、準備万端。いつでも彼奴と対峙可能です」

 本作戦、誰よりも闘士を沸かせているのはガンダル本人であった。


 オーリオ王子の憑きモノ浄化作戦は、まずガンダルが以前行ったように憑きモノを呼び出す。それにより今回は力を十分蓄えた敵は、以前よりも本性を明確にしていると思われ、何かしらの力を発揮すると憶測された。それを、ストライのアルガを用いて人間達の戦力を増強させ対処する。

 アルガ発動準備中、無防備のストライをガンダルが守り、アルガ発動後、影はその場を離れるため退避する。しかし、秘術により影の到着場所をドルグァーマの待つ場所(廃れた教会となっている)に誘き寄せ、ドルグァーマが浄化させる。


「先生、改めて確認です。彼奴は全力で俺が潰しても構わないのですよね」

 準備運動も整っており、眼つきも魔気も、いつでも戦闘可能となっている。

 ストライを守る名目だが、ガンダルが名誉挽回出来るならなんでも構わないと思っている。

「無論だ。私のメフィーネ様と向き合う時間の防衛。誰もが許してくれる所業であろうよ」

 ガンダルは思い切り両手を合わせ、感謝の意を示した。

「有難うございます!!」


 あくまで、ガンダルの女神への感謝が一切ない事は揺るぎない。

 ストライの了承を得たガンダルは、前もって以前と同じように描いた円陣の前に立つと、同じように小声で何かを呟きだした。

 一方でストライは太陽に向かって両膝を付いて手を合わせて祈りの姿勢を取った。


「メフィーネ様、これより行う事は貴方様の加護無くては成しえぬ事柄で御座います。かつてない程に増えている信者達を救う助力を、ほんの少しの加護を御与えくださいませ――……」

 さらに祈りは続く。


 ストライのアルガは、そのまま発生させることも可能である。しかし、彼の祈りの量か、はたまた祈らずに使用したことへの罪悪感からか、祈祷時間を設けなければ発動しにくくなる。

 そうこうしている内に、ガンダルは影を呼び寄せる術を使用し、円陣の中央から以前以上にどす黒く、形のはっきりした黒い二足歩行姿勢の『何者か』が出現した。その時同時に発生した黒い多量の冷気か上記の様な、気体が同時に広がった。

 ガンダルはその光景に恐怖を覚え、冷や汗を流した。

 黒い化物は、興奮を露わにしているかの如く、両手を左右に広げ、頭部の顔に位置する面を上空へ向け、真っ白い口を出現させて楕円形に広げた。


「ギィィィヤァァァァァ、アアアアアアア――――!!!!」


 耳を塞いでしまう程の高い声で声量も身体に響くほど重く大きい。叫びだけで圧倒され、前方に見えない巨人でもいるかと思われるほどである。

 圧倒されたガンダルは、その叫びに微動だとせず祈り捧げているストライを見て、自らの不甲斐なさを痛感し、改めて敵を睨んだ。


 尚、ストライは祈りの際、既に自分の周囲にアルガが発生している事で、物理的妨害以外は遮断される性質を備えているだけであり、圧倒的な叫びはストライに届いていない。そして、この小さなアルガの防護壁が起こる事も、本人に自覚は無く、それ程集中して祈っているだけである。

 黒い化物は、叫んだ後、真っ白い目が出来上がり、口の部分が三日月を受け皿のように倒した形で笑みを表した黒い化物は、ガンダル目掛けて突進してきた。

 ガンダルは魔気を纏って突進を受け止めたが、反動で三歩ほどの距離を飛ばされ、その体制を崩している間に黒い化物は体術で連続して接近技を繰り広げた。


(これは――くそっ!)


 その技の応酬はかつてガンダルがこの黒い化物相手に繰り広げたものである。

 一方的な物真似技に苛立つガンダルは、攻撃を受ける覚悟で自身も攻めに徹した。すると、ある一撃が見事に相手の足を払って片足立ちで体制を崩した隙を見て、両手に魔気を込めて胴体に掌打を放った。同時に衝撃波で相手を飛ばした。


「次は俺の番だ!!」

 ガンダルは相手が地面に着地するのを待たず、すかさず突進して宙に浮いたままの状態で蹴り技を繰り広げた。

 一度、二度、三度。

 地面に叩きつけ、遠くへ飛ばし、更には上空へ。相手が態勢を立て直す間を与えない連撃。

 上空に上がった相手に向かって突進し、拳に魔気を込めた、かつて煉王直伝の秘儀をぶつけようとした矢先、黒い化物は満面の笑みと思われる表情を表した。

 その不気味さがガンダルに躊躇いを生ませ、技の為に込めた魔気を消し去った。

 だからといって別の体術をぶつければと、殴る姿勢を取った時であった。

 黒い化物の視線が他所の大地に向けられ、反射的にそちらに視線を向けた。すると、黒い化物を呼びだした近辺の草原地帯以外の場所が所々真っ黒く染まっていた。


「なっ!! ――ぐっ!!」

 他所に気を取られている隙に黒い化物はまるで空中殺法も容易とばかりに無理な体勢から地面に叩きつけるような蹴り技を見舞い、ガンダルを蹴り落とした。

 さらに地面に叩きつけられたガンダル目掛けて突進して追い打ちを見舞った。一応、地面への衝撃を緩和させるために全身に魔気を纏った状態であったため、追撃の威力は緩和されたがそれでも身体に効く一撃であったことに変わりは無い。

 黒い化物がガンダルを蹴り飛ばすと、どうにか態勢を立て直し、追撃を躱して間合いを取った。

「やるな。化物」


 相手は小首をかしげて笑みを浮かべた。

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