SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
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Ⅱ 思い違えど絆は深く

公開日時: 2021年8月13日(金) 10:29
文字数:2,333

 オーリオ王子の憑きモノを祓った五日後、ベレーナはエヴェリナの元へ訪れた。


 訪問理由は憑きモノと対峙した時、ゼグレスの薬液により王力を強引に回復したにも関わらず、強引に失った事で身体に著しい負担が掛かった、現在寝込んでいるドルグァーマを回復する相談である。

 白療石の事でもそうだが、王力や魔気などに干渉するには石の秘めたる力が大きく関わる。それに詳しいエヴェリナなら、何か良い石を持っていると思っての判断で来訪したが、その読みは見事に的中し、相談してすぐに貴重な石を渡してもらった。


 その間、偶然にもヴィヴィも訪れた。

 驚いたベレーナが事情を訊くと、ヴィヴィは言いにくそうな素振りを見せた。


「ああ、ヴィヴィちゃんは英雄マルクス君の血筋の事を訊きに来たのよ」

「エヴェリナ様!」

 それは、『マルクスの知られてはならない秘め事かもしれず、相手の秘密を曝け出す無礼であるから他言無用』と、ゼグレスに釘を刺されていた。

「ごめんね。でもこの話はベレーナちゃんも知っとかないといけないと思うから、ここの三人だけの秘密って事で」


 理由を訊くと、マルクス、娘のフィナ、そして妻に関することであった。


「ちょーっとややこしい事なんだけどねぇ。ついこの前、マルクス君の奥さんが来たのよ。理由は、魔種族の混血であるフィナがまともに人間の世界で生きて行けるかって事でね」

「ええ!? マルクス殿が魔種族の混血と判明されたのですか!」

「違うの。まあ、そっちはそうなんだけど。実は、奥さんのほうも混血者なのよ」


 ベレーナとヴィヴィは顔を見合わせた。


「奥さんの方はそれ程強くない魔人族の血族だから、安心しなさいって言えたんだけど、奥さんはマルクス君のほうの事情を知らないみたいで。要するにフィナちゃんは」

「混血者同士の娘って事ですね」ヴィヴィが答えた。

「そ。で、前にも言ったけど、混血なんてのは世代が嵩むことで影響は少ないって言ったでしょ? でもね、マルクス君の方はちょっと面倒なご先祖様なのよ」

「どういう事ですか?」

「マルクス君の曽祖父が、煉王バルファド君のお爺ちゃんなのよ」


 流石にベレーナとヴィヴィは声に出して驚いた。


「え、じゃあ、マルクスと煉王様は親族?」

「遠回しにね。煉族の血筋だから血が濃くて薄まりにくくはあるんだけど……。まあ、マルクス君の家系は、そこ以降の結婚相手は全て人間だから、結構薄まって大丈夫だと思うわ」


 ヴィヴィの中で結論に至った。

 ゼグレスが豹変したマルクスに疑念を抱いたが、その血筋が、自分が窮地に陥ることで、力を遺憾なく発揮する事で悦びを得る煉族の血筋なら仕方ないのだと。


 ベレーナは納得した。

 ドルグァーマを狂気に満ちた興奮状態で攻めて来るマルクスの姿と、悪性の魔種族の化物を喜んで退治するバルファドの姿が重なる。

 そして同時にあの当時、ドルグァーマに加担して身を隠し、気功切れとなり倒れたマルクスに寄ってくる仲間の一人に、『彼が魔王を倒したと言い回れ』と脅したことを。

 それはベレーナが咄嗟に考えた妙案であり、この場は勝たせないと次またあの興奮状態で暴れ回られるのを防ぐためでもあった。

 仲間の一人は狂気と畏怖を抱かせるベレーナの姿に怯え、素直に従い、その事実が露呈していない所を見ると、脅し文句が効いたことを実感できた。


 以降、魔王への非難が相次いだが、悪性の魔種族相手後の戦闘だと嘘をつき通し、数カ月かかったが事態は鎮静化した。


「あ、でも、奇縁に関して言えば……どういえばいいかなぁって思うわね」

 二人はもうなにが来ても驚かない。これ以上の何かがあるとは思えないと信じていた。

「バルファド君のお父さんいるでしょ? もう亡くなったんだけど。あの人、人間のフリしてマルクス君について行った魔法使いの男性だったのよ」

 これ以上ない驚きに、二人は混乱した。

「どういう事ですか! 魔種族同士が争うとは!」

「あたしに怒らないでよね。詳細は又聞きだけど、親戚に会えるみたいで喜んでたんですって、当人が。で、マルクス君の二面性に興奮して、そのまま魔王討伐に乗っかったみたいなんだけど、本人は現七王対旧七王として熱い展開を望んでたみたいだけど、途中で色恋沙汰に走って脱線して、あの展開になったみたい」


 まさに馬鹿の所業である。


 しかし、当人以外悪者はおらず、心に傷を負った者達だけが残った。

 誰も責めれず、誰一人としてこの秘密は公に出来ない。

 ベレーナとヴィヴィはこの秘密を胸にしまい、帰宅した。


 ◇◇◇◇◇


 帰宅したベレーナは、早速ドルグァーマの看病へ向かった。

 丁度眠りから覚めたドルグァーマは、ベレーナの指示に従い、エヴェリナから貰い受けた治療石を並べ、部屋から出て行こうとするベレーナに声を掛けた。


「ベレーナ、奇縁とは不思議なものだな」

 まるで見透かされたかのように、ベレーナは全身に緊張が走った。

「一切無関係であったと思われた争いの時代を、まさかこのような形で触れることになろうとは」


 互いに抱いている事は別物である。


「そうですね。考えてみれば、奇縁も踏まえてこそ今があるのだから、邪険にもできませんよ」

「全くだ……」


 ベレーナは、奇縁により振り回され続けるドルグァーマへの同情が、忠誠心をさらに高めた。

 彼女は魔王と向き合った。


「こういった事、改めて言うのは恥ずかしいですが」感情は分かりやすく顔に表れた。「私は最後の最後まで魔王、ドルグァーマ様に御仕えし、その責務を全うしうる所存です。改めてよろしくお願いします」


 ”憑きモノの話を聞き、感極まり、意識を改めた”

 そう結論付けて彼女の意を汲み取ったドルグァーマは、素直にその言葉を聞き入れた。


「ああ。これからも頼りにしているぞ」


 穏やかな笑顔をベレーナは表し、失礼します。と言って退室した。

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