緩やかな斜面を下り畑と畑の間の道を抜けて、民家のある場所までたどりつくと、今まで越えてきた山、這って登った周囲と違うにおい、気配を感じた。
俺はきょろきょろと辺りを見回した。やはり現実離れしている。コンクリートで囲まれて、土も見えない排気ガスくさい自分の生活圏とはまるで違う。年季の入った木造の家、木のある庭、納屋、そしてどことなく冷んやりとして澄んだ空気と土や草のにおい。
神田は迷うことなく、村の道を進んでいく。しばらく歩くと重要文化財指定でも受けてそうな合掌造りの古民家に、神田は吸い込まれていった。
すごいな、これ。
俺は初めて見る古民家の玄関先で足を止め、半分口をあけながらその周りや天井を見回した。
立派な造りだな。
「神田さん。いらっしゃい。遅かったね」
背後から突然声がして、俺は背筋を跳ね上げて驚いた。振り返ると、半そで短パンサンダルのごましお頭のおじさんが立っていた。
「こんにちは~ え~ 彼の歩みがなかなかの緩やかさなもので~」
「そりゃ、あの山道、普通の人にはしんどいだろ。なあ、にーちゃん?」
おじさんは、笑いながら俺に同意を求めてきた。
もちろんです。死ぬほど大変でした。はい、俺はこいつと違って普通の人です。
「え、ええ……まあ……」
俺の茶を濁すような返事に、おじさんはうんうんと頷いて「連れて来られて大変だったよなー」と家の中へ入るよう勧めてくれた。
「まあゆっくり休んでくれ。家は、ばーさんたちが掃除したし、俺も風呂直しといたから」
玄関を上がると広い居間なのかなんなのか、とにかく広い部屋があり、立派な柱が立っている。俺はやはり半分口をあけて、年季入った家だなー立派な天井だなーと部屋をぐるぐると見回していた。
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