「――という事です。こちらの資料をドルグァーマ様にお知らせくださいませ」
ヴィヴィは魔王の城にあるベレーナの部屋にある来客用の席についていた。
「確かに。では、二カ月後にアンドルセル国王の御子息に憑いたモノが……」
「はい。覚醒いたしますので、そこを叩きます。出来る事なら各王様が集って頂ければ幸いなのですが」
ヴィヴィは自分の前に用意された、紅茶の入ったカップを持ち、一口啜った。
ベレーナは右手中指と人差し指で額を押さえ、それがどういうことか悩んだ。
「……それでヴィヴィ。いったい何人の王様達が集まる予定?」
立場上、ベレーナのほうが年上であり、王に仕える秘書としても先輩である為、敬語ではない。
「一応、七王様全てに御声がけはしますが、ゼグレス様を入れて、最低三人しか集まらないかもしれません」
魔種族の王は、魔種族の住む大陸や離れ小島などを合わせても、はっきりとした数は不明だが、魔種族と人間との親睦を重んじた王は合計七名いる。そしてその王達を、【七王】と呼んだ。
残りの魔種族の国では『争いこそ日常、強者がその国の王であり、魔種族の本質は暴力である』などと嘯く輩が多く、七王達もそんな輩と関わりたくない意志を露わにしている。
七王が仕切る国の位置が、魔種族と人間達とを隔てる国境でもあり、人間側も魔種族側も、それぞれの生活圏を脅かさない役割も担えた。
「魔王様、竜王様、獣王様。この三王様が参加して下さりそうと判断しています」
ベレーナからため息が漏れた。
「あのねヴィヴィ。正直、獣王様と竜王様だけでも事足りそうな一件よ。まあ、それはさておき、貴方も知っていると思うけど、魔王様と獣王様は折り合いが悪いのよ」
「しかし、規則重視の魔王様と、礼儀重視の獣王様でしたら、きっと打ち解けあえるかと……」
「そう私も思ってたわ。でもね、何度も顔を合わせたことがある場面を見てるから言わせてもらうけど、あの二人は死ぬまで分かり合おうとしないわ」
「……同族嫌悪……というものですか?」
「ええ」ベレーナは、資料を受け取った。「まあ、一応は魔王様にお伝えはするわ。……まだ知らせていない王様はあと何人?」
「まだ竜王様だけしか伝えてなくて、これから石王様の所へ向かいます」
ベレーナは、懐から手帳を取り出した。
「姐さん、人間みたいに記帳派ですか?」
魔種族の一部の者は、小さな亜空間を出現させ、そこに物を出し入れする技と、数分間の会話や映像を記憶する技が出来る。
以前、ゼグレスがピックスの記憶を覗ける技もこれらの技の応用であり、各王の秘書や弟子達も記憶技を使える。
「ん? ああ。この前あれで失敗しちゃってね。いっぱい記録しすぎて、必要なものが見あたらなかったのよ」
「そんなに記録したのですか?」
「うーん。というより、消せないだけかな。これは必要かな? って思ったら中々消せなくて」
ベレーナは断捨離癖が身についておらず、衣服や小物も、使わなくてもいつか使えると思っている。
「記帳だと、一応どのページに書いてあったか分かりやすいし、後で整理すれば使いやすいのよ。だから、必要な時だけ記録技使って、後は人間のやり方を実践。ああ、結構人間のやってる事も馬鹿にできないのよ」
何も答えず、視線を逸らし、ベレーナのまさかの一面を見てしまい、内心、少し呆れているヴィヴィは、紅茶を啜った。
「では、今日はこれで失礼を」
「あ、待ちなさい。煉王様と雪王様には、渡してきてあげるから、資料置いといて」
「宜しいのですか? それも気温差の激しい場所の御二方ですよ」
「一応、別の用事で明日行くから、ついでみたいなものよ」
「……あ、有難うございます」
「秘書同士、困った時はお互いさまだから」
ヴィヴィの中での、ベレーナの少しだけ下がった評価は、元に戻された。
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