俺が夢だと願うことを見透かしたように、ますます獣はよく喋る。
「ここの循環は早い。もうすでに君のことなどとうの昔に忘れ、なぜ自分たちが存在しているのか、存在できているのかすら覚えはていまい」
循環。
そうだ。この世界で生まれたものものたちは、その形を失うまでの間、内包する力で形を維持し存在している。そしてこの世界はその力を循環させて存在している。止まることは出来ない。
けれどその根源へと還帰る時、穏やかで安らかな旅立ちを見送りたいと思うのは俺のわがままだろうか。ほんの束の間、存在しその形を保てなくなるその時まで、余すことなく持ち合わせた力を使い果たす。そして失う形とともに想いも残すことなく新たな存在へと向かってほしいと願うのは。
その途中、理不尽にも断ち切られた余力を無闇にこの狭間へ留め、水溜りのように流れから離れ濁り腐る必要はない。その手を離すまいと叫び、呪い、恨み、がんじがらめになった苦痛に顔を歪める必要はない。この世界の流れは、どうあったとしても、彼らにどんな時代が来ようとも一時も止まることはない。彼らの最期は満たされた中その清流にそっと静かに足をつけるのがいい。
そのために、あとほんの少し走りたいと願うなら、俺は別に構わない。俺にはいくらでも待つだけの時間があるのだから。
ああ。だけど。
「そんなに腹を空かせているなら、想いを残すものを待つのではなく、想いを残させた奴を食べてしまえばいいものを。生きがいいうちに一飲みにしてしまえば、腑の中で溶けるまでさぞかし賑やかだろうし、その方がよほど効率が良いというものだ。所詮この世界は食べること、つまりは死を向かえることで廻っているのだから。何を戸惑う。とっくに君は鬼だと言うのに」
鬼? 俺が?
「そうだ。鬼でないなら死神はどうだ?」
獣は俺の疑問が大層面白かったようで、その背が笑っているように震えた。
「もっとも今の君は、自分がなにものであるか、君自身覚えていないのだろうけどね」
覚えていない。そうだ。俺はいったい。
読み終わったら、ポイントを付けましょう!