獣の背に乗せられて運ばれて見える風景はとても不思議な風景だった。周囲の生茂る植物が岩や土があらゆるものが絵巻に描かれた絵画のように厚みを失い薄く姿を変えると、外側が剥がれた走馬灯のように流れてゆく。その流れを追い、後ろを見てみれば、描かれていた色彩が溶けだし極彩色の液体の流れを作っていた。決して逆流することのない流れ。全てが、何もかもがその流れに戻ることを俺は知っている。その先に何があるのかも。俺は腹を空かすと同時にひどく喉が渇いていることに気付いた。その流れを飲み干してしまいたいと思うほどに。
「小さなものがいくら騒いだところで君を満たすだけの力には到底なり得ない」
獣は前を向いたまま、背中に俺に語りかける。
俺は何も答えず、相手が喋るままに任せていた。
「ただでさえ腹を空かしていると言うのに、魂の清浄を待つなど悠長な事をしていては君の虚は永久に埋まらないだろう。永遠に繰り返すつもりなのか?」
永遠に? ……ぞっとしないな。
俺はまるで永遠を知る何かのようにその深さを想像して呟いた。
「君のように孤独を嫌うものが、なぜ静寂を求める? 新たな魂がいっとき与えられた定量を、使い切ろうが途絶されようが根源に#還帰__かえ__#るその刹那に、静謐で穏やかな最期など君には寂しいばかりだろう? 傷と薄汚れた魂の汚れを君が肩代わりする価値があるとは到底思えない」
その顔は見えないが獣は憎々しげに鼻に皺を寄せた気がした。
「余程、#ロクでもない__・__#人間があらん限りの力を使う叫び声が饗宴のごとく響いていた方が賑やかじゃないか。その腹の中でね」
この獣は、いったい何を言っているのだろう。
俺は背中で揺られながら、自分の名前も思い出せないまま、これは夢だと。
そう願った。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!