テーブルに並んだ食事を見て感動した。なんだこのご馳走然としたご馳走は。こんなちゃんとした食事、最近とんと見ていない。だいたい俺の日常は学食が開いてる期間はまだマシだが、そうでもなければ近所のスーパーに出掛けた俺が知恵をしぼりにしぼって作るコスパ最優先の俺的料理だ。
獲りたてだというヤマメの塩焼き。美味い。しかし……ヤマメってこんな味の魚だったんだな。子供の頃、遊びに行った川で魚釣りをしたものの全然連れなかった。ボウズのまんましょぼくれて帰ろうとした俺を、同じ川で釣っていた人が、見かねて何匹かくれたんだっけ。俺、どんだけ悲壮感漂ってたんだろう。それがこのヤマメだったのかどうだったのかは、俺は正直覚えてないが……ばあちゃんが夕飯はヤマメだと言って出てきた焼き魚はうまかった。味までは思い出せないがきっと今食べているこの魚の味がしたんだろうな。米を口に入れた後に手を伸ばしたこの小鉢にもられた芋の煮付けも美味い。
「これ、この辺の特産なんだよ~」
芋の煮っころがしをさもうまそうに神田は口に放り込んだ。
「へ~。この辺、特産多いんだな。それにどれもうまい」
「山が育って大切にされてきたからね~」
「なるほどなあ。水もうまいし、水がきれいだと食べ物ってうまいのかな」
俺は舌鼓を打ちながら、おかず、米、味噌汁とローテを守って口に運んだ。
盆の上の定食があらかたなくなった頃、おじさんは手打ちだと言う蕎麦と、普段は見ることのないきれいな薄緑色の本わさびを持ってきた。
おぉ。本物のわさびだ。
「そのわさびもね、この辺の特産なんだよ」
おじさんの一言に小さく感動した俺は神田の注文した特盛の蕎麦を見て、違う意味で感動した。
え? 特盛ってそっち?
意外にも蕎麦の盛は普通だった。だが別皿に積み上げられたアゲは、積層木材、合板の塊みたいだった。
おいおい神田よ。それはもうキツネ蕎麦じゃねえよ。その木材みたいなアゲを、お前、どうしようってんだ。それ、蕎麦に乗っけたら蕎麦、重みで苦しんじゃうよ。そのアゲもう蕎麦のトッピングじゃないよな。むしろ煮付けたアゲのトッピングが蕎麦だ。
言ってやろうかと思ったが、合板アゲを前にパァっと何かが弾けたようなやたら幸せそうに破顔した男を見て俺は何も言わずわさびをすることにした。
わさびってちょっと蛸の足みたいだよな。とかどうでもいいことを考えながら。
わさびをするとなんとも言えないいい匂いがした。一皿分をすり終えて神田へ渡す。
「きみ、こういうとこ気が利くよね~」
アゲでぽわぽわになった神田は小皿を受け取りながら言う。
「ん? 別に普通だろ」
俺は自分の分をする作業にとりかかった。
「そ~かな~ きみ、もっと自覚をもってもいいんじゃな~い?」
「自覚? なんのだ」
「普通に~ いいひとっていう自覚~」
「なに言ってんだ。普通ってなんだ。俺はいい人間だ。普通っていうか、きっとすごくいい人間だ。多分な。だいたいな神田、お前がつるんでるあいつらが特殊すぎなんだよ」
「ん~ ま~ 彼らは特殊っていうか~ 異常かな~ 普通っていうのは~」
よくよくつるんでいる恐らく友達であろう人間をさらりと異常と呼ぶ男だから、普通って言われた俺はマシな気がしたので「うん。俺、普通でいいわ。蕎麦、食おうぜ」と、すったわさびを蕎麦猪口のへりにのせた。
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