痛みをこらえて風呂に入ったものの、身体中からわきあがる訴え、疼痛は治まらずヨレヨレと動きながら座敷へと戻って来た俺を見かねて神田がどこからか薬と氷嚢を持ってやってきた。
「ほんとにも~ からかったりするから~ バチがあたるんだよ~ あれでもあの一族の大切な御曹司なんだから~」
なにが御曹司だ。どこが御曹司だ。ただの小生意気ながきんちょだぞ。
俺は渡された氷嚢を赤くなった部分にあてがいながら、大人しく神田に背中や首に塗られていた。神田に診てもらうなんて、絶対にいやだ。丁重にお断りして自分で対処しようとしたが、兎にも角にも、痛みで腕すら満足に動かせず、背中へまわして、痛みの箇所へ薬を塗るなんて今や高等技術の状態だ。俺の体が年齢以上に柔軟性を失っているわけじゃないぞ。あくまでも痛みで。
俺がうぎぎぎぎぎ……と身体からも口からも変な音を立てる様を、最初、俺にお断りされた神田は不敵な表情で、それでも面白そうに上からの視線で(多分)見ていたが、それみたことかと「お願い、したほうがいいんじゃな~い~ 人の良心を無下にするなんてね~」と薬を俺から取り上げた。俺はちょっとした敗北感に苛まれながら、一言短く端的に詫びを述べ現在に至る。
「だいたいね~ 打撲と捻挫~ ぽっきりどころか亀裂がいっちゃってるわけでもないんだから~ 騒ぎすぎなんだよ~」
いや俺は折れてるよ。心が。
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