SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅲ 誤解する弟子の暴走(勝負)・ガンダルの決心

公開日時: 2021年8月1日(日) 17:12
文字数:2,541

 魔王ドルグァーマが老人に変装してマルクスと接触する五日前の事。

 竜王ストライの弟子ガンダルは、準備万端でビルグレイン王国へ来ていた。


「たのもう!」

 門兵がガンダルの姿を見て、真っ先に自分達は襲われるのだと思い武器を構えた。

 ガンダルは鋭い眼つきを緩めることなく、右手を前に出して制止させた。


「待て待て。けして怪しい者ではない」

「どこがだ! その眼つき、その容姿。これから戦おうという気万端ではないか!」

 ガンダルは左腰に備えた小袋から証明書を取り出して提示した。

「竜王ストライ=オーフィユスが一番弟子・ガンダルだ。王子に憑きしモノに挑みに来た」


 証明書はどうやら本物であるが、武闘家が穿きそうなズボンに、上は白い袖なし下着姿。

 竜種であるその風体故か、背ビレが生地を貫いている。そして、隆々とした筋肉が、今にも服を破ってしまいそうなほどに膨れ上がっている。


「……あの……王子に憑かれたモノは、二か月待つように命令が……」

「すまないが聞く所によると獣王様の遣いは、奴と対峙したと聞く。そしてそれは赤子の肉体を使用しているものではなく、純粋な肉体戦だったと」

 肉体戦と捉えて良いかは悩ましい。

 憑き物事態は物体として曖昧で、その言葉が適したものかは考えものである。しかし兵達はそのことを深く指摘しなかった。

「え、ええ。確かにそうです。ですが只今、原因究明も兼ね、色々こちらで調べている所でして……」

「こちらは竜王様の試練により、対峙するよう仰せ使い赴いた。ここ十日、今日この瞬間に至るまでのトレーニングとパンプアップは済ませた」


(パン……プ?)門兵達に言葉の意味は通じなかった。


「宜しいので?」門兵はガンダルに見える位置だが小声で話し出した。「確か、今日はゼグレス様の遣いが様子見にと……」

「仕方ない。許可申請を貰いに行くぞ」

「いいのですか!」力強く言ったが、小声である。

「冷静になってあれを見ろ! あの肉体、只者じゃない。どことなく力強い"気"みたいなのも見えるし、あの眼つきは戦いたい一心の眼だ。そのままにしておくほうが危険かもしれんぞ」

「……りょ、了解であります」


 年上の門兵が、部下に指示し、許可申請を申し出に向かった。


「一応、規則でして、許可を頂きに参っております。しかし、戦闘とはいえ、何処で戦いになられるので? 王子はあのような状態。城内部の出入りは禁止されており、皆、何かあった時の事を考えてしまい、神経質になっております」

「無論、憑きモノに関する知識は心得ている。城外部でどこか……いや、激しい戦闘になる可能性を考慮して、すぐに修復できる場所か、何もない広場へ案内してもらえないだろうか」

「……それでしたら……」

 門兵は、自分が思いつく場所を案内した。



 そこは城の裏口から出てすぐにある広場であった。

 建造物といえど簡易な造りの倉庫や、焼き場の様な所が設けられていた。

 あとは大きさの様々な岩が点在し、嵐か何かで折れた木が一本、広場に侵入して倒れていた。


「ここにある物が壊れても、大丈夫なのだな」

「ええ。城内の物が壊れるよりかは、修理費はかなりマシになりますし、壊れたら壊れたで、処分の手間が大幅にマシとなるものもありますので……」

 そうこうしている内に、若い門兵が戻って来た。

「許可申請は得ましたが、王妃の前での戦闘はしないようにとのご命令です」

「なに? では、結局は戦闘が出来ないという事になる」


 ガンダルはその情報を他所に、準備運動を始めた。


「ガンダル殿、何を?」

「お前達も離れていろ。これから奴を呼び寄せる」

「いや、しかし」

 若い門兵が止めようとしたが、目上の門兵がそれを止め、揃ってガンダルからかなり離れた位置へ下がった。

 ガンダルは目を閉じ、念じた。


(王妃、聞こえますか)

 真っ黒に染まった我が子の隣で、心配そうに寝ている子の頬に、手を当てている王妃の頭の中へ直にその声が響いた。

 立ち上がって王子から距離を置いた。

「――誰!?」

(ご心配なく、念じて会話が出来ますので。それと、驚かせてすいません。私は、竜王ストライ=オーフィユスが一番弟子のガンダルと言う者です)

(さっきの報告の主ですね。お願いです。この子に無茶な事はしないでくださいませ)

(無論そのつもりです。その為に憑きモノについて調べ、一時的に剥がす術を実践します。よって、王子に負担も怪我も御座いませんので)

(しかし、あと二か月は待てと……)

(憑きモノを祓うことは、早いにこしたことがありません。どうか私を信じて下さいませ)


 しかし、不安は拭えなかった。


(もし、貴方のその方法が失敗すれば……)

(王子、王妃は変わりなく無事です。ただ、戦闘を挑んだ俺の安否のみだけです)

 つい、安堵の溜息が漏れてしまった。

(分かりました。ですが、王子……オーリオに異変が起きた場合、即刻中止と致しますよ)

(了承した)


 話し合いが終わると、ガンダルは、全身に力を込め、門兵が見たであろう気を、一気に放出させた。


「す、凄い! この圧迫される感じは――!」

「おい、もう少し下がるぞ! 俺たち人間じゃ手に負えん戦いが始まるぞ!!」

 二人の門兵は、まさにガンダルの気迫に圧される形であった。

 ガンダルが気を放出させながら、なにかを呟いていると、周囲から黒く細い煙が立ち昇った。


(王妃、此方に変化が現れました。御子息は無事で?)

(ええ。静かに眠っています。心なしか、全身の黒味が薄れている気がします)


 作戦が成功したと実感したガンダルは、眼前に人型を築き上げた物体に話しかけた。


「貴様が王子に巣食う怨霊か」

 黒い人型の“何か”は、両目を見開き、口をパクパク動かし、何かを囁いた。

「何を言っている!」

 ガンダルはよく聞くと、黒い何かは、延々、「にくい。にくい」と続けていた。

「……憎い? 何がそれ程憎い」

 それでも黒い何かは、呟き続けた。

 一応、王子の身に危険が及ぶ可能性も考慮し、ガンダルは構えた。


「貴様の事情は知らん。これは俺が尊敬する先生に近づくための戦いだ。貴様に恨みはないが、挑ませてもらうぞ」


 冷静にガンダルの行っている事を考えれば、ただただ横暴なだけだと門兵達は抱いていた。

 黒い何かは、やり合う姿勢を見せず、呟き続けているが、そんなことは構わず、ガンダルは、行くぞ! と、叫んで飛びだした。

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