SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅶ アンドルセル王とゼグレスの対談(本題と信念)

公開日時: 2021年8月2日(月) 18:35
文字数:3,153

 それからアンドルセルの苦労話がしばらく続き、そして、ゼグレスの魔種族についての話の後半が始まった。


「いやあ。アンドルセル殿の話を聞くと、私には人間の王は務まりますまい。書類に目を通し、判を押し、礼状や書類を書き、更には挨拶回りなど、目が回ってしまう」

「魔種族の王としての公務は無いので?」

「公務はあります。しかし、アンドルセル殿程に目が回るものでは御座いません」

「ほう。ちと羨ましい気もするな」

「そもそも我々の国は国民の為に金を使い、モノを建てたり壊したり、改装したりがありません」

「貿易や政治が無いと!?」


 アンドルセルは驚きの連続で表情豊かに見えるが、ゼグレスは一貫して極端な感情変化を見せない、礼儀正しさを貫き通す振る舞いと言動を心掛けている様に見える。


「そうまでは言いません。国同士での貿易は主に物々交換になります。魔種族は『物欲』というものが乏しく、国民の衣装や家屋でさえ見た目は百年以上は同じようなものです」

「ほう。しかしその家屋を建てるのも自然災害に見舞われた場合、国が率先して救助やら支援へ向かうのでは?」

「そもそも『家屋や建造物を誰かに頼んで造る』という概念そのものがありません。個々で造りたいように造る。その者に信頼や徳があれば周りが手伝う。そういった具合です。材料に至っては我々が生息する土地の木々や作物は成長速度が速く、倒した木も一年あれば元の大きさまで育つ。実や果物も数日あれば出来る具合で、国民は個々で生きていくので国が取り締まって干渉する部分が少ない」

「それは、羨ましい限りですな」

「そして王の仕事は、主に国民の生活に支障をきたすものをどうするかによります」

「支障とは……特には?」

「巨大で頑丈な一枚岩の破壊や災害で発生した幅広い地割れの処理など。此方の大陸では災害はよく起き、岩ですら破壊すればまた伸びてきますので。そして先ほども話した七国へと侵入してきた、あちら側の魔種族の処理など。他にもありますし、アンドルセル殿の行う書状や礼状をしたためるなどもあります。まあ、大半は力仕事ですね」


 それはそれで激務ではないか。と、アンドルセルと護衛兵達は楽でないと納得した。


「あ、これは失礼。こういった機会が少ない故、話に興がのってしまい、御子息の事を後回しにしてしまった」

「ああ、気になさるな。こちらも、とても有意義な会話が出来た」

 互いの発言に偽りはない。本心で会話が楽しかったのだと。

「それで、御子息に憑いたモノについてですが」

「ふむ。確か二か月は何もするなという事であったな」

「ええ。魔種族の中には【黒煙体こくえんたい】と呼ばれる、そちらで例えるなら霊体のような実体が無い者が存在します。それに憑かれた場合、速やかに処理を施せば問題はありません。処理方法というものは人間側の聖職者の方々が行う詠唱関連の除霊方法で事足ります」

「しかし、”アレ”はオーリオから気体が現れた後に実体化し、其方の部下を襲ったのだぞ」

「ええ。あれは黒煙体ではなく思念体しねんたい。これは先程の霊体を指し、怨霊でもありますが、魔種族の思念体は少し特性が変わります」

「特性ですと?」

「ええ。その前にお聞きしますが、人間側の怨霊と呼ばれるのはどういったものを指しますか?」


 質問は三人に与えられ、先に従者の二人が答えるよう、アンドルセルから指示が下った。


「私の聞くものは、恨み晴らすまで呪った相手の前に現れ、死ぬまで恐怖に陥れるといった内容です」

「自分は、呪った相手を何処か別の、地獄か怨霊の世界へ連れて行くと」

「まあワシも似たようなもので、子孫が絶えるまで苦しませるといった具合だ」

「では、魔種族の黒煙体以外で、実体化して人々を物理的に襲う怨念関連の話を聞いたことは?」


 三人は顔を見合わせ、各々、噂話程度でそういう事が起きたと聞いたぐらいで、自分達は体験していない。


「人間側の怨霊の概念は人間の恐怖を煽る内容を元に作られた偶像。原理としては人間誰もが備えている気功が死後具現化し、幻覚として虚ろな存在となるか、他者の気功に反応し悪夢を見せるなど。魔種族の思念体も同様、恨みを抱えて死んだ者の”魔気”。魔種族の気功のようなものですが、その影響です。これが複数体の思念体でも大した影響を及ぼさず黒煙体よりも弱い」

「では、それがあそこまでの形を成したのは……」

「かなりの思念体が集まった成果となります」

「つまり、ワシを恨んで死んだ魔種族の……呪い。と」


 アンドルセルに緊張が走った。


「と思われるでしょうが、あの思念体は何処かおかしいのですよ」

 ゼグレスの言葉に少し緊張が解けた。

「そもそも人間を恨む代表的な例を上げるとして、『家族を守れず殺された』というなら合点はいきます。ですが私の知る限りでは、魔種族の家族が国王のめいにより大量に殺されたということは聞いた覚えがない」

「わ、ワシも、そのような残虐な事はせんぞ。確かに英雄マルクスに魔王討伐を頼みはした。しかし襲ってくる魔種族を止めようと手を打っただけであって、国王としての責務を熟したまでで」


 まるで必死の訴えで、身の潔白を示そうとするアンドルセルにゼグレスは『御心配なく』と、一言気遣った。


「なにもアンドルセル殿の汚点を探ろうとしてはおりません。先程から話しました通り、人間側に害を成すのは七国より向こうの魔種族の取りこぼしと、我々の国の不届き者達の仕業です。その者達は裁かれて当然ですが、なら、自分達を助けなかったとして、我々王達を恨む筈です。そうでなく、アンドルセル殿でもなく、その御子息。しかも憑いて殺すのではなく、憑いて力を蓄えるといった行動をとっている。これは魔種族だけの思念体ではありますまい」

「つまり、人間の恨みもかっていると?」

「恨み……の指しどころが何処かは不明ですが、御子息に憑き、二か月も力を蓄える事態に陥った経緯に至った。そして魔種族と具現化して対峙した時点で黒煙体の性能も備えている。しかもかなり性質が特殊なのが気掛かりですが。これは、恨みの大本を見つけねばならないのかもしれませんね」

 不安で言葉に緊張が現れた。「も、もし、見つからなければ?」

「ああ、ご心配なく。二カ月後、姿を成した所を退治すればよいだけの事。異質であれ所詮は魔気・気功の具幻体。成敗する点では我々王の力を持てば容易に片付きます」

「いや、でも、大本を見つけねば。と」

「私の信念の話になります」

「信念……と?」


 急に話が逸れた事で、少し混乱した。


「私は礼儀正しくあることを重んじます。ただ知らず、礼儀をかく行いをするなら、指摘し、直させるだけですが、率先して無礼・蛮行を働く者は容赦しません。そして、自らも礼儀正しく、紳士的であることを重んじております」

 まさか魔種族の王にはこのような者がいるとは思わず、それを聞いてから三人が思い返すと、国民は礼儀正しく、国としては清潔感があり、この城の内装、ゼグレスの立ち振る舞いなど、それらの合点がいった。

「同様にそれぞれの王達にも各々の信念が存在しますが、それは追々アンドルセル殿が御調べになられても楽しいかと思われます」


(いや、今聞きたい!)

 そう、三人は強く望んだ。


「本件に置かれましても何かしら強い恨みを抱いているならその大本を見つけだし、その者の心意をくみ取ってやるのが礼儀。それが独り善がりであれ、ただただ下品下劣であれば跡形なく祓い消すのが道理で御座いましょう」


 今日この日、アンドルセルは、人間と魔種族間での大きな誤解を知り、あらゆる面で理解した。

 もっと話を聞きたいところだが、壁かけ時計が帰宅の時間を示したのでゼグレスとの会合は終了となってしまった。しかし、アンドルセルの中でこれ程まで信頼のおける王がいる事を知り、ゼグレスとの親交を深めたいと実感した。

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