少年は川へ着くと、流れのゆるやかな場所を見つけて俺を手招きした。俺は思うように動かない足を引きずりながら、その場所へと下りていった。
冷たく清らかな水に足を浸すと、赤い色が透明に溶け出して流れていった。
「けっこう傷、ひどいな。ほんと、何やったんだよ」
少年は透き通る水の中にある俺の足を見て驚いた声を上げた。俺はまじまじと自分の深く抉れて組織が見える足を見た。ぼんやりと兎は走れているだろうかと思い、なんとはなしに足のすそを捲り上げてみれば、大小無数の傷が目に飛び込んできた。
『これは、いったい……』
俺は傷の痛みを感じもせず、動じることもなく、淡々としている俺自身を俯瞰した意識でぼんやりと不思議に思った。どうやら俺は自分でも知らなかったが、身体は今血を流している足以外にも傷だらけのようで、さらに自分の身体を良く見れば、腹にも胸にも無数に傷がある。この様子ではきっと背中にもあるのだろう。傷は古いものから新しいものまで、切創、擦過傷、大きな裂挫創から刺創、咬傷まで様々だ。
「お前、身体中傷だらけじゃねえか……それで良く生きてたな。もしかして罪人か? 舌も切られてんのか?」
少年は俺の傷に少し慄き、だが子供特有の好奇心には勝てないのかまじまじと俺の身体の傷を覗き込んだ。
俺は近くによってきた少年に向かって、ぱかっと口を開いてやった。
「うわ!」
突然の俺の行動に、少年は驚き手を顔の前にかざして後ずさった。
「お、脅かすんじゃねーよ」
俺はその様子に笑いながら、口の中の舌を指差してやった。
「舌はあんのか……」
少年は胸を撫で下ろしたようだったが、それが気に食わなかったらしく「お、俺は傷なんか恐くねえ。父ちゃんやじいちゃんが、お前のその腹や胸みたいに、斬られたり刺されたりして死んだけど、俺は恐がったりしなかった」と早口でまくしたてた。
俺は何か内から込み上げてくるものが、喉のつまりをおしのけようとしていたが、ついにそれが音になることはなかった。
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