盛大にあたふたとした俺に「まあ、がんばんな」と言って、源五郎さんはまた歩き始めた。俺は源五郎さんの背中にゆっくりとついて歩きながら、昔を思い出していた。遠い昔。水の音。子供の声。それはノスタルジーを通り越して俺はだんだんとこの背中を知っているような気にさえなってきてしまった。
も、もしかして。勝手におじさんとか思ってるけど、実は俺とそんなに年齢が変わらなかったりして……。実は本当に子供の頃遊んだことのある人だったりして……。
まさかと思いつつも、俺は源五郎さんのごま塩頭を眺めつつ、奥底に沈んだ記憶を引き上げようと頭の中でもがいていた。
「俺もなあ。あいつに、あの見たこともないよう珍しいきれいな蝶を渡してやりたかったけどなあ」
肩にかついでいた網を軽く頭の上で左右に振って、ぽつりと源五郎さんは喋り始めた。
「ばあちゃんが、同じ名前だから、呼ばれやすいから気を付けろって言ってたけど、そんなことあるわけねえって、俺、いっつもぜんぜん気にしてなかったよ。そういや、あんたに初めて会ったときも、あの滝の近くだったよ。俺が仕掛けた罠を見に行ったときだ。あんたはそのすぐそばに立っていた」
思い出したかい? そう言ってくるりと振り向いた源五郎さんのその姿はなく、坊主頭のわんぱくそのものな少年が俺を見て笑っていた。
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