SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
退会したユーザー ?
退会したユーザー

Ⅻ 孤島の占い師

公開日時: 2021年8月3日(火) 22:15
文字数:5,133

 その場所は石王の洞窟城から少し離れた場所にある孤島。

 孤島は土地面積にして、ビルグレイン王国が四つ分入るほどで、島の四分の一は休火山が占めており、三分の二が草原や小さな森、四つの湖が点在している。

 孤島に元々ある資源で食糧が賄いきれなくても、島唯一の港町へ、大陸の港町から物資が運ばれている為、飲食物はそこで仕入れればいい。


 孤島で収穫できるのは、湧き水、薬草や食用植物、果実、一番輸入を必要としない物は魚介類であり、島の漁師たちが捕りに行く。

 この島へ本格的に魔種族と人間が住み出したのは三年前。元々はある人物が何となく住み始めた無人島であることが発端だ。

 住み始めたのは魔人族の女性・エヴェリナ=ヌワゼリド。種族こそ魔人族で通っているが、あらゆる種族が混血した先祖を持ち、【他種族混血魔人】と、彼女は呼称している。そのためか、彼女は他の魔種族には持ち得ない力を持ち得ている。


 エヴェリナの力は予言の力。


 人間も魔種族も、占い事を生業とする者達が存在はするが、それは生まれ星と現在の星々の流れを計測する事による統計学や、あらゆる模様の描かれたカードを用いた方法など様々である。

 彼女の予言は主に相手の人相を見ることによるものである。

 この力は未来においてどのような場所でどのような出来事が起こるか、というものではなく、相手の周囲に漂う気の色合いや一瞬浮かぶ連続する風景の断片からの判断など、見えたもので未来予想を組み立てる。それ等を教え、彼女自身の考察した自然な流れでどういった展開が待ち受けているかを教えることが占いの形だ。


 近年では新しい方法を身に付け、こちらの方が魔気を使用することで信憑性が高まり、密かに人気を上げている。

 彼女の存在が噂となって人を呼び、未来の情報を望む者が相次いだ。その騒がしさに石王が怒り、この島への入島規制が掛かってしまう程に。それでも彼女に見てもらいたい者達が集まって石王の許可を得て町を築き、島長しまおさを決め、規則規律を設けた。

 今ではエヴェリナに未来を見てもらうではなく、世間話や悩み相談が主となっている。それはエヴェリナが占いを嫌ってからではなく、相談者たちを見ていると生き方についつい口出ししたくなる衝動からだ。



「ああ違う違う。結局あなたは仕事が嫌いなんじゃなく、単に被害妄想してるだけだから」

 今日、昼の予約最後の客人は人間で、仕事場で上の者によく怒られて心が挫けてしまい、仕事が向いてないと思い、自分にはどんな仕事が向いているかを訊きに来た。

 しかしエヴェリナは占いすらしなかった。

「今まで色んな方々の話聞いてるから大体分かるんだけど、あなた、自分が傷つくと悪い方に考える側の人でしょ?」

「そんな事は……」

 男性は思い返してみると、そういった事を指摘された過去が思い出された。

「……あるかもしれない」

「まあ皆、怒られると落ち込むから、それが何度も続いて心挫けたんでしょ? だからって、それとあなたがその仕事に向いてる向いてないは別の話よ」

「……は、はい」


 エヴェリナは机の下の台から四角く平たい箱を持ちだした。箱の中には色とりどりの小石が詰まっていた。


「職人業は変人や堅物が多いから、どうしてもそういった困難はつきもの。二年位我慢して同じなら辞める。出来そうなら続ければいいのよ」

 取り出した箱の意図がまるで分からないまま話が続けられた。

「二、年……ですか。意味ありますか?」

「あら、知らないの? 技術は次に活かせるのよ。必死にやって駄目でも、それなりの実力は身についてるから次でも活かせるし、畑違いの仕事でも一般的な立ち居振舞いとかは大体一緒だからそれなりに活かせるから。二年は単なる区切り、長すぎると疲れるし短すぎると身に付かないから二年。三年でもいいからやってみなさいな」

 男性は半分疑いつつも、はい。と返事をした。

「あ、これは忠告。自分が被害者って意識で気堕落な仕事しても全然何も身に付かないから、仕事はきっちりしなさいよ。じゃあ、ここに両手置いてくれる?」


 それは宝石の様な小石が詰まった箱である。

 男性が両手を置くと、エヴェリナがその上に手を乗せた。

 魔人族である彼女だが、手は人間と同じ見た目である。

 彼女が何やら呪文を唱えだすと、石に付いてる手が光だした。男性が驚きながら見ていると、間もなくして光が消えた。


「よし。じゃあ今、手に引っ付いてる石を見せてもらえる?」

 男性は掌にみっちりと付いた小石をそのまま見せた。色とりどりの石の上へ乗せたはずが、手に着いたのは青色と黄色系統のものが多かった。

「ああ、まだ大きく動く時期じゃないみたいね。やっぱり仕事続けなさい。そうすれば何時しか転機が訪れるから、その好機を見逃さないでね。いい、変化は必ず起こるから」

「こんな石で何か分かるんですか?」

「あら、疑うのは良いけど、この石は生き物に干渉出来る特殊な石よ。今の所持者が私だから、これを盗んで私以外の他者が御利益に肖ろうものなら、とんでもない不幸を招くほどの代物よ。あなた達が運勢どうのこうのと望むなら、その石の変化を信じなさいな。まあそれを決めるのはそっちだから、そこから先は私がどうこう言う権利は無いので。ここでの話を参考に人生の方向性を考えていきなさいな」


 こうして男性の相談兼占いは終了した。

 仕事終わりにエヴェリナは一服。煙管を用いた煙草を吸った。

 そんな最中ドルグァーマとベレーナが訪れた。


「あらドルマ君じゃない」右手を上げ、指を緩やかに動かし挨拶した。

「伯母上、下の者の手前、そのような呼び方は辞めて下さい。示しがつかない」

 気恥ずかしそうなドルグァーマに反し、ベレーナは表情から僅かばかり驚きが表れていた。

「うぅん。仕方ないわねぇ。まあ当然っちゃ当然だから、魔王様って言っとくわね」


 それでも態度が治らない所を指摘したいが、エヴェリナにその様な事を言っても改めきれない事をドルグァーマは理解している。

 立場上はドルグァーマが上だが、彼女の存在は魔種族と人間側の王達との顔が広く、彼女の占いを当てにする者達は多い。

 張り合って損をするのはドルグァーマ自身である。そして何より客人として赴いた自分達が、家主と張り合うなど対人関係における規律に反する行為である。


「――っていうか、そっちの美人さんは何を驚いているのかしら?」

 突然ベレーナに話を振られ、戸惑いの色が表れた。

「え? あ、いえ、魔王様とエヴェリナ様が血族という事が……」

 その事は七王も、各王の秘書や弟子達も知らない。

「ああ、知らないのも仕方ないわよ。だって、彼が魔王になる前に身辺整理して、一応縁を断った扱いで王国出て行った身だからね、私」


 本来、親族との縁を分かつ行為は、話し合いのみで済まされるが、王族家では歴史上の資料や文献から名前が抹消され、繋がりは記憶のみとなる。


「そ、そんなあっさりと!? ……え、っと」

 理由を求めたいが、それは無礼な行為だと思い、ドルグァーマに二度見で目配せした。

 答えはエヴェリナが煙草の煙を吐きながら返ってきた。

「ああ、そんなに気まずい問題じゃないわよ。ただ私が放浪癖だっただけ。そういった行いは気品に反するだなんだって言われ続けてね。縛られるのがうんざりだから縁切ったって訳。彼の魔王就任の時だったから幸先悪い思いさせちゃってねぇ。後ろめたさから、陰ながら私の力使って色んな手助けをしてあげてるのよ」

 煙管の吸い口を銜え、一服吸い、煙を吐いた。

「で、今日は何の様かしら?」


 話の腰を折るまいと、ベレーナは心情の起伏を無理矢理落ち着かせ、平静に対処した。

 本日赴いた理由、それはビルグレイン王国に何かしら不穏な現象が起きつつあるのではないかを見てもらうためであった。

 ゼグレス側の調べでオーリオ王子に憑いたモノの存在を判明する事を担っているが、他に何かしら不穏な動きが起きている可能性を考慮しての下調べである。

 そう思い、行動に移らせたのは、ドルグァーマがドーマ爺さんになっている際、マルクス夫妻から最近影状の化物をよく見かけると話を聞いたからである。この存在が件の王子に憑いたモノと関係しているかもしれないと思っての事であった。


「それは――」

ドルグァーマの口から発した言葉にベレーナは耳を疑った。

「フィナの今後を見てもらいたい」

「はぁぁ!?」

 全くもって無関係の相談にベレーナは無礼を承知で呆れ顔を表したが、ドルグァーマは今、フィナの今後の事ばかりで頭がいっぱいであった。


「ん? フィナって……誰だい?」

「ワシと対峙したマルクスの娘だ。故あって魔種族の血が混じっていてな。今後豹変するかが心配なのだ」

「ええ!? あんたを負かした相手の娘の心配かい!? 確か、マルクスって奴はズケズケあんたの所へ来て暴れ回った奴だろ? 礼儀か規律かに反した。あんた無礼者は嫌いじゃなかったかい?」

 誰が聞いても矛盾が生じる事態。自分の生活圏を害した者の娘を心配するなど、誰しもが疑問を呈する所である。

「深い事情有りだ。それは追々話すが、魔種族の血を含んだ混血児は今後どのような変化をきたすのだ?」


 エヴェリナは眉間に皺をよせ、机の下の棚から数枚の資料を取り出しつつ、煙草を一服吸った。


「んー、何だい? 混血児問題でも流行してるのかい? 来月もその手の相談予約を数件受けてるんだけど。まあ、魔種族と人間間で親睦関係を結ぶ前から恋仲になるのはよくあったから、互いの種族の関係性が険悪だった縛りが緩んだから、皆の気も和んで悩みを公にしやすくなったのかもねぇ」

 ドルグァーマは机まで歩みよった。

「それ程混血児問題は多いのか?」

「まあね。けど人間の血がどうしても強くなるから、姿形は人間寄りが殆どね。内面やら力やらが魔種族寄りだからソレ系が問題。まあ、広い目で見たら代々引き継がれるものじゃないから、三代目位だとちょっと気功術が強い程度の影響なんだけど……」

「待て、フィナの問題は少々異質で」


 エヴェリナは両手を前に出した。


「ちょ、ちょっと待った! 私はそこまで混血に関しての情報は持ち合わせちゃないよ。予約もあるし、今そういった経緯の情報を仕入れ中だから、後日また来てくれるかい?」

 話の区切りと察したベレーナはズケズケと歩み寄り、言い返そうとしたドルグァーマの前に『無礼を失礼します』と前置き、腕を前に出して止めた。

「何をするかベレーナ!」

「そこまでです魔王様。相談の主旨がまるで逸れております。それにエヴェリナ様も申しましたように情報が無い中、無理に質問を続けても無意味なだけで御座います」


 続けて本日の目的である相談を打ち明けようとした時、エヴェリナが煙管の火皿側を二人に向けた。正確には二人の間から入口へ向けてである。


「残念だけど先約が来ちゃったみたい」

 入口には石徒の女性が立っていた。

「エヴェリナ様、お迎えに上がりました」

 まるで状況が読めない中、ドルグァーマは事情をエヴェリナに求めた。

「実はこの前、この近辺の海域で凄い嵐があったのよ。でね、石王様と石徒の方々がなんでも、人間の偉いさんを乗せた船を助けたんだけどね、その時海底の地形が変わってしまったみたいで今修復中なのよ」

「ああ、どうりでこの島の港に石徒が多くいると思った。今の石王は魔種族であれ人間であれ知的生物と距離をおくからなぁ」

 つまり、石王の考えに影響した石徒たちも滅多に他者との関係を断つ傾向にある。


「それとエヴェリナ様がどういった関係で? エヴェリナ様は他種族混血の魔人ですが石徒ではありませんよ」

「何も私が海に潜るんじゃないのよ。私が出来るのは波の流れを整えるだけ」

「と、言いますと?」

「他種族混血魔人だからね、色んな技つかえるのよぉ。んで今、石徒達が海底で地形修復作業を行ってるんだけど、時期的に潮の流れが集中する場所だから私がその流れをズラして作業に支障をきたさないようにするってわけ」

 ベレーナに疑問が生じた。

「え? 石王様は海水における自然現象に干渉できる力の持ち主ですよね、なぜエヴェリナ様が?」

「石王様はそこまでしないわよ。今回の地形修復だってどういう風の吹き回しでやっているか分からないけど、色々訊いたら怒って地形とかそのままにしかねないから訊かないでね。今の地形のままだとそこら中に渦が出現して運行とかに色々支障きたすから」


 そう言ってエヴェリナは石徒と一緒に出て行った。

 相談する機会を完全に失った二人は帰ることにした。

 仕方なく後日相談しようと試み、残りの一ヶ月をドルグァーマは何日周期でフィナと会うかなど、くだらないことを考えていた。

 しかし後日、ドルグァーマは立て続けに苦労事に巻き込まれる。


 フィナと会う。そんな呑気な時間を与えられない一ヶ月を迎えるのである。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート