SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅷ 攻撃と口撃

公開日時: 2021年8月6日(金) 18:46
文字数:1,992

 クォルテナが対峙している男性、名をハヤセコウタという。

 魔気を使う戦いが初めてなのか、興奮のあまり名乗りはしたがそれ以外は語らなかった。それは話し難いのではなく、戦闘を楽しんでいるだけである。


「ほらほら、逃げてばかりだとあんたの城が崩れて潰れっぞ!!」

 コウタはこの世界では見たことない武器を出現させ、連続で小さな弾丸を発射させた。その形状、まさしく機関銃である。

 クォルテナは走って連続する魔気の銃弾から逃げ回り、時に氷の壁を出現させて防いだ。

(なにこれ? ……どういう事?)


 その銃撃を見るからにクォルテナの疑問は深まった。


 コウタの攻撃方法は三つある。

 一つは体術。体中に魔気を帯びさせて対応する。

 一つは銃撃。特殊な形状の武器を出現させて銃口から薪の弾丸を発射させる。尚、武器の種類は様々であり、小さいものから大砲まで、弾切れの心配が不要である。

 一つは手から球体を出現させて遠距離中距離で相手に投げつけたり、近接戦闘時にそのまま相手へぶつけて弾き飛ばす。

 逃げ回っても接近しても対処が困難な相手であり、内に秘める魔気の量が尋常ではない程に多い。

 潜在的にも戦闘能力的にも万能に近い者と、一国の王たる女王との戦闘。

 強力な力と力のぶつかり合い、一見して長引くものと思われた。


「おいおい逃げてばかりじゃ埒が明かねぇぜ氷の女王様」

 クォルテナ止まり、今までとは違って分厚い氷の壁を出現させた。その壁は、銃弾をことごとく受け止め、手を変えようと大砲を出現させたコウタの砲弾すらも受け止めた。

「あなた、戦闘は初めてでしょ」

 コウタは砲弾を撃ち続けて答えた。球の装填のように魔気を込めている時間が一定感覚で開いた。

「だったらどうした! 初陣だろうとなんだろうと、あんたは一方的に俺の攻撃に圧されてる。余裕で俺の勝ち確定だろ!」

 いよいよ砲撃が面倒になったのか、両手の平を前につきだし魔気の球体を連続して発射した。


「ほんと、余裕で勝ち確定ね」

 その呟きがまるで聞こえないコウタの周りから、彼を囲うように分厚い氷の壁が出現した。

「――な、なんだ?!」

 コウタは混乱し、四方八方に球体を発射し続けた。しかし度の球体も壁を砕けなかった。

「何故だ! 俺は最強なんだ! なぜ攻撃が効かん! ――っ?!」

 コウタの身体に何かの重しが掛かったかのように重くなり、跪くとそのまま両手も持ちあがらなかった。


「あら」

 周囲の壁が一斉に砕け散った。そして前方に老婆姿のクォルテナが立っていた。

「流石に魔気の量がケタ違いの御仁だわ。寝そべるまで負荷をかけているつもりなのに、跪く程度で留まってるんですもの」

 コウタは抑えつける圧力に耐えながらもクォルテナの方を向いた。

 そんな彼の抗いにさえ、クォルテナは次の手を打った。

 コウタの周辺に小さく白く濁った氷が次々に現れ、円陣を形成し、その円内部を仄かに白く光らせた。

「な、なんだこれは!?」

 円陣の現象もそうだが、コウタは身体の内から力が、まるで溶けだすように滲んで出ていく感覚に陥った。


「まあ、一体全体どういう神経しているのかしら」

 クォルテナはコウタの目の前まで到着した。

「力がない所から急に常軌を逸した力を得た状態に至るのですから、その力を使用してみたい気持ちは分かるわ。けどね、いきなり他者の城に上がり込んで横暴三昧なんて、あなたの知力は幼児並かしら?」

 雪王クォルテナは、気に入った者にはとても優しく、気に入らない者にはとてつもなく厳しい。力でも言葉でも、相手の心が折れようが砕けようが、気の済むまで愚痴をぶつける。

「そもそも、貴方がさっき戦いながら言ってた、何? 魔法? 人間が使う気功術の特異技の事よねぇ。それを使って魔王を倒すことを重要視していたけど、あなたそんなに戦いたいの? ねえ、人間もその辺で戦争してるじゃない。剣振り回してバッサバッサと」

「ち、違う! 俺は」

「お黙りなさい」

 圧力がさらに加わり、体中から何かが溶けだす感覚が広がり、身体のあちこちの輪郭が溶けだした。

「私は訊いてるの。あなたは戦争をしたいのか? ってね。……あら、さっきまでの威勢は何処へ行ったのかしら」

 まるで言葉を挟む隙を与えない。

「そもそも戦争の美徳って何かしら。言葉を話せる種族が理解しあう事を放棄して力にものを言わせて、時間が経って熱が冷めたように、ようやく自分達がしてきたことが地獄絵図の具現だと分かる。他者の大事なものを次々に奪って、強く通した信念すらも打ち砕く。まだ言い足りないけどそれが戦争よ。力を得て武勲を上げて、一体全体、貴方は自分の何を主張したいのかしら……あら?」

 一方的な語り続けの最中、コウタは浄化され消えていた。氷の円陣内には黒い人型の染みが残されていた。

「あんなのもテンセイシャなんて。本当に大嫌い」


 最後まで愚痴を零し、クォルテナは城へ戻っていった。


 暫くして、コウタによって破壊された壁面は、見る見るうちに修復された。

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