SEVEN KINGS

~規律重視魔王と秘書の苦労譚~
退会したユーザー ?
退会したユーザー

Ⅻ 愛するが故に

公開日時: 2021年8月6日(金) 18:46
文字数:4,274

 一連のテンセイシャ出現問題はあらゆるところで様々な被害を招いたものの、大した惨事に至らず数日で幕を下ろした。

 この一件により、関係した七王達の中では、喜ぶ者、苦悩する者と、見事に二分割された。


 本件において一切かかわりのない煉王バルファドはさておき、一番の喜びを見せたのは石王イルガイスであった。

 獣王ゼグレスとの契約により、雪王クォルテナの国の境壁造りに加担し、全テンセイシャ浄化後、ゼグレスの所望する品を提供する事でリギピリスを完全にもらい受けることが出来た。


 大した苦悩をしていないのはクォルテナであり、境壁の話を持ちだせば各七王は理解してくれ、加えて自分は何もせずとも石徒達が勝手に境壁を造ってくれた。

 損害修復といっても、テンセイシャ・シュウトとの戦闘で破壊された城壁の修復ぐらいだが、元々は王力を用いて発生させた氷の外壁であるがため、容易に一日がかりで修復し終えた。


 テンセイシャの件で被害が大きかったのは、獣王ゼグレスと魔王ドルグァーマの二王である。


 ゼグレスに至っては城の大半が破壊され、近日、アンドルセル王の件を解決しなければならないのだが、王力の殆どを戦闘と事後修復に当てたために少なくなっている。それは、アンドルセル王の件に関わる思念体との戦闘を大きく左右する事でもあった。

 他の王達に助力を得ようとしたが、闇王、煉王、雪王、石王と、その四王は各々の立場や状態や性格から無理であることは揺ぎ無く、嫌々だが魔王ドルグァーマに件の殆どを任せようとするも、ベレーナとヴィヴィ間の情報によりテンセイシャの件で王力の消耗が激しい事が判明した。


 唯一損害も消耗も無い竜王ストライに頼もうにも、竜族の王である彼の力を遺憾なく発揮しようものなら、ビルグレイン王国はその日の内に消滅してしまう。王力を使わず戦わせるにも、相手の出方次第ではストライが窮地に立たされる。

 にっちもさっちもいかない中悩んでいると、ゼグレスの安否を気遣ってピックスが訪れた。

 彼のように心配で訪れる獣族は少なくない。

 ゼグレスが問題を説明した時、ピックスが答えた。


「でもなんで獣王様がそんなに悩むの?」

「当然ですよ。我々で解決すると言った手前、別の用事で消耗して解決出来ませんなどと言えば、無礼どころか信用は総崩れです」

「けど、この事件はどうしようもない災害みたいなもんだし、何より、全部獣王様が解決しようとするのは、礼儀どうこうより、引き受けすぎじゃないですか? 一応、人間達の国の問題なんだし。どうにかして人間達と協力してもらうとか。でないと災害後に大問題解決しろって言われたら、アンドルセル王側が無礼ですよ。頼りっぱなしってのも」

 これにはヴィヴィもピックスの意見に加担した。

「私からも言わせて頂きますが、彼の意見には賛成です。これが本来、逆の立場でしたらどうでしょうか。アンドルセル王が数か月後に此方で起きた問題を解決すると言い、我々はその時期まで待っていましたが、自然災害により国が被災、復興中ですので最良最善の問題解決が出来ませんと言われたら、きっと獣王様はそれを受け入れると思われます。どうか、他の手を考えてみては宜しいかと」


 二人に言われ、ゼグレスは考えた。


 言っている事は肯定に値する。しかし現状では魔王と獣王は消耗しており、頼みの竜王は力の起伏が激しい為使い所が難しい。

 人間達と協力するにも、魔種族の魔気を放出させてしまう戦い方では側近の人間達に影響を及ぼし、どうしても思念体とは一対一でなくてはならない。

 もし敵が以前の影問題のように複数の影を発生させれば王力の乏しい魔王と獣王、王力を使うと国が亡ぶ竜王の力。それを考慮すると解決困難は想像しやすい。


 オーリオ王子の憑きモノと、クォルテナの境壁と影生物、さらには影生物の異常発生と強力な思念体であるテンセイシャ。

 全てを照らし合わせてみても、繋がっていると考えると辻褄が合い自然だ。なら、浄化可能期間である二か月後の憑きモノは周囲に影の雑兵を発生させる可能性は高い。

 やはり無理してでも出現した憑きモノを短時間で浄化させるしか。と思われた時、何の前触れも無く一つの可能性が思いつかれた。


『ストライのアルガ』


 力任せに解決する事ばかりを考えていたゼグレスが、その一つの可能性を見出した事で、更にはピックスとヴィヴィの提案を踏まえると、どんどん対応策が考えられた。


「御二人の言う通りですね」

 二人は同時に、え? と返した。

「意固地になりすぎでした。そうですね。そういえばあそこにはマルクス殿もおりますし、自分達の力の事ばかり考え、ビルグレイン王国の兵士達の力の事を視野に入れてませんでした」

「獣王様、なんか解決の手が見つかったんですね。おいらも手伝いますので、その時は言ってください!」

 はりきってピックスは言うが、ゼグレスは頭を左右に振った。

「気遣いはありがたいが、獣族代表は私だけで参ります」

「獣王様、私もいらないという事ですか?!」

「ヴィヴィは此方の修復の手伝い、指揮、その他の用事などを任せます。一国の代表とその側近が抜けると、獣族達は不審がります。”他所に肩を入れすぎでは?”と。それに、魔王と竜王もそのようにするでしょう」


 ゼグレスはピックスと向き合った。


「失礼ながら、貴方には憑きモノ退治よりも困難な仕事を担ってほしいのですが、受けてもらえますか?」

 返事は即答。獣王の命令であるため、ピックスの気合の入り具合は明らかであった。


 ゼグレスは異空間を出現させ、折り畳んだ一枚の羊皮紙を取り出した。


「こちらに書いてある三つの品を五日以内に取ってきてほしいのですよ」

 そこに書かれた物を見た途端、ピックスに驚きと緊張が走り、ヴィヴィも目を見開いて驚いた。

「ヴィヴィは竜族であるが故、魔気の質が強すぎてそれ等の品の発育に極端な影響を及ぼしてしまい任せる事が出来ません。遺伝や習慣から、獲物を狙う狼の種族である君なら、気配を絶つことも周囲と魔気の質を同調させることも可能な君なら、取ってこれると信じております」

「で、でも獣王様。これって何に使うの?」

「ある回復液を作ります。それがビルグレイン王国を救う事に左右する重要な薬です」

 仄かに笑みを浮かべた。

「重要な役割ですよ」


 ”その期待に必ず応える”

 その一心で、ピックスは気持ちを改めて、品を採取しに向かった。


 ◇◇◇◇◇


 テンセイシャ事件後、関係した者達に大きな影響を及ぼした中、一切テンセイシャと対峙はしていないが心労を募らせる者がいた。

 闇王アウンバル。

 彼は他の七王に知られていないが、建前と本音の差がの激しい王である。


「……はい。では境壁の一件は石王の助力により解決に至っていると」

 色白の肌に白銀髪の聡明な顔立ち、紳士的衣装に眼鏡姿の男性が、通話鏡に映し出されたクォルテナと事後報告を受けていた。

「ええ。どういう風の吹き回しか分からないけど、あの誰にも協力しない石王が、なぜか獣王と話し合って今回の修繕事態を担ってくれたの」

 男性は眼鏡をクイッと上げた。

「何はともあれ、よしなに事が運んで何よりです」

「できれば、ビルグレイン王国の件の解決に、そちらからも手伝いに向かって欲しいのだけど……」

「雪王様、それは無理に御座います。闇王様もご多忙故に、また他所の地へ向かわねばなりません。時期的に無理とだけお伝えします。ご了承下さいませ」

「そうね。まあ、向こうでどうにかなると言ってたから、あまり深く考えない様にしましょ。それではこれにて失礼させてもらうわね」


 男性は深くお辞儀をし、クォルテナはそれを見て鏡を閉じた。



 男性は部屋を出て闇王アウンバルのいる王室へ向かった。


「アウンバル様、失礼します」

 部屋へ入るや、うろうろして不安がるアウンバルが、男性に向かって声高く訊いてきた。

「どうするんだバルギッド! 僕のせいで変なのが出て来たんだろ。どうにかしないと!」


 アウンバルの秘書兼世話役のバルギッドは、両掌を前に出し、アウンバルを制止した。


「ご安心を、万事無事に解決へ向かっておられます。それになんと、あの石王が境壁修繕に加担したと聞きます。未知の文明が作り上げた成果の程が不明な術技より、はるかに上出来な壁が築き上げられると思われます」

「本当か?! え、でもどうして石王が……。ああ、そんな事はどうでもいい。本当に、何の被害も無く、順調に問題が解決しているのだな?」


 バルギッドは優しく微笑んだ。

 クォルテナ経由で仕入れた情報により、獣王の城が破壊された事、クォルテナの城壁の一部が損壊したこと、ドルグァーマの国の魔人族が襲撃された事。全ての情報を伏せ、短く答えた。


「よしなに、滞りなく」

 安堵したアウンバルは、深々と椅子に腰かけた。

 闇王アウンバル。彼の本質は極度の心配性である。しかし闇王の立場としてバルギッド以外の者達の前では、強気な王を演じることが出来る……ようになった。

 側近のバルギッドは、幼少の頃よりアウンバルの面倒を見ているが故に、親心を露わにしているが、けしてアウンバルを甘やかして育てている訳ではない。かといって、むやみやたら厳しい訳でもない。


「それはさておきアウンバル様。次の遺跡へ向かう準備を致しますので、二日後まで英気を養ってくださいませ」

「はぁ!? 昨日帰って来たばかりだろ。もっと休ませてくれ!」

 バルギッドは姿勢を正して向き直った。

「宜しいですかな? 人間よりは寿命が長い魔種族ではありますが、時間というものは」

「――ああ、分かってる! 待ってくれん、というのだろ?」

「その通りです。この渓谷密集地帯の国を治めるだけでは、悪性の魔種族達が大群で攻めて来ると呑まれてしまいます。それまでにアウンバル様には強く立派になってもらわねばならないので」


 そう言われ、無理に反論すると、歴代闇王達の話まで持ちだされて説教されるため、アウンバルもこれ以上は反論せず、素直に従った。


「では、わたくしは旅の準備に取り掛かりますので」


 バルギッドが部屋を出ると、アウンバルは絨毯の上に寝転がって足をばたつかせて感情を微かに表した。


 闇王の側近・バルギッド=トーウェン。彼の中の優先順位第一位を占めているのは何を隠そうアウンバルである。アウンバルの感情の起伏、変化、更には心配性な一面が消えるまで、要所要所で難題や未知の遺跡などへの冒険させることでアウンバルを強くしている。

 それにより、闇王は放浪癖があると思われているが、その事実を知った所で詳細を一切告げない。


 彼の歪んだアウンバル愛は、恐らく彼が死ぬまで尽きないであろう事を、誰も知らない。

読み終わったら、ポイントを付けましょう!

ツイート