俺は縁側に座ってお茶と梅の菓子を勧められるままいくつも口に運んだ。前に広がる庭を透き通る水が流れるような風が抜けていく。おばあさんは相変わらず絶妙なバランスで転がりもせず、安定感ある寝姿だった。がきんちょといえば、警戒感丸出しでさくらさんの後ろに隠れながら、それでも菓子を食べていた。
なんだ、その警戒しながらも菓子を食べる姿は。ついつい俺はおかしくなってしまい小さな笑みを浮かべたらしい。
「さくら……やっぱそいつ変だぞ。気持ち悪い顔してるぞ」
こら。気持ち悪い顔ってなんだ。これは微笑ってやつだ。
「しゅうちゃん」
咎めるようにさくらさんががきんちょの名を呼ぶ。
「だって、なんでこいつ来たの? 久し振りのお客って、俺知らない。かんだじゃないし」
「神田を知ってるのか?」
「かんだ、くえないやつ」
「おまえ、いいこというね!」
「!」
うっかり俺の質問に答えてしまったことに気付いたがきんちょは、今度はさくらさんの後ろに隠れたうえに俺に背を向けてしまった。丸めた背中のついでに尻尾までまるめたような小さなまんじゅうみたいな後姿がなんとも可愛く思え、俺はやはりあくまで微笑を浮かべた。
「神田はよく来るんですか」
俺はさくらさんとその後ろに隠れたまんじゅうに尋ねてみた。
「ときどき。お一人だったり、どなたかを山へ連れてきたり、連れていったりしながらここへ寄られます」
あいつ、俺以外にもこんな山へ誘う友達いたんだな。あのよくつるんでる連中だろうか。とてもアウトドアするようには見えなかったけど。
「あいつに連れてこられるやつ、大変だと思いますよ。俺も体力に自信がないわけじゃないですけどね。この山を登るのはかなり大変でした。途中の定食屋でね、鬼に気をつけろなんて脅かされたりしてね。でもまあ、こうしてここへ来られたのも何かの縁といいますか、お会いできて幸いですといいますか……」
俺はまたなんだかよくわけのわからないことを言い始めようとしていた。
「鬼の話……」
「え?」
「鬼の話、聞かれたんですか」
「え、ええ。聞いたというか、この山に入る手前の定食者のおやじがね。鬼に食われるなとかなんとか。おやじが僕をからかったんでしょうが、そんな鬼なんているわけなし。僕は信じませんでした。神田のやつは、オニカって言う蚊のことだ、なんて言ってましたけどね」
「そうですか。おくまのご主人そんなことを……」
「おくまのやつ、かんだにちょっかい出したー もーくわれちゃうぞー」
がきんちょがなぜか楽しそうに足をばたつかせた。そして「もうひとつ菓子ちょうだい」とさくらさんにねだった。さくらさんは「お行儀悪いですよ」と言いながら、菓子を一つがきんちょの皿に載せると、俺の方へ向き直った。
「鬼は本当にいるんですよ」
「はい? えっと、鬼がですか。どこに?」
「ここに」
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