SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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終章

Ⅰ 繋がりと共感

公開日時: 2021年8月13日(金) 10:29
文字数:2,661

 オーリオ王子の憑きモノは無事祓われた。

 この一件を期に、人間側から魔種族の事を理解する試みが、静かに小さくではあるが進められた。

 同時に、過去の魔種族と人間の間で起きた戦争により没した者達。魔種族、人間、双方の大慰霊碑がビルグレイン王国近くの平原に設けられた。

 かくして、この一件は多くの者達の心に、衝撃を与えつつも未来へ向け変化を起こす一大事として幕を閉じた。


 と、憑きモノの件においては無事解決を果たしたが、この舞台の裏で、一部の秘書達に衝撃を与える事態を引き起こしたのも事実である。


 ◇◇◇◇◇


 月日は遡り、ドルグァーマが転生者・アツヤと戦闘を繰り広げている時であった。

 ベレーナは煉王バルファドの国で巨大な化物群を相手に奮闘していた。

 巨大化物達の攻撃姿勢は単調で前回と変わりないのだが、今回は大繁殖期を迎えており、休む間が短く、二十分間ほぼ全力で対峙していた。


「ベレーナちゃん無理するな!! もう上等だ!!」

 次いでバルファドの部下達も『姐さん無理するな!』『あとは俺らがする!』など気づかわれた。

(お気遣いありがとうございます)

 ベレーナは全員に念話で答えた。

(ではお言葉に甘えたいのですが、申し訳ありません。最後に一度だけ大技使用の許可を。日頃の鬱憤やら溜まったものを発散したいので)

 バルファドはベレーナに向かって親指を立てて了解の合図を示した。


「準備が出来たら言ってくれ!!」

 念話で、はい。と返すと、姿勢を正し、大きく深呼吸をし、暫くして全身に力を込めてさらに魔気を勢いよく放出した。

 その威圧に、バルファドは当然、部下達も圧巻した。

 ベレーナは全身に漂わせた魔気を両手に集中させ、足を開いて膝を曲げ、両手を前に出すと、両腕に込めた魔気が前方に塊となった。

「皆さん離れて下さい!!」

 叫びを合図に、全員は散り散りに離れた。

 ベレーナは機を見て叫んだ。


「――ハイグライデッド・ガゼッドォォ!!」


 魔気の塊から巨大な獅子が駆けるように出現し、化物の群れへ突撃するや、獅子の身体が波のように形を散らせて化物達に被さると、その部分から閃光が発せられ、爆音と共に白い光の柱と爆風が生じた。


「……すげぇぜベレーナちゃん」

 バルファドは素直に感服した。

 柱が消えた後に化物は完全に消えていた。


 ◇◇◇◇◇


「どうもすいません。興奮任せで加減しなくて……地形を……」

 ベレーナの大技は円形に岩石地帯を平地に変えた。

「気にすんなよ。ここいらの地形は平気で変わるし、俺だって大技ぶちかましてよくやってんだ。ベレーナちゃんの最高の大技を見れたのが嬉しいぜ」

 ベレーナは姿勢を正し、本題に入ろうとしたが、先にバルファドが話してきた。

「なんか申し訳ねぇな。俺の国の問題にベレーナちゃん巻き込んだみたいで」

 とは言うが、化物大繁殖期にベレーナが所用で訪れただけであって、バルファドが頼んで来てもらった訳ではない。


「いえ。煉王様には色々とご迷惑をお掛けしましたし、沢山の気遣いに不義理を通すとあれば、それは魔種族関係における礼儀に反しますので」

「あれ? 礼儀はたしか獣王の専売特許じゃなかったけ?」

「あー、こだわってるのは魔王様と獣王様間だけでして、秘書としては礼儀も規律も尊重にしてまして」


 バルファドは拍手した。


「秘書の鏡だぜベレーナちゃん。で、今日はどういった要件だい? って訊くのも野暮だな。テンセイシャに注意しろってんだろ?」

「――!? ご存知なのですか?」

「ああ。って言っても、知ったのは昨日だ。俺様の弟分が丁度帰った後に、獣王の秘書の姉ちゃんが来て」

 知らない展開に、その事情を伺った。

「ああ、竜王の弟子にガンダルってのがいるだろ? いつぞやから、武者修行みたく、化物相手に修行して強くなってんだ。この前も俺の秘儀を一つ教えてやった所よ。で、その秘技を教えた後に秘書の姉ちゃん……えっと」

「獣王様の秘書でしたら、ヴィヴィですね」

「ああそう。大人しそうに見えて魔気の総量がやべぇ姉ちゃん。が、テンセイシャについて教えてくれたのよ」

「おかしいですね。ヴィヴィには煉王様には私から伝えると言ってたのに」

「なんでも【ギルバ】が欲しかったみたいだ。ああ、ギルバってのは、このクソ暑い土地に生える薬草でな、その薬草の土はどっかの水脈と繋がってるみたいで、偶然の産物みたいな代物よ。回復液を作るのに必要とかでな」


 なぜそのようなものを求めに来たかは不明だが、そこでテンセイシャの詳細を訊いたのなら、話す必要は無いと思った。


「けど、奇縁ってのはあるみたいだな」

「どういう事ですか?」

「いや、俺の爺様も過去にテンセイシャってのに会っててな。まあ荒れた時代だったから、互いに悪性の高い魔種族相手にフィーバーしまくってたわけよ」

 またも謎の単語が出て来たが、もうベレーナは慣れて素直に聞き流せるようになった。

「で、色んなビート踊る言葉教わって、互いのパッションがシンクロして、テンションアゲアゲで時代を築いたって訳よ」


 もう、好きにしてもらっていいと思いつつ、ようはテンセイシャと馬が合い仲良くなったというのは理解した。そして、この訳の分からない言葉の生みの親がテンセイシャであることも同時に。

 ベレーナは一応、テンセイシャが現れたら浄化するのかを聞いて見たが、バルファドの意志は、友人になる気満々であることは言うまでもない。



 後日、ベレーナは竜王の城に訪れてテンセイシャの事を秘書のゲレーテに伝えた。


 その日はオーリオ王子の憑きモノの件三日前であるが、信者の心配と、以前の失態を防ぐための修行と称し、師弟はこの二日前に王国へ向かった。

 ガンダルのビルグレイン王国入国禁止令は、竜王のアルガを必要とする意向を聞いた時、彼の存在が必要とされ解除された。

 女神への信仰心が高く、神聖な場所が多いこの国は、テンセイシャの情報を後回しにしてもいいと判断していたベレーナは、ストライ本人に伝えれないことになるとは思っておらず、反省した。


 そんな話はさておき、事情をゲレーテに報告すると、バルファドの所へガンダルが修行に行っている話を出すと、ゲレーテの疲れ切った苦労の滲む表情を伺えた。

 事情を聞くと、どうにも戦闘力を上げるためと称し、国中のあちこちで戦闘相手を増やし、城近辺で騒がしく稽古に励み、更には風水講座が始まって五月蠅い。そして似た者同士なのか、ストライもメフィーネ信者の事で同じような事を何度も訊いてきたりと、どうにかしてほしいらしい。


 どの国も遣える王(ゲレーテに関してはその弟子も込みとなる)に苦労しているのだと伺えた。

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