SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅶ 三王の前に現れたテンセイシャ

公開日時: 2021年8月5日(木) 18:15
文字数:4,825

 マヤが浄化されて以降、ゼグレスとクォルテナは各王達へ伝達し、テンセイシャについての事情を説明しに向かった。しかしクォルテナは浄化儀式の日の夕方には呪いが再発し、すぐさま帰国しなければならなくなった。

 彼女は二日後、鏡を使用してアウンバルへ報せることが出来た。


 一方のゼグレスは境壁の一件もあるため、まず先にイルガイスへの報告を優先した。

 闇王と石王共、まだテンセイシャに出会っていない事が判明した。


 アウンバルは何やら思う事があるのか、すぐさまクォルテナとの通話を切ってしまった。

 イルガイスはどのような人物が現れようと、癪に触れば浄化ではなく力づくで追い出す姿勢を露わに話を終え、リギピルスに関する話へ強引に切り替えた。よって、他国への報告よりそのことが優先され、他国へはヴィヴィに任せる運びとなった。


 ヴィヴィはまずドルグァーマの国へ向かい、事情は分からないが王力を消費しすぎて寝込んでいる魔王ではなく、ベレーナへ報せた。そしてベレーナは所用ついでにバルファドに報せる約束を交わした。

 気忙きぜわしく伝達が成されるなか、クォルテナの城で異変が起きた。いや、『ソレ』が現れたと言い換えるべきである。

 それはビルグレイン国での期日十日前の事であった。

 突如、雪王の城の中庭に地震のような衝撃が走り、積もった雪が全て天高く舞い、中庭の地面が露わとなった。

 衝撃音に反応して中庭へ来たクォルテナは、その人物が如何な存在かを初見で気づいた。

 人間であるにも関わらず並外れた魔気を身体に蓄える存在。一目瞭然である。


「ひゅうおぉぅ。なんっつう寒い場所に――」

 それは男性であり、吹雪が寒いのか、内に秘めた魔気を放出させ全身から蒸気のような気体が発せられ、その気体は瞬時に彼を中心として広がり、中庭を覆う雪を入れさせない空間を築いた。


(皆聞いて。この方の相手は私がします。手出しは無用、城にいる者は外へ、そして城から離れて下さい。終わり次第報告するから)

 念話でクォルテナは野獣達を非難させた。

「あらあら、なんと魔気の使い方に慣れた御仁だ事で」

 中庭へ入っていったクォルテナは、ある程度の距離をとって、『あなたテンセイシャ?』と訊いた。

「あー、へぇ。やっぱ本当に俺、転生したんだ」


 両手を握って開いてを繰り返し、力を集中すると、魔気の球体が発生した。それを見て男性はニヤリと不気味に笑い、球体を城壁にぶつけた。その威力は凄まじく、二階から天井までが呆気なく崩壊した。


「すっげぇぇ マジで最強じゃん俺!」

 興奮する男性を見て、クォルテナはため息を吐いた。

「貴方はマヤとは違うのね」

「は? マヤ? 誰それ。ってか婆さん、こんな雪国でその薄着、それにその蓄えてる感じの力? ただモンじゃないっしょ。氷の女王様だったりすんの?」

 男性は力をゆっくりと垂れ流し、いつでも戦う姿勢をとった。

「おやおや、戦いたいみたいね。力が有り余ってるからってこんな老婆に暴力を振るおうだなんて、とんだ不躾者ね」

「うるせぇよ。ってか、あんたが魔王だったりすんの?」


 何の因果か、数年前、ビルグレイン王国の英雄マルクスが魔王と対峙した報せを思い出した。

 事情を聞いてみたいものだが、突然現れた不躾者に城壁を破壊され、それでいて静かに怒りの闘志が沸きだしたクォルテナは、その衝動的意志に従った。


「魔王だったらどうだというのかしら」

 男性は体中から魔気を急激に放出した。

「即潰す」

 笑って吐き捨てる姿に、クォルテナの怒りが頂点に達し、いや、貫くほどに。彼女の王力が急激に活性化した。その力の影響で、彼女の容姿は人間でいうところの二十代女性まで若くなった。

「戯言を後悔するといい、若造が!」


 ◇◇◇◇◇


 テンセイシャの出現は翌日も起きた。場所はゼグレスの国である。

「ねえ、貴方謀ってないわよねぇ。あと一個分ってどういう事よ。壁築いて、その間攻めてくるあっちの魔種族潰すって、結構ずば抜けた高価値の作業したと思うわよ」

 愚痴るイルガイスをゼグレスは冷静にあしらった。

 これは鏡を使っての通話である。

「計測はそちら任せですので、私がどうこう出来るものではありません。それに、リギピルスの価値がそれ程高いという事です。ですが、その貴重な一回分はきちんと置いててもらえますか?」

「置いとくって、何年待てばいいのよ」

「恐らく、例のテンセイシャに関し、結果次第では何かしら石王の助力が必要になるかもしれませんので」

「そんなことあるの? この前浄化した奴は大人しかったんでしょ?」

「ええ。ですがあそこまで魔気を蓄える存在は、力に溺れる者が現れると相場は決まっております」


 言った途端、ヴィヴィから念話が入った。


(突然失礼致します!)焦っているのは声で分かる。(とてつもない力を持った人間が――!!)

(ヴィヴィ!!)

 念話が強制的に途絶える程の事態。ただ事ではないと思わざるおえなかった。

「急用ですので、失礼!」

 イルガイスの返事を待たずゼグレスは鏡の力を打ち切った。そのまま部屋を出て、応接間を通り過ぎようとした時であった。


(――獣王様お逃げください!! 奴が行きました!!)

 その念話と同時に、部屋上部の窓硝子をぶち破って人が入って来た。

 その乱暴ぶりから一見して、マヤとは性格は真逆だと即座に判断出来た。

(ヴィヴィ、此方は私がどうにかします。城に誰も近づけさせない様に)

(獣王様! お待ち――)

 強制的に念話を断った。

 部屋に入って来たのは若く見える青年。背格好は大人だが顔つきは十代後半に見える。童顔かもしれないと思われる。


「あなた、テンセイシャですね。魔気を見て分かります」

 青年は落ち着いた表情で向き合った。

「魔気? ああ、魔力とかじゃないんだ。外の魔獣たちは何も見えてないみたいで、襲ってくるから適当にあしらわせてもらったよ」

「おや? むやみやたらに人間を襲うなと命令しているのですが、余程血気盛んな者か喧嘩っ早い者ですかねぇ。まあ、貴方が不要な挑発をしていなければの話ですが」

 王力が活性化し、場の空気が張りつめた。それでも青年は平然としている。

「おいおい怒らないでくれよ。俺はあんたに協力してほしいだけなんだ」

「協力? 一体何を協力してほしいので?」

「俺の部下になってくれよ。外の連中はあんたの事を獣王獣王って言ってたから、魔王がいるんだろ? そいつを退治したいから仲間が必要でさ。俺レベル、最強に近い奴と対峙したくないだろ、あんたも」


 突如獣族を襲い、窓を割って入室。城の主に向かって部下になれと命令。相次ぐ不躾にとうとうゼグレスは我慢の限界に達した。


(城に居る者に命じる。すぐさま城を出ろ。三分後にアルガを張る)

 青年は平然としているが、城にいる獣族達は念話で命令が下る前に危機を察し、ゼグレスの口調が防衛本能を刺激させ、獣族達は一心不乱に城外へ向かった。

 三分待たずして城内には転生者の青年とゼグレスのみとなった。


「何をしたか知らないが、部下の獣たちを外に出して良かったのかい?」

「ええ。今からアルガを張りますので、貴重な配下達を巻き込みたくありません」

 言った途端、ゼグレスを中心として青白い気の波紋が広がった。それは城の城壁まで広がると円の形のまま留まり、城を囲うように半透明の光の壁が出来た。

「先手……随分卑怯な真似してくれるじゃん。ま、俺には関係ないんだけどね、この程度であんたがドーピングしようがどうだろうが」

 ゼグレスの眉がピクリと反応した。


「ええ。これは確かに貴方に直接関係ありません。我々はどうやら対峙する事になります。その被害が外に及ばないようにする、いうなれば壁です。そして、この中ではある条件が発生します」

「なんだよ。あれか? 俺が弱くなるとか」青年は余裕の笑みを絶やさない。

「いえ。この中でどちらかが敗北を認めた際、その者の配下となる。強制力というものですよ」

 青年は全身が滾った。

「いいねぇ。俺が勝ったらあんたは俺の部下で、この城は俺のものだ!!」

「よろしい。私が勝った場合、貴方には退席して頂きますので」

「はっ、殺すなら殺すって言いなよ。思ってる事が見え見えだぜ」


 ゼグレスはため息を吐いた。


「貴方は分からなくてもよい事ですよ」

 青年の魔気、ゼグレスの王力が放出された。


 ◇◇◇◇◇


 更に翌日。ようやく王力が回復したドルグァーマは、ベレーナが留守の間、フィナに会う準備を試みた。

 そんなくだらない事に励んでいる時であった。


(ま、魔王様! 大変です!!)

 魔人族の一人が念話で訴えて来た。

(どうした! 何を慌てている)

(変な奴が突然現れて、暴れ回っております!! 負傷者も多く! 誰も歯が立ちません! どうかお助けを!!)


 以前、ベレーナが獣王から受け取った報せにあった、テンセイシャと呼ばれる者絡みだと咄嗟によぎり、王力を足に集中させて念話のあった場所へ向かって駆けた。

 報告があって僅か三分ほどで、ドルグァーマは現場に辿りついた。

 そこには、屈強な筋肉質な上半身を露わにした男性が、魔人族の若者の首を掴んで持ち上げている現場であった。

 回りの家屋は破壊され、民の大半は負傷し、中には倒れたまま生死不明と思われる者がいた。

 それだけでドルグァーマの怒りは頂点に達し、右手の平を首を掴まれている者へ向けた。

 王力を僅かにこめると、筋肉質の男性の指先が勝手に動き、掴まれた民の首から手が離れ落ちた。


「へぇ。まるでサイコキネシスじゃねぇか。ついでに」男性はドルグァーマを魔気の籠った目で伺った。「魔力の質がケタ違いだ。お前が魔王か?」

 ドルグァーマは姿勢を正して向き合った。

「いかにも、ワシが魔王だ。何を思ってこのような事をしでかした」

 筋肉質の男性は両腕に力を込めて屈み、思い切り上へ伸ばした。

「よっしゃぁ!! 俺ってついてやがる! チートで転生、マッチョにのっけから魔王と遭遇って、超ラッキーだぜ!」


 何を言っているか、ドルグァーマは分からなかった。


「それ程ワシに会えるのが嬉しいか?」

「そうだろ! ってか、レベルMAX、いや、限突して999まで跳ね上がった最強マッチョ前にして、魔王は怖くねぇのか?」

 何を言っているか理解する事をドルグァーマは諦めた。そして、右の方を指差した。

「この先に広い丘がある。どうせワシと戦いたい口だろ? そこで相手をしてやろう。ここでは大事な者達が巻き込まれるからな」

「いいぜ。なにか小細工しかけてんだろ? その悉くを俺が砕いてやんよ」


 男は思い切り跳躍し、指さす方へ向かった。

 魔人族の一人がドルグァーマの元へ駆け寄り跪いた。


「魔王様有難うございました」

 ドルグァーマは異空間を出現させ、小さな板状のものを取り出して渡した。

「構わん。それよりお主、ワシの城へ向かい、配下の者に【ガッド】を全部開放し、負傷者の手当てに向かわせるよう伝えてくれ」


 ガッドとは、魔王専用の王力を動力源とする傀儡。一昔前では城内の侵入者を排除する兵器の役割を担っていたが、先代から使用理由の範囲が広まり、ドルグァーマも殺戮専用としての使用をしない。


「宜しいのですか?! ガッド全開放は魔王様への負担が!」

「早く行け。貴重な民たちが死ぬ方が大問題だ」


 感銘を受け、ドルグァーマから授かった許可証を持って城へ向かった。

 ドルグァーマも、筋肉質の男性同様に跳躍し、丘へ向かった。

 二人が相対した時、即座にドルグァーマは丘全土までアルガを広げた。


「苦し紛れの罠か? 通用す――」

「他者が巻き込まれんようにする防衛措置だ馬鹿者が!」

 呆れ顔で男性は返した。

「この陣の中ではワシの規律が率先される。その規律は、お主がワシ以外の者を襲えんというものだ」

「さすが魔王様だぜ。自信過剰か、強者を前にしての強がりか?」


 相次ぐ挑発行為に、ドルグァーマは一振りの剣を出現させ、誰が見ても分かる程に臨戦態勢を表した。

 男性は口笛を吹いて構えた。


「来いよ雑魚魔王様」

 構えた魔王は王力を発し、見た目が青年にまで変わった。

「後悔させてやるぞ野蛮人が!!」


 二人は同時に駆けた。

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